第16話 雑談に花を咲かせたものの
俺は、爺の……、あ、いや、理事長なんだけどよ。その爺が、まあ、爺でいいか。爺が言った’ファブロ迷宮’と言う言葉に、暫く考えを巡らせる振りをして、扉を進み爺の机の前にある応接セットでいいのか? その三人掛けくらいのソファの上にドカッと座って、顔は天井を向き、腕組みをして……、黙って座っていた。
爺はというと、
「あの、アーサーくん?」
「……」
「アーサー様?」
「なんだ」
爺の呼び掛けに仕方ねぇえから返事をしてやる。
「ファブロ迷宮のことなんだけどね?」
「……」
「あの、ファブロ迷宮……、あ、いや、プリン食べる?」
「プリンだと?」
し、しまったぁぁあ! 俺。爺が言う、プリンという単語にぃいい返事をしてしまったぁあああ。
「そう、プ・リ・ン」
「クッ」
俺は、そっぽを向く。
「アーサー、爺いじめも程ほどにせんか」
「え? 陛下?」
「兄さん、まだ、出て来ないでよ」
「ふむ、しかしなぁ、お前はアーサーを甘やかして直ぐにプリンで釣るからなぁ」
「だって、兄さん、彼、プリンで釣れるから」
「それはそうなんだが……」
「ちょっとぉ!!!」
俺の目の前には、爺が一人増えて二人。ああ、最初から居たのかもしれねぇえが……、’ファブロ迷宮’という単語で俺はソファに座りそっぽを向いていたからなぁあ。
この爺たちだが、俺がさっき陛下と言ったのが、このジュエル王国の前王だ。そして、この爺どもは双子なのである。理事長をしているのが弟のフィンネル・ジュエルで、兄のファンデル・ジュエルは、隠居をしている。まあ、お忍びであっちこっちに行っているという噂だが……、どこぞの世直し爺のようである。あれは時代劇だったか……。
そして、俺がなんでこんなにも偉そうにしていられるかというとだな、この歳にして俺はこの世界の英雄なのだ。ああ、大袈裟かもしれねぇが、転生者の俺は幼い時に自分が転生者だと自覚をしていたため、’カロン’と呼ばれた流行病を治すことが出来たのだ。その病は、高熱が数日間出てそれを耐え抜けば治るのだが……、例えるなら風邪みたいなものか。その高熱が出た時の対処方法をこの世界の者は知らなかった。そして人から人へ感染していることもましてや知らない。その辺をだな……、もう皆まで言わずとも解るな? まあ、だから、この世界で初めて’カロン病’に打ち勝つことが出来る知恵を授けた英雄が、俺だ。
そして、この話には続きがある。俺のじいちゃんとこの国の双子の爺たちは、仲がいい。それで風の噂に、ジュエル王国が’カロン病’に苦しんでいると聞き、俺を連れてじいちゃんはこの国を訪問、病から解放した。その時、’カロン病’に掛かっていたアンジェリールも含めてな。
だから俺は踏ん反り返っていられる訳だが……。
「あ~もう~、プリンは食うけどよ、なんで俺がこんな態度なのに怒らねぇ~の? 理事長、陛下」
「え゛?」
「え゛?」
流石に双子、声が揃ってやがる。
「あら、叱って欲しいのアーサー」
「いや、そういうことじゃねぇ~よ」
「そうだなぁ~、我はあちこち旅をして、アーサーの功績の大きさに触れる度に、その年若きお前がその重責に堪え、更に精進している姿を見るとだな、つい……、甘やかしたくなるのだがなぁ……」
「そうなのよ、兄さん。この子ったらね、このジュエル王立学園でも一番人気だし、勉学武術とも、成績は優秀でねぇ~。弟たちの面倒もよく見てね、絵に描いた神童のような子でしょう? ついね、私も甘やかしたくなるのよね、はい、プリン。あ、このプリンスペシャルね、味見と名前を付けて欲しいそうよ」
「ふむ」
俺は偉そうに返事をするがぁあああ、爺ぃいいいいいい、ありがとうぉおおおお。と、心の中で泣いたぁあああ。
「その……、色々とありがとうございます。頂きまっすぅ~」
照れ隠しの礼しか言えねぇ~俺だが、爺たちは涙ぐむ。あ~もうぉお~~なんて良い爺さんたちなんだぁああ。
「美味いなこのプリン、甘さが絶妙だ。この味は最近入った新しい店舗か? このプリンに添えてあるフルーツは、春限定とプラスアルファといったところかな」
「そうなのよ!」
理事長が相づちを打つ、
「そうだな、春限定を前面に打ち出して、添えてあるフルーツをイチゴとキウイに絞ってだな、旬のフルーツだ、値も安価でいけると思う。後はピンク色のアイスクリームを添えよう、ソースはチョコレートが良いだろう、それでコースターとナプキンを淡いピンクかミントグリーンにするのはどうだ? 名前は、カリーナプリンスペシャルとかどうだ?」
俺は思い付くことを言った、カリーナ(Carina)はイタリア語で可愛いという意味だ。
「あら、良いわね、アーサー。やっぱりフルーツは盛りすぎだった?」
「そうだなぁ~、見た目も色が一杯で見栄えがしないしな、それに新店舗だ。学園の皆に覚えてもらわねぇ~とな」
「ふむふむ、伝えておくわ、いつもありがとうね、アーサー」
「いや、爺の依頼で俺は助かっているんだ、その、色々と割り引いて貰ったりな」
「あら、仕事として受けても良いのよ」
「それはやらねぇ~、世話になっている学園だ。だってこの学園は殆ど無料じゃないか! そこで金を取るなんざ、罰が当たらぁあ」
「それとこれとは別と考えて良いんだけどねぇ~」
俺たちは雑談に花を咲かせている。まあ、一仕事したけどよ! 分かっているんだ。’ファブロ迷宮’の話しをしたかねぇえてことなんだ。
リカルドが言っていた噂、最近、迷宮に入ったD部隊の全滅は本当だったんだろう。重い話しになりそうだ。
俺は腹を括る。腹を括って、
「プリンスペシャル、美味かったよ。代金の支払いはしなきゃな……、なあ、噂で聞いたんだが……、ああ、’ファブロ迷宮’の噂だ。最近、迷宮に入った部隊も全滅したんだろ? 詳しく話せよ。俺の力が必要なんだろ? 特によ、聖剣エクスカリバーの力が……」
「ふむ。そうなのよね、兄さん。私たちも腰を据えて話しましょう、兄さんが手に入れた、その迷宮の地図を持って来て」
「ああ」
俺たちは、陛下が持って来た’ファブロ迷宮’の地図をテーブルの上に広げ、
「それからな、アーサー、現在分かっている死亡者とその者の武術の経験や武器防具のリストだ。行方不明者のものもある、目を通してくれ」
「分かった」
俺はテーブルの上に広げられた迷宮の地図と、渡されたリストを交互に見ながら頭に入れていった。そして、
「話しを聞かせてくれ」
と言った。




