表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/70

#2、あらゆる全てを粉砕する



「えっ、アディーナ?

どうしたの突然帰って来て。仕事は?」


急いで家に帰ると、コロちゃんが箒で玄関を掃除していた。

この様子だと、私の家族の件はまだ知らないみたいだ。


「すみません、コロちゃん!」


私は驚いているコロちゃんをすり抜けるように通り過ぎ、自分の部屋に一直線に向かう。


「え?何なの、もう…」






自分の部屋に着いた私は、押し入れの隅に隠していた布袋を引っ張り出す。

同時に他の雑多な荷物も雪崩のように崩れ落ちるけど、そんなのはいちいち気にしていられない。


「…よし!」


この布袋は、この日の為に密かに準備していた物だ。

保存の効く数日分の携帯食糧、ナイフやロープ等の役に立ちそうな雑貨、着替えも少々。

つまり、旅に出る為の準備一式である。




「アディーナ、何かあったの?

って、何その荷物?」


私の行動を不審に思ったコロちゃんが、様子を見に来たようだ。

ちょうど良いし、〝最後〟の挨拶だけでも済ましていくか。


「コロちゃん、いきなりですみませんが、私はこれから帝都に向かいます。」


「……は?」


「つまり、お別れです。もう二度と会う事もないでしょう。

今まで、お世話になりました。」


「……そう。」


最初は驚いた様子だったコロちゃんの表情が、寂しそうな顔に変わる。

可哀想だけど、私は一刻も早く行かなくちゃいけない。


「私の家族が、こちょこちょされたんです。

だから、帝都に行かないといけないんです。止めないで下さい。」


「……は?いや、ちょっと意味分かんないんだけど…」


「ごめんなさい!」


「あっ、待っ…」


コロちゃんへの未練を断ち切るように、私は背を向け、布袋を持ったまま部屋の窓から飛び出した。






家から飛び出し、着地してすぐに村の入り口目指して走る。


この村で暮らした二年間、色んな人と知り合い、魔害獣と戦い、コロちゃんと暮らし、多くの思い出が出来た。

勿論、未練は沢山ある。

でも、それらの鮮やかな思い出を黒く塗り潰してしまう程に、あの処刑映像は強烈なものだった。


村の広場に差し掛かった時、異変を感じる。

複数人のクローン兵達が、険しい顔つきで道を塞いでいる。


「ちょっと急いでるんです。どいてもらえませんか?」


「残念だけど、それは無理な相談。貴女をこの村から出す訳にはいかないんだよ。」


クローン兵の一人が、サーベル片手にそう言った。

私が村を出ようとしてるのを知ってたって事は、多分コロちゃんが報告したんだろう。

仕事だから仕方ないとは言え、裏切られたみたいで少し残念な気持ちになる。


「人一人が村から出ようとしてるだけですよ。

別に悪い事してる訳じゃないんですから、貴女達に私を止める権利は法的に無いと思うんですが。」


正論を言ったつもりだけど、クローン兵の子には何故か鼻で笑われた。


「貴女、この村に二年間も閉じ込められてて、まだ軟禁されてるって事実に気付いてなかったの?

貴女を止めるのは皇帝からの勅命なの。だから、法律がどうとかは関係無い!」


別に、軟禁されてるのは分かってる。

でも、理由が全く分からない。

だから、こんなにも沢山の兵力を動員してまで…


コロちゃんという監視役を付けてまで、私をこの村に留めようとする、帝国側の意図が読めない。

もう既に、四方八方を敵に囲まれていた。


「退いて下さい。私は行かなくちゃいけないんです。」


「私達が何者か知ってて尚、退くと思ってるのか?」


リーダー格と思しき、白スーツのクローン兵が答えた。


「帝国軍の、クローン兵でしょう?

今や帝国の兵力の殆どは、クローン人間で賄っているらしいですからね。」


「まあ、そういう事だ。田舎に引き篭もってた割には、よく勉強してるじゃないか。」


「好きで引き篭もってた訳ではないので。」


「フン。お前達、かかれっ!

絶対にこの女をこの村から出すな!」


刀剣、斧、ボウガン、銃火器、その他諸々物騒な獲物を携えたクローン兵達が、一斉に襲い掛かって来た。


一人一人は大した脅威ではないけど、ここはクローン兵持ち前の圧倒的な数の暴力。

普通なら、対処しきれない物量に呑まれて、為す術もなくボコボコにされる所だろう。


でも、私だってただ二年間引き篭もってた訳じゃない。

帝都に向かう以上、クローン兵との対立はとっくに想定済みで、対策だってきちんとしてある。


「いいでしょう。知り合いと同じ顔の子達を攻撃するのはあまり良い気分ではありませんが…

そっちがその気なら、私も抵抗させて貰います。」


私はローブの内側から、自分の〝武器〟を取り出した。



「…ん?」


リーダー格のクローン兵が気付いた頃にはもう遅い。

私が武器を解放させた衝撃だけで、近づいて来た数人のクローン兵が吹き飛んだ。


「…何だと!?」


「隊長!あれは、まさか…!」


リーダー格もとい隊長の側にいたクローン兵が、驚愕に打ち震えながら私を指差している。

正確には、私の右手を!









「……割り箸…だと?」


…そう、私の右手に握られていたのは、一分の無駄も無く完璧に二等分された、割り箸だった。


私が割り箸を構えると、隊長の人は何かを察したようだった。


「貴様、まさか〝達人〟かっ!?」


「ご名答。」



ーーー達人。


それは、一つの事を極めに極め、遂に超常的な力を有するに至った、超人の事を指す。

一点特化の豪華型とも言えるその人類は、この世界において非常に強大な戦力でもあるのだ。



「ぐぅゥ…!」


隊長の人の顔には、葛藤が滲み出ている。

ここで私と戦い、人数差でゴリ押しするか、潔く撤退するか。


どうやらあの悩みようだと、達人と呼ばれる人間の脅威度をよく知っているようだ。



「極限まで綺麗に割られた割り箸は、その反動で超振動を起こし、周囲に衝撃波を巻き起こします。」


「…な、馬鹿な!割り箸割った位で、そんな事がある訳ないだろう!」


「ですが事実です。たった今、目にしたでしょう?」


隊長の人は私に反論され、先程吹き飛ばされて地面で気絶しているクローン兵に目をやる。

彼女達は、先程私が発生させた衝撃波によって吹き飛んだ。

そして、私の右手に割り箸。



それが、現実。


「くそッ、いっそここで奴を倒してしまえば、思い掛けない大捕物だ!

所詮一人、四方八方から攻めればどうとでもなる!生け捕りにして帝都に持ち帰り、心を折って我が軍の戦力にするのだ!」


隊長の人は、完全にヤケだった。

言ってる台詞が、完全に小悪党のそれだ。

他のクローン兵達にも戸惑いや呆れの色が見えるけど、上司の命令には従わざるを得ない。



「行けえェェェ!!」


隊長の人に言われた通り、360度全方位から一斉に攻撃を仕掛けて来る。

前方から刀、左方から手斧、右方からランス、他にも様々選り取り見取り、無数の凶器のバーゲンセール。


でも…甘い!


「『割り箸殺法・女郎花おみなえし』」


瞬間、私の姿が消える。


「えっ、消え…あぐッ!?」


消えたのではなく、ジャンプした。

でも、気付く前にもう斬られてる。

今の一瞬だけで、私に飛びかかってきた十人余りのクローン兵が、獲物ごと割り箸から発せられる斬撃の餌食となった。


だけど、まだ終わらない。


「う、上だ!落ちて来るのを狙え!」


この技は上空に飛び上がって相手の目を眩ませられる反面、落下時に無防備になるという弱点がある。

でも、そんなあからさまな弱点を、事前に対策しない訳がない。


「『割り箸殺法・男郎花おとこえし』」


上空から、地上に向けて割り箸の斬撃を放つ。


「うわぁァァァ!?」


幾つもの鞭めいた軌跡の斬撃は、拡散し広範囲に渡って敵を殲滅する。

私が無事着地した時には、立っているクローン兵の数は既に半分以上減っていた。


「…く、クソ、馬鹿な…!」


隊長の人が、頭を抱えて狼狽している。


「安心して下さい、全員峰打ちです。」


「いや、全然峰打ちに見えなかったんだけど!?」


「峰打ちったら峰打ちです。私が峰打ちと言えば峰打ちなんです。」


「なんて暴論だ!」


まあ、峰打ちに見えないのは否定しないけど、実際本当に峰打ちだ。

コロちゃんと同じ見た目の女の子達を傷付けるのは、凄く気が引けるし。


「で、まだやるんですか?

周りの皆さんは、あまり積極的には見えませんけど。」


「ぐゥゥ…!」


私としてはなるべくクローン兵との戦闘は避けたいので、こうして初っ端から派手な技で暴れておいたのだ。

お陰で、残ったクローン兵の殆どは、私との戦力差を前に戦意喪失している。



「おいおイ、何やっちゃってんのチミ達ィ。」


突然、クローン兵達の間を割って入って来た男がいた。


「こんなネ、こんなお子ちゃま一人にネ、手こずってるようじゃまだまだなのヨ、チミィ。」


「す、すみません!」


謎の男が、ポケットに手を突っ込みながら妙な口調で隊長の人を叱責している。

先程までの強気な態度は何処へやら、隊長の人は申し訳なさそうに頭を垂れていた。

中間管理職は大変そうだ。こんな光景見ちゃったら、大半の人が就職活動したくなくなりそうだ。


「貴方は、何者ですか?」


隊長の人の上司であろう、謎の男に聞いてみた。


「オ?チミ、この村に住んでテ、このボクの事を知らないノ?」


「ええ。見たところ、只者ではなさそうですが。」


「オホッ、チミ煽てるの上手いねェ。

このボク、ロカビリー☆タダオを知らないなんてとんだモグリだけどサ。今後ともヨロシクゥ!」


ロカビリー☆タダオと名乗ったこの男、何というか、見た目からして濃ゆい。

見事にセットされた金髪のリーゼントヘアに丸いサングラス、大柄で筋骨隆々の肉体の上にそのままジャケットを羽織っている。


「デ、このボクの役職ハ、まぁ見ての通りこの子達の上司な訳だけどォ。

一応、このラスコフ村含ム、ラスコフ地方の副監督官ってのやらせて貰ってるノ。」


「副監督官…」


それ自体は、私も知っている。

帝国に所属する幹部達が、帝国領の各地方に派遣され、その圧倒的な武力で統治をしている。

副監督官って事は、この大男はナンバー2か。


「マ、でもこのボクを知らないのも無理ないカ。

チミ、この村に来てからの二年間、ずっと修行やら賞金稼ぎの仕事やらデ、忙しかったみたいだしねェ?」


「ええ、お陰さまで。」


賞金稼ぎの仕事はともかく、私が〝修行〟していたのはコロちゃんしか知らなかった筈だ。

つまり、その情報もコロちゃんは漏らしてたみたいだ。


「しかモ、その修行で達人にもなっちゃうだなんテ、天は二物を何とやラ…。

兎に角、君が村から出ちゃうト、このボクがお上から怒られちゃうんでネ。」


ロカビリー☆タダオの雰囲気が変わった。

ピリピリと感じ取れる殺気を前に、私も即座に身構える。


「全力で止めさせて貰うヨ。」


次の瞬間、ロカビリー☆タダオが右手の握り拳を前に突き出した。


「ッッ!?」


悪寒を感じた私は、左側に転んで危機回避。

その判断は正しかった。

私が先程まで立っていた場所の背後にあった木造の倉庫らしき建物に、破砕音と共に大穴が空いていた。


(やっぱり飛び道具の類…?

でも、一体どんな…)


考え事をしている内に、第二波、第三波と謎の攻撃が連続で繰り出される。


ロカビリー☆タダオの手の動きを読めば、回避するのは存外容易い。

あとは、攻撃の正体を見極めねば。


「ハッハー!」


六回目の攻撃で、ようやく見切る事が出来た。



「レーザー…」


ロカビリー☆タダオの拳から発射されていたのは、超高速で射出されているレーザー的な物だった。一瞬見えただけだけど、間違いない。


「レーザー?

浅い浅イ、そんな生温いモンじゃないヨ、これはァ!」


私は、最初に穴を空けられた倉庫の中へ飛び込んだ。

その理由は、相手の攻撃から身を隠す為じゃない。

レーザーの正体を完全に見破る為だ!


「壊れろ壊れろォ!」


ロカビリー☆タダオの怒涛の連撃が、脆い倉庫を容赦無く蜂の巣にしていく。

たったの数発で、倉庫は耐え切れずに崩壊してしまった。


「おヤ、やり過ぎちゃったかナ?

殺すなとは言われてるけド、流石にこの程度じゃ終わらないよねェ?」


「そうですね、心配には及びませんよ。」


瓦礫の山となった倉庫を吹き飛ばし、私は立ち上がる。

崩壊する倉庫を上手く躱していたので、怪我はゼロだ。


「さっすが達人。身体能力も普通の人間の比じゃないネ!」


「そんな事言って、貴方も達人ですよね?

〝そんな物〟で建物を破壊出来る人間なんて、他に考えられません。」


瓦礫の上から私が指差したのは、ロカビリー☆タダオの大きな握り拳。

その中に握られている物だった。


「おヤ、もう見破っちゃったのかイ。」


彼が掌を開くと、そこから現れたのは『真・強烈サイダー』の缶だった。


「さっき貴方が破壊した、この倉庫。

壊れる前に調べたんですが、貴方のレーザーが着弾した箇所がビショビショに濡れてました。

この事実が示すのは、つまり…」


ロカビリー☆タダオが、ニヤリと不気味に笑った。




「そうサ、このボクは『炭酸飲料の達人』!

炭酸飲料を亜音速でフリフリシ、そして開封!

その際に吹き出る炭酸飲料ハ、あらゆる全てを粉砕する破壊光線となるのさァ!」


⚪︎コロちゃんのメモ帳


アディーナ・ユア


一応、この物語の主人公にして、アタシの同居人でもある女の子。

いつも眼鏡を掛けてるのと、薄緑色のセミロングの髪と三つ編み、フード付きローブが特徴的かな。

あと、何故か知らないけど誰に対しても基本敬語で会話する。

そして、貧乳。ここ重要。別に同族意識とかではない。

元々帝都に住んでたらしいけど、現時点では私はその頃のアディーナの事は何も知らない。

好きな食べ物は、苺大福と味噌ラーメン。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ