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第7回 生徒会室にて

 ひなたは今場違いな場所にいる。

「だからさ、いっそ開会式なんてやめちゃえばいいんですよ」

「でも、一応形だけでもやっといたほうがよくないか?」

「そうですかねー・・・体育祭の開会式なんて面倒じゃないですかー?」

 これは生徒会会計の安藤と、書記の雪乃の会話だった。


 なぜかひなたはその真ん中に座っていた。

「あの・・・なんで私がここに?」

 思い返せば放課後、帰宅しようと思っていると突然雪乃が押しかけてきて、問答無用で生徒会室まで連行されてきたのだ。


「だってひなたちゃんがここにいれば、自然とぐっちゃんも来ますから」

「だよな。あいつはいつも浅月さーんとか言って行方不明だからな。そろそろ来るぞ」

 安藤の言葉が終わると同時に、生徒会室の扉ががらがらっと元気なく開かれた。

「予想通り」


 扉の前にはまるで魂が抜けたようにげっそりとしている川口の姿があった。

「ぐっちゃーん、遅刻ですよー」

「だ・・だって、今日は全然会えなかった・・・って、えええぇぇっ!?浅月さん?なんでここに!?」

 ひなたと目が合うと、心底驚いたような表情になる。人をエイリアンか何かのように見ないでほしい。


「雪乃が連れてきたんだ。ぐっちゃん、いつも会議のときに遅れてくるからな」

「ほーら!ひなたちゃんの前なんだから、ちゃんとかっこいいとこ見せませんと!」

 雪野の言葉にはっとして川口は髪の毛を整える。そして、きりっとした顔で一言。

「こんにちは。マドモアゼル」

 かっこつけているようだが、何が言いたいのかさっぱりわからない。


            ◇


 生徒会では、夏休み後に行われる秋の体育祭に向けての話し合いが行われている。南勢高校では、春に球技大会というものが行われ、秋には体育祭が行われる。イベントごとにもそこそこに力を入れる学校だった。

 現在、競技を1つ増やしたいと考えているらしいが、それを入れると終了予定時間が延びてしまうそうだ。それをどうするかについて話し合われている。っていうか、開会式をなくすという方向に進んでいるのは気のせいだろうか。


 生徒会ではない人間が口出しするわけにはいかないので、暇つぶしに生徒会室を見学させてもらうことにした。

 まず最初に目に入ったのは、壁一面に飾られている賞状の数々だった。名前は、安藤(さとる)と書かれている。

「それ、俺の輝かしい成績なんだ」


 振り返ると、今まで話し合っていた安藤がこっちを向いている。

「昔っから走るのしかとりえがなくてさ、まさかこれで称号がもらえるなんて思わなかったけど」

「称号・・・生徒会の人はみんな持ってるんですよね?」

「まぁね。ここはそういう寄せ集めみたいなもんだし」


 ふと、他のみんなの称号が気になってしまった。なにより川口の称号について知りたかったが、そのとき彼が大きな声を出してこの話を終わらせてしまった。

 まるでこれ以上つっこんでほしくないような雰囲気だった。


「そういや、今日有奈(ありな)はー?」

 川口の言葉に、ひなたは動揺してしまった。生徒会会長の名前、林有奈。ひなたが知る限り、唯一川口が名前で呼び捨てにする相手だ。

「日直です。もうすぐ来るんじゃないですか?」と雪乃。

「ふーん・・・」


 その態度は安藤と雪乃を面白くさせるのに十分だったらしい。

「ぐっちゃん・・・浅月さんの目の前で浮気はいかんだろ」

「そうですよ。ここらで勇気出して、ひなたって名前で呼んでみたらどうですか?」

「「えっ!」」

 2人の言葉にひなたと川口は驚いた。名前で呼ぶなんてそんなこと考えたこともなかった。


 しばらく悩んでいた。その間、生徒会室は沈黙だった。だが――

「呼べるかぁぁ!」

 普段はあんなに恥ずかしいことを簡単に言ってのけるのに、ひなたの名前は呼べないらしい。

 なんとなく寂しさを感じたのは気のせいだろうか。


            ◇


「今日はつきあってくれてありがとね」

 いつもとは違い、なんだか大人びた様子で川口は言った。なんだか照れくさくなって、ひなたは平静を装う。

「お礼に家まで送ってく!乗ってってよ」

「乗ってって・・・?」

 自転車にでも乗れと言っているのだろうか。だけど、ひなたの家は高校から電車を使って帰る距離だ。さすがに遠くないだろうか。


 しかし、そんなひなたの考えはすぐに間違いだと気づく。自転車置き場に置いてあったのは、なんと原付だったのだ。

「・・・バイク?」

「うん!最近お金貯めて買ったんだ」

「いいの?バイクで来ちゃって・・・」

「生徒会の特権」

「はぁ」


 ひなたはなぜか余分にあったヘルメットを川口から受け取った。

次回はバイクで帰るところからです。

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