妹の行方
「先生、用って何?」
「ハーティ、いらっしゃい。あのね、お出かけしてもらいたくて。」
ナルクスはハーティと呼ばれた短眉の男の子にペンダントを渡した。
「……これなに?うーん?ロケットペンダント?女の子が写ってる。たすけて?」
「これね、シュウ君が内緒で僕に渡してきたの。たぶん妹さんが人質に取られてる。引き換えにここに来させられたんだろう。」
「テロじゃない?」
「シュウ君がこんなことするとは思えない。理由がないしメリットもない。そう、だから調べてきてもらいたくて。」
「……了解です、この妹を探しにいけばいいんですね。はぁ…、これしか手がかり無いのに無謀な…。先生はいっつも難題押し付けるんだから。」
ハーティは文句を言いつつもペンダントをポケットに入れ、扉を開ける。
「あ!そうそう、これをあげよう。」
ハーティが振り向いた、その横をすり抜け短剣が壁に刺さる。顔との距離はわずか1cmほど。
ハーティは呆れ顔をしながら、短剣を抜き取った。
「…ありがとうございます。」
ハーティは思った。なんでこんな人が偉い人やってるんだろうと。いや、実際偉いし凄い人なんだけど。
ハーティは自室へ戻り準備を始めた。こんなことが起きた後だ。ラグバーツへ行くのは容易ではない。
「確かシュウさんが住んでるのマリの町だっけ。普通の道は通れないだろうしダスティカ渓谷を越えていくしかないか。」
「チャーオー」
「うわ!?」
いつの間にか横に白衣を着たゴーグルの男の子が立っていた。白衣には黒い汚れや変な色のシミがいろいろ付いている。
「スズ!脅かすなよ。」
「まーた、先生に厄介事押し付けられたんでしょー。そんな可哀想なハーティ君にプレゼント。」
スズはポケットから小ビンを取り出す。
「コレ、俺が開発した特殊液ー。1滴で紙でも木でも金属でもなんでーも溶かせるよ。もちろん皮膚も溶かすから直接触らないように!
そしてそして、もう1度かけると、なんと!元に戻る!すごい〜!」
「このビンは溶けないのか?」
「フッフッフ、そこはぬかりなし!ね、渓谷抜けるんでしょ?あそこ変な木がいっぱい生えてるから、それで道作りながら行くといいよ。」
「サンキュ。助かる。」
「気をつけてね。キールがいれば一緒に行ったのにね。」
「キールは忙しいからな。今頃アンスティ様の文句ブツブツ言いながら働いてるよ。」
「その光景すんごい想像できるー。」
ダスティカ渓谷を抜け、マリの町に到着したハーティはシュウの家を探していた。もう皆寝静まってる時間だ。
「うーん、アレか。」
中心から少し離れた位置に建つ赤い屋根の小さめな家。先生の話ではここがシュウの家らしい。
扉に手をかける。鍵はかかっているようだ。灯りもない。
……部屋に入るか。
ハーティは窓の鍵周りに小ビンの液を塗りガラスを溶かす。鍵を開け、中に入る。
部屋を廻ったが誰もいない。
「なにか手がかりは…」
戸棚に手をかけようとした瞬間、何かが首に巻き付いた。視界に入ってきたのは舌を出してる蛇の顔。
「っ!!」
「みんな寝てるから静かにー。ダメだぜードロボーしちゃー。」
蛇が首を締め付け息ができない。そのままハーティは気を失った。