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転生の裏庭  作者: rinluu
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始まりの事件

藁にもすがる思いだった。大事な妹が原因不明の発熱で、何日もうなされ続けている。薬が一切効かず、町の医者は皆お手上状態だった。

「リリア………」

困り果てていたその時、一人の男が声をかけてきた。

「あの…、もしかしたら家にある薬草が効くかもしれません。」

端正な顔立ちで、町では見たことのない男だった。

シュウは考えてる余裕など無かった。今すぐにでも助けてやらねば妹は体力がもたない。

「あぁ、お願いします…!」

「では、私の家へ彼女を連れて来ていただけますか?家まで少し距離があるので、一刻も早く飲ませたいなら、それが一番早いかと。」



薬草を飲ませてしばらく、妹のリリアは顔色がすっかりよくなり、呼吸も整っていた。

シュウはリリアの顔を見てホッと息を吐き、男へと声をかけた。

「本当にありがとうございました。なんとお礼を申せば…。」

「いえ、本当によかったです。まだ体力が回復していないでしょうし、今晩はどうぞお泊まりください。あ、そうそう…」

男は手元から小包を取り出した。

「貴方にお願いがあります。セスティア国のハーク様にお渡し願いたいのです。薬師のルグよりと言えば伝わるはずです。私は薬草の世話でなかなか家を空けれないもので…。」

セスティアは、ここラグバーツの東隣の国である。シュウはラグバーツの外交官長なので、セスティアの上の者たちにも顔を知られており、会うことは難しくない。

「えぇ、もちろん構いません。」

「妹君はまだ目覚めぬと思われます。私が付き添いますので、今から行っていただいても?」

「今から?いや、妹が目覚めるまで待っていただけませんか?私がいないと不安がるでしょうし、起きて説明した後に出掛けたい。」

その言葉を聞いた途端、どこからともなく蔦が伸びリリアの首に絡みついた。

「なんだ!?蔦が!」

締め付ける蔦にリリアが苦しみだす。

シュウが蔦を掴みながら男の方を見ると、別人のような冷たい笑みを浮かべている。

「これはお願いではありますが、貴方に拒否権は無いかと?せっかく助かった妹君の命を無駄にされるおつもりですか?」

「どういうつもりだ!蔦はあんたの仕業か!?止めてくれ!」

「貴方に拒否権はないと言ったでしょう。さぁ。」

蔦がリリア目掛けて近づいている。その鋭い蔦先が彼女の瞳のすぐ側まで迫る。

「わかった!頼むから蔦を外してくれ!」

男が微笑むと同時に蔦はゆるみ、壁の隙間へと消えていく。

「では、お願いいたします。」

シュウは横たわるリリアの頭を優しく撫で、小さく「行ってくる」と囁いた。

シュウは男を睨みつけ、部屋の扉から出ていく。

「彼を送ってさしあげて」

いつの間にか近くに立っていた細目の男は「りょーかい」と面倒くさそうに返事をし、シュウの後を追った。


「……やっと始まる。」

男はリリアの頬を慈しむように撫で、柔らかい笑みを浮かべるのであった。



「こっからすぐだろ。あ、変な真似すんなよー。蛇付けるからな。」

男の背中から黒い蛇が現れる。黒蛇はシュウの近くまで這っていき、舌を垂らしながら彼を見つめている。

「じゃあ、よろしくね、おにいさん。」

ニヤニヤしながら男は姿を消していく。

シュウは見慣れた道を進む。セスティア城まではここから歩いてそう遠くはない。

黒蛇はある程度の距離を空けてついてくる。その視線は絡みつくような、さっきの男のニヤついた瞳のようだ。


……………俺は死ぬのだろう。

あぁリリアをなんとか助けなければ。



「あれ?お久しぶり!シュウ君じゃない。」

セスティア城の廊下にて、歩いていたシュウにローブ姿の男が近づいてくる。

「ナルクス様!ご無沙汰してます。」

2人は握手を交わす。

「今日はどうしたの?」

「ハーク様にお届けものがあり、参りました。」

「そかそか、ご苦労さん。またゆっくり話しようね〜。」

そのままナルクスは少し離れた自室へと向かう。扉を閉め握った手を開ける。

「うん?これはペンダント?」

実は握手の瞬間、シュウはナルクスにペンダントを渡していた。

「うーん??あ、」

パカッと蓋が開く。中にはシュウの妹リリアの写真。そしてそこには走り書きで『たすけて』と書いてあった。

「これは………………まずい!」

ナルクスは部屋を飛び出した。



「シュウ、久しぶりですね。遠方からの来訪、感謝いたします。」

「ハーク様、お元気そうで何よりです。」

笑みを浮かべるシュウの顔が一瞬曇る。

「…ルグ様よりお届けものです。」

「あぁルグから。またいい薬ができたのでしょうか。」

ハークが箱を受け取る。その瞬間、無数の蔦が箱から這い出し、ハークの胸を突き刺した。

「ハーク様!!!」傍にいた兵士が叫ぶ。

その刹那、シュウは口から大量の血を吐いていた。鋭い槍が体を貫通している。黒いフードに面をつけた男がその槍を引き抜く。その場に倒れ込んだシュウは薄れゆく意識の中、妹の顔を思い出していた。

「……リリア……」

その声は慌ただしい部屋の中では、誰にも届かなかった。


扉を開く音。

その惨事を目の当たりにしたナルクスは言葉を失った。

遅かった。

「…………私は…大丈夫で……す」

「…!?ハーク様!!!誰か!すぐエリーズを呼んできて!」

ハークは表情がおかしかったシュウに警戒して箱を受け取る時に力を使っていた。力により行き先を曲げられた蔦はハークの心臓の少し横を貫通したのだった。

ハークは事切れてるシュウを見つめ悲しい表情を浮かべる。

なぜ、こんなことに……。



セスティアは国王がいない代わりに三賢人と呼ばれる代表者で国をまとめている。現在はハークと他にアンスティ、マーが勤めている。そしてその下に賢護人と呼ばれる者達がおり、ナルクスがそれに当たる。

もともと戦争を行っていたセスティアとラグバーツだが、10年前にラグバーツの前国王が内乱により殺され、それにより一旦の休戦となり、その後は平和条約を結び外交を行うまでに関係は回復していた。

しかし、この事件でラグバーツはセスティアを完全に敵に回してしまった。なんせ両国を結ぶべき外交官長がテロ事件を起こしてしまったのだから。


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