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第6回 昼休みの会話

 いつも昼休みの時間は外でサッカーをしたり適当な遊びをしていることが多い。だから、教室から運動場を見下ろすと、たいてい遊んでいる男子の姿を見かけた。

 ひなたはぼーっとその様子を眺めていたが、その中に川口の姿がないことに気づいた。

 無意識にひなたは彼を捜していたらしい。


「浅月さん!」

 その声は思ってもみないところから聞こえてきた。だけど、少しだけほっとした。そのハイテンションな声をどこかで望んでいたのかもしれない。

 しかも、その声はなんと頭上から聞こえてきた。


「やっほー!」

 屋上にいる川口は身を乗り出して手を振っているが、一歩間違えれば落下しそうである。

「わぁっ!!」

「ちょっ・・!すぐ行くから!」

 なんでこんなにお決まりの展開になるのだろうか。慌ててひなたは屋上へと続く階段を上った。


            ◇


「いや〜危なかったよー!落としたのが靴だけで助かったー」

 この男はつくづく救えない男である。以前も校舎の3階から落ちそうになったことがあるのに、今度は屋上からその身を投げ出そうとしていた。一歩間違えれば、大事にもなりかねない。

 ひなたは屋上へ行くまでに一気に老けた自分を感じていた。


「ありがとう、浅月さん。心配して来てくれたんだね」

「別に・・・誰だって落ちそうになってんなら助けに行くでしょ・・・」

 ぼそぼそと呟くと、嬉しかったのか川口はぱぁっと表情を明るくさせた。

「・・・・やっぱり浅月さんは優しいね」


 途端に、ひなたは表情をこわばらせてしまった。今まで元カレにも冷たいと言われてふられたのに、初めてだった。ひなたのことを優しいと言う人物は。

「私のどこが優しいのよ」

 無意識にそう訊ねてしまった。川口を困らせるだけかもしれないとすぐに後悔したが、そんな素振りを見せることなく、彼はあっさりと言い放つ。


「ずっと見てたから、優しいの知ってる。だから好きになったんだ」


 今まで言われたことのない言葉に、ひなたは自分の中で何かが変化するのを感じた。

「あ、見てたって言ってもストーカーしてたとかそういう意味じゃないよ!?」

 慌ててそう言う川口がおかしかった。もちろん川口が言うようなことなんて考えていなかったため、なんだか笑えてきた。


 自然と笑顔になった。っていうか、笑顔を通り越してすごく笑えてきてしまった。

 こんなに笑ったのは、窪田と別れて以来だったかもしれない。


            ◇


 それから、昼休みの間中ずっと2人は雑談していた。いつもあんまり長いこと話したことがないため、ひなたは今まで知らなかった川口のことを多く知ることができた。彼は、ただのお調子者ではない。以外に思慮深い一面もあるようだ。


「浅月さんは?どんな子供時代送ってきたの?」

「私は・・・昔からこんなカンジだった。現実的で冷たいし、無愛想。テンションも低いってよく言われた。あ、後は名前負けしてるとか」

 思いついたことを述べただけだが、ひなたは暗いことしか言っていない自分に気づいた。なんだってこんなに根暗なんだろうか。


 だけど、川口はなぜか怒ったような顔つきになった。

「そんなことない!浅月さんはすごく優しいし、なによりかわい――」

 言葉の途中で不自然にぶちぎられた。そのまま川口はあさっての方向を見てしまう。

 だけど、なんとなくわかった。川口が何を言おうとしていたのか・・・・


「そんなふうに言ってくれるの、川口君だけだよ。前の彼氏には冷たいって言われてふられたし」

 ひなたは自分の言葉が失言だったと気づく前に、目の前の川口が一気に呆けた顔になるのを見た。

「あ・・あさ、づき、さん・・・・・彼氏がいたんだね・・・・・俺が96回も告白してもそりゃぁふっちゃうよね・・・・・」

「い、いや。もう別れたし」


 そう言っても川口は聞く耳を持たなかった。心ここにあらずというふうになってしまい、どうしようかと本気で悩み始めたときだ。

 屋上の扉がばたんと開かれた。


 ひなたにとってどこかで見たことがあるような女子がそこに立っていた。

「諒、昼休みに生徒会室に集まれって言ったと思うけど」

 静かだがよく通る声に、振り返った川口はしまったという顔をした。

「ごめん、有奈(ありな)!今から行く!」


 有奈というのが今の生徒会長の名前だと気づいたとき、川口はもう立ち上がっていた。

「浅月さん、じゃぁ俺行くね」

「あ、うん」

 そのとき扉近くに立っていた有奈がじっとこっちを見る瞳に、ひなたは釘付けになってしまった。


 ―――

『川口くんって生徒会長となんかあるってウワサだよ』

 以前彩香が言っていたことを思い出した。

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