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#6、グラットン帝国



ズブズブと低い音を立て、倒れたアルパカザリガニの額から、鶏の卵位の大きさの黒い宝珠のような物が出てきた。


「うわ、何あれ。」


「あぁ、コロちゃんは〝魔核〟を見るのは初めてですか。

魔害獣を倒すと出てくる物体で、中に高密度のエネルギーが内包されているんです。

賞金稼ぎは基本的に、討伐証明としてこれをギルドに持ち帰って、換金して貰う事で、依頼達成という運びになりますね。

ほら、魔核の中を見てみると、アルパカザリガニが薄ら浮かんで見えるでしょう。」


興味津々なコロちゃんの顔に魔核を近付ける。


「…本当だ。アルパカザリガニが、こっち見ながら走ってきてる。

これって、魔核の中で生きてるって事なの?」


「いえ、その映ってるのは、いわば残留思念のようなものでしょうか。」


原理は詳しく知らないけど、魔核には魔害獣の生命エネルギーが詰まっているらしい。

それを帝国がエネルギー資源として利用してて、賞金稼ぎギルドを通じて回収してるんだとか。

そして、魔核の中に浮かび上がる魔害獣の姿が、その魔害獣を倒した何よりの証拠になる。


「取り敢えず、それを売ればお金になるので、一応取っておきましょう。」


「分かったわ。」


私は馬車に乗り直し、再び北へとマックス君を走らせた。











◆◆


森を抜けられないまま、遂に夜を迎えた。

木々深い森の中、月明かりを隠す森の中は、完全に暗闇に包まれる。


「今日は、この辺りで休みましょうか。」


「そうね、異議無し。」


私達は馬車を停め、降りる。

今日は本当に色々あり過ぎて、疲れがどっと出てきた。


「そう言えばアディーナ、アカシさんから貰ったあの箱、結局何が入ってたの?」


「ああ、そんなのありましたね。

私もまだ見てなかったので、ちょっくら確認してみましょうか。」


私は手持ちランタンに明かりを灯し、馬車に積んである荷物を物色、例の段ボール箱を見つけ出した。


開けてみると、中にはテントの設営に使うペグめいた物が四本と、赤いスイッチが一つだけ付いたリモコンのような物。

説明書らしき紙切れが一枚だけ入っていた。


「何ですか、これ?」


「アタシが分かる訳ないじゃない。」


「取り敢えず、説明書を読んでみましょう。」


説明書には、これがどういった物なのかは書いておらず、使用方法だけが書かれていた。


「…えっと、まずはこのペグみたいなのを地面に四つ刺して正方形を作ります。

その中に入ってボタンを押せばOK、とだけ書いてあります。」


「何その使い方。ますます意味が分からない。」


「でも、ボタンを押すのって何だかワクワクしますよね。

何が起こるのか楽しみです。」


目を輝かせる私とは対照的に、コロちゃんは怪訝そうな顔をしている。


「…アタシは逆ね。スイッチは嫌な予感しかしないわ。

押したら爆発でもするんじゃないの?」


「アカシさんは爆発しないって言ってましたけど、確かにそう言われるとちょっと不安ですね。

まあいいや、物は試しです。思い切って使ってみましょう!」


「あっ、もう…!」


アカシさんの人柄からして、罠である可能性は低いと信じたい。

今日知り合ったばかりの人だけど、拳で語り合った以上、大体の人物像は分かるのだ。


…私って、そんな熱血キャラだったっけ?



「という訳で、はい。」


私は四本のペグを説明書通りに地面に突き刺し、スイッチ片手に中心部に立つ。


「ん〜、もう、分かったわよ!私も一緒に入る。」


「はいはい。ポチッとな。」


コロちゃんが私の隣に来たのを確認してから、私はスイッチを押した。

直後、四本のペグが同時に発光し始め、互いに繋ぎ合わせるかのように、バチバチと電流のようなものが流れ始めたのだ!


「ちょ、ちょっと!?これ何、怖い!」


「…やっぱり爆発するんでしょうか。」


「いやーーーッッ!!」


コロちゃんの悲鳴を掻き消すようにバチバチ音が激しさを増し、私達二人の体を肥大化した電流が包み込んだ。





私の視界は、真っ白になった。













◆◆



ホワイトアウトした視界が、徐々に明瞭になっていく。

灰色の壁、床、天井。そして真っ暗な外を映す窓と、無機質な扉が一枚ずつ。

どうやら、どこかの建物のようだ。

足元には、先程地面に刺したのと同じようなペグが設置されている。


「ちょっとアディーナ、どうするのよッ!?」


「う〜ん、取り敢えず部屋から出るしかないですよね。」


「えぇ!?ここがどこかも分かんないのに、大丈夫なの?」


「それを確かめる為にも、出るしかないです。」


コロちゃんが結構怖がりだという事実が判明した事だし、まずはこの何も無い部屋から出よう。

ここがどこだか分からない以上、情報収集が最優先事項になってくる。


私は意を決して、扉を開け放った。








「お?」


「え?」


「は?」



結論から言うと、開けた瞬間どこにいるのか判明した。




「……アカシさん?」


「おう、お前ら早速あれ使ったのか。

怪しい怪しい言っときながら、結局使ってんじゃねえか。」



明石組事務所のビルの中だった。




「…アカシさん、説明お願いします。」


さっきまで怖がってたのが一転、アカシさんを睨み付けながらコロちゃんが詰め寄った。


「え?何怒ってんだよ…。

便利だったろ、〝どこでも事務所〟。」


「どこでも事務所って言うんですか、あれ。」



それから私達は、アカシさんからどこでも事務所なるアイテムの説明を受けた。


どうやら帝国の最新の科学技術の結晶みたいな物らしく、付属のペグを地面に刺して陣を作りスイッチを押すと、対となる陣が設置されている場所までワープ出来る事。

ワープした先の陣で同じようにスイッチを押すと、元の場所に戻れる事。

野外で使用する際は、野生動物や魔害獣に荒らされたり、他人に盗まれたりするのを防ぐ為、地中に埋めても使用出来たり、ステルス機能も搭載されている事など。



「元は軍事用に開発された物らしいんだが、今は帝国内で販売されてる。

まあ、そう簡単には手が届かない位には高価なモンだがな。

ちなみにどこでも事務所ってのは俺が勝手に呼んでる名前で、正式名称は〝プラズマどこでもワープ君〟だ。」


ネーミングセンス無さ過ぎませんか。



「しかし、思ってた以上に便利な代物ですね。

本当に貰っちゃって良いんですか?」


「ああ、一度渡したモンを、やっぱり返せなんて無粋な事言わねえよ。

それにそいつぁ、前に酔ったノリで買っちまって、そのまま殆ど使われずに埃を被ってたしな。

お前らに使われた方が本望だろう。」


「…そういう事なら、有り難く使わせて貰います。」





「ねぇ、アディーナ。」


「はい?」


不意に、不安そうな表情のコロちゃんが声を掛けてきた。



「馬車、森の中に置きっ放しだから、どうにかした方がいいんじゃない?」


「あ…!」




すっかり忘れてた。


私達はすぐさまどこでも事務所で森へと戻り、若干キレ気味(に見える)のマックス君と馬車一式を事務所に送る事にした。

どうやら、陣を設置する際にペグを刺す間隔を広くすれば、より大きな物もワープさせる事が出来るらしい。

試してみたら、馬車とマックス君も問題無く転送するのに成功した。


事務所のワープ先の部屋にギリギリ入る位の大きさだったので、今度からは屋外に馬留めを作り、その側に陣を設置しようという方針になった。



「この事務所を拠点に出来るなら、野営をしなくてもいいだろう?

下の店舗の連中や俺の部下達にはちゃんと口止めしておくから、心配すんな。」


親切なアカシさんに感謝!

まだ日が沈んで間も無い時間帯だけど、私達は応接間のソファで寝ようと話し合ったり、修学旅行の学生みたいなテンションで盛り上がっていた。




「それにしても、帝国の技術は凄まじいですね。

あんなワープ装置まで作ってしまうとは。」


「どれも、あの〝ランカーシス技研〟が作った製品だ。

あの会社は、作りたいと思ったモンは何でも作っちまうからな。」


ランカーシス技研…。


帝国の住民なら、誰もが知ってる国内最大手…

いや、世界最大手の軍需企業だ。


兵器開発なら何でもござれの超巨大メガコーポで、多様な兵器開発によって生じた副産物とも言える便利グッズなどを一般向けに販売したりもしている。

今や当たり前のように生活の場に見られるテレビや自動販売機などの電化製品も、全てランカーシス技研の技術の賜物である。


「お前らも今後帝国を敵に回すって事は、ランカーシス技研も敵に回すって事だ。

特に、CEOのランカーシス博士には気を付けろよ。


奴は帝国軍の最高幹部、〝千両役者フルコース〟の中でも最強の男。

この世で二番目に強い生物であり、カリュウ姫皇帝の右腕でもある。」


真剣な表情でそう語るアカシさんの気迫に、私とコロちゃんは思わず息を呑んだ。









「まあ、それ位知ってますけどね。」


「……あ、そう。」


うん、私も一応帝国の住民だし、それ位は知ってる。


「ランカーシス博士は有名人ですし。」


「…そうだけどよ。折角説明してやったんだから空気読めよ。」



ランカーシス博士、か…


世界最高の頭脳を持つ男と自他共に認められていて、ランカーシス技研を一代で設立してからの数十年間で、帝国の技術は千年先に進んだとも言われている。

これからカリュウちゃんの元を目指す私達にとって、非常に大きな壁になるのは間違いない筈。


私は、本当にカリュウちゃんに会えるのだろうか…。














◆◆



グラットン帝国首都、帝都グラドポリス。


数え切れない程の雑多なビル群に、それに比例した量のネオン看板の数々。

道路を往き交う路面電車や自動車、バス、そして大勢の人々。


もう夜だというのに、不夜城の如く賑わいを見せているスチームパンクな街並みが、帝都最大にして世界最大の都市でもある、帝都グラドポリスだ。

背の高い建物が乱立する中、群を抜いて巨大な建物が帝都の中心に二つ、聳え立っている。


一つはランカーシス技研本社ビル。

そしてその隣に建っているのが、禍々しい暗黒の王城、皇帝の居城でもある饕餮城とうてつじょうである。

城の周囲の空を見回りでもしているのか、恐らくは強力な魔害獣であろう竜や怪鳥のような生物、機械兵器などが大量に飛び回っている。


そんなカオスの集大成とも言える帝都の一角で今夜、とある事件が発生していた。




「んーッ!んーッ!」


「へっへっへ、こいつで間違いない。お前らよくやった。」


港湾地区の廃棄された倉庫の片隅、ガラの悪い男達五人が見下すなか、四肢を縛られ口にテープを貼られた少女が、必死にもがきながら転がされていた。


少女は見目麗しい整った顔立ちで、腰まで届く薄水色の髪、それと同じ色のロングスカートのフリル付きドレスが映える美少女だが、野暮な悪漢達がそれを拘束して台無しにしている。


「んーッ!んーッ!」


「こいつが、この帝国で最大の権力者、姫皇帝のカリュウか。

案外、大した事無かったな。」


「ボス、こいつを人質に帝国を脅せば、大量の身代金が搾り取れますなぁ。

こんな計画思いついたボスは、やっぱ天才でさぁ。」


ボスと呼ばれたモヒカンヘアの男が、太鼓持ちの部下に煽てられ気を良くする。


「そうだろうそうだろう。

だが油断するな、ここからが本番だ。」


「んーッ!んーッ!」


少女改め姫皇帝カリュウは、何かを訴えかけているようだが、当然口を塞がれているので喋れない。



「クックック、戯れに姫皇帝様の生声でもご静聴してみるか。」


ボスがカリュウの口を塞いでいるテープを、無造作に剥がした。



「プハ…!あ、貴方達何のつもりですか!

こんな事して、どんな目に遭っても知りませんよッ!」


「プッ、どんな目って…!

美味しい目には遭うかもなぁ!身代金山程貰ってよ!」


男達は一斉に下卑た笑い声を上げ、それを聞いたカリュウは恐怖で涙目になる。


「ハハハッ…!

さあ、姫皇帝様には笑わせて貰ってリラックスした訳だし、そろそろ次の作戦会議でもするか。」


男達はすぐ側に置かれた椅子に座って今後について話し始めた。



「ねーねー、ボス。」


男達の中でも特に頭の悪そうな顔をした男が、カリュウの前に歩いて来た。


「何だ?」


「俺、会議とか難しくてよく分からんからさー。

暇だし、この娘と遊んでていい?」


「…ま、確かにお前は力はあるが、馬鹿だから話し合いしてもすぐ寝るしな。

いいぞ、好きにしてろ。」


「やったー!俺さ、胸の大きい女大好きなんだー。

だから、この娘どストライクー!顔も可愛いし!」


「そうか、じゃあ適当に揉んでろ。俺らも後で混ざるからな。」


「オーケーボス。」


「ひィッ!?」


馬鹿っぽい男が、両手をワキワキさせる仕草をカリュウに向ける。


「や、やめて…来ないで…!」


あわや、姫皇帝とも呼ばれし少女カリュウは、このような下品な男達の毒牙に蝕まれてしまうのか!?

大の男に抵抗する力など持ち合わせていない非力な少女に待ち受ける運命は、果たして悲劇なのか…!?



⚪︎コロちゃんのメモ帳


アカシ・キョウヘイ


帝国軍の達人で、階級は前座オードブルね。

その中でも結構実力派みたいで、本人の言う通り次期幹部候補らしいわね。

『喧嘩の達人』と呼ばれてて、どんな攻撃でも決して傷付かない四肢の持ち主よ。

普段は、義理人情に厚い人で、強面だけど周囲から一定の人望があるみたい。

好きな食べ物は、茄子と焼き魚ね。

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