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#5、頼れる仲間



いやまさか、コロちゃんがいつの間にそんな感情を私に抱いていたなんて…。

正直、全く気が付かなかった。


「アディーナ、アンタはアタシの気持ちに気付かなかったでしょうね。

アタシがさりげなくアピールしようとした時だって、アンタは常に別の誰かを考えてるみたいだったもの。」


「う、バレてたんですね…。」


コロちゃん、恐ろしい子…!


「この村を出て行くのなら、せめて理由位聞かせて。

訳も分からずに居なくなられる、こっちの身にもなってよ。」



…うん、確かにそうだ。

少し冷静になれたお陰で、私は改めて自分の行動を見つめ直せた。


「すみません、コロちゃん。

自分の事で頭一杯過ぎて、コロちゃんの事を考えてあげられませんでした。」


「うん、分かればよろしい。

それじゃあ、早速聞かせて。」


「はい?」


さっきまで落ち込んでた筈のコロちゃんの目が、いつの間にか好奇心に満ち溢れていた。


「ほら、さっき私が〝別の誰かの事を考えてる〟って言って、図星だったじゃない。

それって誰?帝都に住んでる誰か?アンタの好きな人なの?」


コロちゃんはその辺の椅子に座り、体をこちらに向けて完全に話を聞くモードに入っている。

いや、ここまでされたら逆に話しづらいんですけど。


「お、そいつぁ俺も聞きたい。」


側に突っ立って見守っていたアカシさんが便乗して、コロちゃん同様に椅子に座って話を聞こうとしてくる。


「いや、アカシさんに話す義理は無いんですが。」


「まあまあ。」


「まあまあじゃなくて、出てって下さい。」


「まあまあ。」


二度目のまあまあは、コロちゃんのものだった。

何故肩を持つ。


「減るもんじゃないし、別にいいじゃない。」


「ハァ……分かりましたよ。話せば良いんでしょ、話せば。」


「やったー!」


根負けして話す事を決めた私に、声を合わせて喜ぶ少女とオッサン。

何なんだこの二人は。



兎に角私は、私がどうして帝都を目指すのか、その理由を手短に説明して聞かせた。

姫皇帝であるカリュウちゃんとの関係。

彼女に告白した後、訳も分からず拘束された事。

そして、私の家族がこちょこちょ処刑された事。


意外にも二人は終始黙って聞いてくれていた。


「というのが、私が帝都を目指す理由です。」


二人共揃って真顔なので、感情がいまいち読み取れない。

果たして、肝心のコロちゃんは納得してくれたのか、否か。


「うん、分かったわ。確かに、それ相応の理由があるみたいね。

アタシはクローンだから家族の事はあまりピンと来ないけど、アンタにとって大事な人達だっていうのは伝わった。」


「ええ、大事なんです。」


「よし決めた!アタシもアディーナの旅についてく!」


「ええッ!?」


予想外の言葉に、私は面食らった。

私の旅に同行するイコール、帝国への反逆行為に他ならない。


「ちょ、コロちゃんは一応帝国兵でしょう!?

この件は完全に私の私事ですし、ついて来たら多分、帝国に居場所は無くなりますよ。」


「でも、アンタ一人で旅なんて、到底出来ないでしょ!

家事もろくにこなせない、戦闘マッスィーンのアンタが!」


戦闘マッスィーンて…


「アンタ一人で帝都に向かっても、2、3日もてば良い方よ。

絶対どっかで野垂れ死にするわ。」


「うぅ、そんな事…」


「絶対あり得る!」


強く否定出来ない…。

確かにコロちゃんの言う通り、私は料理も掃除も洗濯も殆どやった事なく、世話係のコロちゃんに任せきりだった。

帝都に住んでた時も、家事は基本的に妹が両親を手伝っていた。


つまり、生活力ゼロの私が野に放たれても、マトモに生きていく事が出来ない。



「外の世界を舐め過ぎよ。

夜営も出来ない癖に、寝てる間に魔害獣にでも襲われたりしたら、ひとたまりもないわ。」


「…ごもっともです。」


コロちゃんの正論を前に、私は一切の反論が出来ない。

こういう事になるなら、少しは戦い以外の面も鍛えておくべきだったと、今更ながら後悔。



「お前達、ちょっと待ちな。」


「え、何ですか?」


アカシさんが、立ち上がりざま私達に声を掛けた。



「面白い話を聞かせて貰った礼だ。受け取れ。」


アカシさんが事務所の奥の戸棚の中から、両掌に収まる程度の小さな段ボール箱を渡してきた。


「いや、何ですかこれ?爆弾?」


「そんなんじゃねぇよ、失礼だな。

お前達の旅に、絶対に役立つモンだ。

中に説明書も入ってるから、よく読んどけ。」


「…怪しいんで、クーリングオフしたいんですけど。」


「いいから、素直に受け取れ!物騒な物じゃないから!」


「…どうしたんですか?急にアタシ達の肩を持つような事して…。」


コロちゃんが聞いた。



「フッ、いや、大した理由じゃない。

ただ、この俺を打ち負かす程の女が、一体どこまで成り上がれるのか、少し興味が湧いただけだ。」


「アカシさん…!」


「フッ…」


「フッじゃないですよ、カッコつけマンが。

〝この俺〟とか言ってますけど、貴方一番下っ端じゃないですか。」


「下っ端じゃねーよ!お前、前座オードブルでもなあ、帝国内じゃそこそこの権力があるし、それより下の帝国兵だって沢山いんだ。断じて下っ端じゃあない!」


「ちょっとアディーナ、これ以上アカシさんを弄るのはやめてあげて。

この人、普段は上司の達人からよく弄られてる人だから。」


「おい、それを言うな!」


コロちゃんからの思わぬ暴露に、動揺するアカシさん。

やはり、典型的なカッコつけ弄られキャラだったか、この人。


「すみません、コロちゃんに言われたのでやめときますね。

取り敢えず、このプレゼントは有り難く受けとっておきます。要らない物だったら、質屋にでも入れときますね。」


「いやもうお前返せよ、そこまで言うなら。」


「ありがとうございました、それでは行ってきます。」


「……。」


一人、事務所に取り残されたアカシさん。

その全身には、何とも言い難い哀愁のようなものが漂っていたそうな。










◆◆


一人で向かう筈だった帝都への道程。

村から出るだけで一悶着も二悶着もあって大変だったけど、お陰で頼りになる仲間がついてきてくれる事になった。



「ヒヒーン!」


「おやおや、マックス君は元気が良いですねぇ。」


「ブルルル!」


「いやー、馬車の旅っていうのも快適で良いものです。」



そう、旅の頼れる仲間、馬のマックス君。

逞しく黒光りする筋肉で荷馬車を輓き、雄々しい黒鬣こくりょうを棚引かせ、轍を刻みながら私達を帝都に導いてくれるのだ。



「ちょっと、頼れる仲間ってアタシの事じゃないの!?」


「あッ、コロちゃんもですよ、勿論!」


「もう…!確かにマックス君も、頼れる仲間かもしれないけど、アタシの存在も忘れないでよね。」



村を出てから、既に一時間程経ち、私達は森の中を馬車でゆっくりと走っている。

あの時、明石組のビルから出た私達は、早速新たな問題に直面していた。


荷物持つのダルい問題だ。


いくら私に、家族を救ってカリュウちゃんから返事を聞きに行くという大義名分があれど、沢山の荷物を背負って帝都まで歩いて行くというしんどい現実を前にすると、いつまでモチベーションを保てるか不安になってくる。


そこで、私とコロちゃんはお互いの貯金を叩いて(主にコロちゃんの)、村の厩舎を営んでいる知り合いから、格安で馬と荷馬車を購入した。

荷台は屋根付きなので、雨風も凌げる。

お陰で財布の中身は素寒貧だけど、しばらく我慢するしかないか。



「で、アタシ達は今どこに向かってるの?」


コロちゃんが、凄く今更な質問をしてきた。


「取り敢えず、ラスコフ村から北に進んで、ガイラの町へ行こうかと。

そこから帝都に向かう鉄道がある筈なので、それに乗ろうかと。」


「鉄道!?滅茶苦茶ショートカットじゃない!

ていうか、そんなん乗るなら、別に馬車買わなくても良かったんじゃないの?

ねぇ、どうなの!?馬鹿なの!?幾らしたと思ってんのッ!」


コロちゃんが、怒りに任せて私の胸倉を掴み、激しく揺さぶってくる。


「ちょっ、コロちゃん落ち着いて下さい!

多分、この案は無理な可能性が高いですから。」


「……どういう事?」


「いやだって私、ラスコフ村で、帝国軍相手にあんなに派手に暴れ回ったんですよ!?

とっくに帝都まで通報されて、ガイラに到着する頃には全国指名手配されてる筈です。

鉄道なんて、とてもじゃないけど使えませんよ。」


昔ならともかく、今の時代には〝電話〟という便利な機械が存在する。

当然帝国が作った物だけど、これが普及している以上、情報は一瞬で万里を越え、全国に拡散していく。


「…まあ、確かによく考えたらそうだね。

帝国の情報網は半端じゃないしね。」


「そういう事です。

ですが、万が一という可能性があるので、一応寄ってみます。」


「あ、そう。期待はしないでおくわね。」


「その方が良いと思います。」


それからしばらくの間、私達は馬車に揺られてガイラの町を目指した。

その道中、私は異変を感じ取った。


「マックス君、ストップ。」


「ブルルル!」


私は手綱を引っ張りマックス君に指示を出して、馬車の進行を止める。

マックス君はとてもお利口さんなので、私の言う事を素直に聞いてくれる。


「ん?どうしたのアディーナ。」


「…この近くに、魔害獣がいます。」


「ウソ!?」


私が指差す先は、馬車前方の道路の上。

道路といっても舗装されてもいないただの簡素な土の道で、その上に針で刺したような穴が複数空いていた。


「何なの、あの穴。」


「恐らく、この辺りを縄張りにしている、魔害獣の足跡です。一旦馬車から降りますね。」


「うん、気を付けてよ。」


私は馬車から飛び降り、周囲を警戒して観察する。

360度、前後左右は問題無い。そして上も、問題無い。




「あれ?アディーナ、足元変ッ!」


「え?うわッ!?」


コロちゃんの警告があったお陰で、紙一重のタイミングで敵の奇襲を回避できた。

成る程、下も警戒しておくべきだったか。


「キュウウゥゥ。」


地中から姿を現したのは、奇妙な外見の珍獣。

獣の頭部に、甲殻類のボディー。高さだけで優に4メートル程ある。


「えっと、〝指数測定眼鏡〟っと。」


私は魔害獣を視界に収めたまま、眼鏡の丁番ヒンジ部分にある小さなスイッチを押し込む。

すると、この眼鏡の秘められた機能が稼働!

レンズ部分に、視界に映っている魔害獣の名称、それに加え〝害悪指数〟と表記された数字が表示された。


これは、賞金稼ぎギルドの売店で販売されている、超ハイテクグッズの指数測定眼鏡。

あらゆる魔害獣のデータが内部に詰め込まれていて、魔害獣の強さの基準である害悪指数という数値を測る事も出来る、非常に便利な代物だ。


「こいつは、『アルパカザリガニ』という魔害獣ですね。

害悪指数は、420!」


顔の部分はモコモコ毛皮でつぶらな瞳のアルパカ、首から下は真っ赤なザリガニという、とても違和感ありまくりのキモい生物だった。


「420って、アディーナが狩った魔害獣は今まで300ちょいが最高だったでしょ?

そんなの勝てるの?」


「…まあ、見てて下さい。」


私は、馬車の進路上に立ちはだかるアルパカザリガニの前に対峙し、睨み合う。

アルパカザリガニも私を警戒しているのか、つぶらな瞳でこちらを睨む。



「くっ、地味に可愛い。顔だけは!」


つぶら過ぎる瞳で睨まれて、ついつい戦意が削がれそうになる。

その隙を狙ったのか、アルパカザリガニが先に攻撃を仕掛けてきた。

巨大な鋏を振り下ろし、私を叩き潰そうという魂胆だ。


「おっと、流石に当たりませんよ。」


私はアルパカザリガニの懐に潜り込むように回避し、そのまま振り下ろした腕に飛び乗る。

そのまま魔害獣のザリガニボディーへと移動し、私の素早さに翻弄されてるアルパカザリガニを弄ぶように、後頭部に踵落としをお見舞いする。


「ギュウぅッ!?」


怯んだ隙に、更に追撃。

私は割り箸を割り、発生する衝撃波を超至近距離でアルパカザリガニに喰らわせる。

アルパカザリガニは近くの木を薙ぎ倒しながら吹き飛びつつも、気力を振り絞って立ち上がろうとするが、もう既に詰んでいた。


私が、目の前に立っていた。


「終わりです。」


割り箸を振り上げ、一瞬で勝負を決める。


「『割り箸殺法・渦紫陽花うずあじさい』」


私の割り箸に斬り刻まれ、アルパカザリガニは耳障りな悲鳴を上げた後、動かなくなった。



「つ、強い…。」


「ま、こんなもんですよ。」


私が今まで狩った魔害獣の最高記録が害悪指数300なのは、単純な話ラスコフ村の周辺にはそれ以上強い魔害獣がいなかったからだ。

ここから先、帝都に近付くにつれて魔害獣の強さはどんどん上がっていく。

帝都周辺には、この辺のとは比べ物にならない、帝国が飼い慣らしている凶悪な魔害獣がわんさかいる。

そのどれもが、天変地異を引き起こすような天災レベルの魔害獣だと、専らの噂だ。


そんなのが本当にいるのなら、アルパカザリガニ程度に苦戦してる暇は到底無い。

私はもっと、強くならないといけないのだ。


⚪︎コロちゃんのメモ帳


アルパカザリガニ


害悪指数420

ラスコフ村から少し離れた森の中に生息してる魔害獣ね。

可愛らしいアルパカの顔にザリガニの体っていう、絶妙にキモい見た目の不思議生物。

でもよく見てみると、こういうのもアリかもしれないと思えてくる不思議生物。

キモカワってやつね。

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