襲撃
「リリアは俺にしっかり捕まってて。」
ハーティは自分の腰を持つようにリリアに促した。
〈では行くぞ〉
そう言った途端、景色が物凄い速さで流れ出した。目を瞑らないと耐えられないほどだ。風で周りの音も聞こえない。
数分が過ぎた頃、景色が判別できるくらいの速さになった。よく見ればここはダスティカ渓谷の出口だ。
そして少しするとリョクの足が止まった。
〈着いたぞ〉
「…ほんとにすぐ着いた」
ハーティはリョクから飛び降りると、リリアに手を貸し地面へと降ろした。
〈私は目立つ故、隠れている。帰る頃またここへ戻ってくる〉
そう言うとリョクは街とは反対方向へ走っていった。
その後ろ姿を見届け、二人は街の方へ振り返る。
「なんだか帰って来るの久しぶりな気がする。」
「色々あったし、そう感じるのも無理ないよ。」
二人が歩き出そうとしたその時、黒い蛇がハーティに襲いかかった。
「どこ行くんですかーお嬢サマ。」
瞬時に飛びのいたハーティの前には見覚えある顔。
「駄目じゃないですかー、おうちから勝手に出ちゃ。ユトが悲しがってますよー。さ、お嬢サマ、帰りましょう。」
蛇男は薄い笑みを浮かべ、リリアに手を差し出す。
「わ、私は戻りません。お兄様を殺したあなた達のところへなど。」
「いやいや、何を言ってるんです?殺したのはそちらの国のヤツですよ?」
「な、お前達がシュウさんを仕向けたんだろ!?」
「アレアレ?知らないのか?お嬢サマは病気だったとこを、ユトが助けたんだぞー。実際、元気になっただろ?お嬢サマ。そんでもって、お兄サマがセスティアに行っている間、献身的にお嬢サマの世話までしてたのにー。そんな言い方ないんじゃないの?」
「お兄様はナルクスさんに助けを求めていたわ!ほんとはハーク様に危害を加えたかったんじゃない!私を人質に脅されていたんでしょう!?」
「え〜ソレ信じんの?全部セスティアの国の言ったことや、やったことでしょー?嘘かもしれないじゃん。」
「あのペンダントは…あの字は!お兄様のものよ、間違いない!それは妹の私が1番わかってる…!」
ハァーと蛇男がため息をつく。
「もういいや。力づくで連れて帰る。あとで、たっぷりユトから話を聞きなー。」
蛇男がリリアに近づく。しかし、リリアとの間にハーティが立ち塞がった。
「そんなにお嬢サマにご執着?」
「お前達に彼女は渡さない。」
「ハイハイ、んじゃ先に………殺ッてやるよ!!」
黒蛇がハーティ目掛けて飛びかかり、大きな口を開け牙を向けた。ハーティは短剣に蛇を噛みつかせ攻撃を避けたが、その隙に蛇男がリリアに迫る。ハーティは短剣を大きく振り蛇を投げ飛ばし、蛇男に短剣を向けた。
「おせぇんだよ!」
蛇男が短剣を蹴り上げる。ハーティの手から飛ばされた剣は宙に舞い上がった。
「くっ!!」
男の腕が伸ばされハーティが怯んだ瞬間、上空で短剣が青光りし、蛇男目掛けて一直線に落ちてきた。蛇男はとっさに動いたが、短剣は彼の右上腕を貫いていた。
「んだ!?この剣!チィッ!」
蛇男は短剣を引き抜き地面に投げつけた。
血がボタボタと流れ落ちる。
「クソッ。」
ハァハァと息を切らす男に黒蛇が這い寄り、出血箇所の上部を巻き上げる。
蛇男は腕を押さえながら、その場から姿を消した。
「ハーティ!大丈夫!?」
リリアが心配そうに声をかける。
「俺は大丈夫。でも一体なにが…?」
投げ捨てられた剣は青く発光していたが、すぐに元に戻った。
「この剣…勝手に動いた…?」
短剣を拾い上げ、裏表と返しながら見てみたが、別段おかしなところはない。
ハーティは短剣を鞘にしまい、男の消えた方向を見つめた。
『リリアのこと力ずくでも連れ帰ろうとしてた。何が目的なんだ?リリアにアイツらが求めるような特別な何かが…?』
「ハーティ…?」
リリアが心配そうに見つめる。
「ごめん、なんでもない。とにかく街に行こう。ここよりは安全なはずだ。」