出会い
「起きろー」
ガンっと体を蹴られハーティは目を覚ました。
目の前にはさっきの声の主であろう細目の男と、もう一人男が座っていた。そう、シュウをセスティアに行かせたあの男。
「何をしていたのですか?」
座っている男が話しかけた。その視線は凍りそうなほど冷酷だ。
「あなたはどこから来たのでしょう?セスティア?」
ハーティは沈黙したままだった。
「喋れって!」
またも体をガンッと蹴られる。口から血が流れ、痛みに悶える。しかし相手が誰かわからない以上話すわけにはいかない。
「喋らないということは喋れない立場にいるということ。普通に考えてセスティア国の者でしょう。事件を起こした犯人のことを調べに来たのかと。」
ハーティは言葉を放たず、ひたすら男を睨む。
「セスティア国の者なら人質価値はありそうですね。少し捕えておきましょうか。」
「さっさと殺した方がよくねー?価値あるかコイツ。」
「それを決めるのはセスティア国です。私達ではありません。」
「へいへーい。」
牢獄へと入れられたハーティはここから逃げ出すことを考えていた。手足は鎖に繋がれている。短剣は取られてしまったが、幸いあの小ビンは取られていない。
首を横にし、襟下から短い針金を口で抜く。それを手に飛ばし手の錠の鍵口に挿し込む。
「もうちょっと…」
カチッと音がして、錠が開く。近くに誰もいないのを確認し、他の錠も器用に外していく。
自由になったハーティは牢の扉へ向かい、外を伺った。
アイツがいる…。
ここから距離はあるが、別の部屋への入り口の横に細目の蛇男が座って何かを見ている。
どこかから獣の呻き声のようなものも聞こえる。
「グゥガゥゥガァァァァ!」
「ったく、どんどん安定できなくなってんじゃねーか。もう処分でいいのになー」
そう言いながら呻き声をあげている檻の方へ向かう。そして声を発してるものの口に何かを投げ込んだ。
この間、ハーティは牢の扉の鍵を溶かし、蛇男の隙を見ながら、別の部屋へと移動することに成功していた。もちろん牢の外にあった短剣も回収して。
「なんだよ、アレ…」
先程一瞬だが遠目から蛇男のいる檻が見えた。そこには生き物とは言い難い皮膚が溶けたような得体の知れない塊が蠢いていた。
…………とにかく出口を探さないと。
廊下に出て窓の外を見る。どうやら1番上の階にいるらしい。するとやや下の階の窓に栗色の髪の女の子が立ってるのが見えた。
「あれは!」
そう、シュウの妹リリアだ。
ハーティは窓から外に出て、リリアのいる部屋へ壁伝いに降りていく。しかし到着する頃には、もう彼女の姿はなかった。窓から中の様子を伺う。どうやら、彼女は奥の部屋にいるらしい。
窓から侵入し音を立てずリリアへ近づく。そして口を塞いだ。
「!??」
「静かに。声を出さずに聞いて。あんた、シュウさんの妹だろ。」
口を塞いでない方の手でロケットペンダントを妹に見せる。
妹は目を見開いた。そこには自分の写真と『たすけて』の文字が。このペンダントは間違いなく兄のものだ。
「ここにいると殺される。一緒に来てもらえる?」
リリアは混乱しながらも頷く。そしてハーティは彼女を連れ、窓から逃げ出したのだった。