第4回 生徒会
ガラッ
何の前触れもなく、生徒会室の扉は開かれた。驚いて振り返ると、小柄な女の子が1人ひょこっと現れた。ひなたはすぐに彼女と目が合った。
「あっ・・・」
髪の毛を肩の少し上くらいまで伸ばしたおとなしそうな女の子は、ひなたを見るなり驚いた声を出した。
「雪乃ちゃん!ちょーどよかった!紹介するよ」
川口が嬉しそうに飛び跳ねる。
「生徒会書記の小塚雪乃ちゃん。それから・・・彼女は浅月ひなたさん!」
お互いに紹介されて、慌てて頭を下げる。こういうのは苦手だ。
「もしかして・・ぐっちゃんの好きな人って・・・・」
期待に満ちた表情で雪乃は川口を見る。
「えぇっ!なんでわかんのー?」
本気でわからないのか、心底驚いた表情をする川口。
「やっぱりー!わぁぁ・・・はじめましてー」
なんだかよくわからないまま、ひなたは雪乃に握手を求められる。
「はわっ!もしかして私お邪魔でした?せっかく2人きりだったのに」
「ちっ・・・!」
なぜか違うと言いそうになったところで、また扉の開く音がした。3人同時に振り返ると、背の高い男がのっそりと入ってくるのが見えた。
「安藤!」
このスポーツマンのような人はひなたも知っている。よく全校集会で表彰されている陸上部の人だ。たぶんこの関係で称号を与えられているのだろう。
「ぐっちゃんの好きな人です!ようやく会えました!」
雪乃は嬉しそうに安藤に駆け寄る。それに対して、ほんとに陸上部かと疑うほどゆっくりな動作で安藤という男はひなたを見て、
「うおっ!はじめまして!」
やっと若者らしい声を出した。
「みんなやめてよー!照れるじゃんかー」
その場の空気に乗ってるのか読めないのか、川口は的を外れたことを言う。
「ぐっちゃんの彼女初めて見た!え、いいの?こんな男で」
興味津々に安藤は訊ねてくる。
「それどういう意味さ、安藤」と川口。
「あ、でもアレだ。かたっぽがちゃらんぽらんだと、もうかたっぽはちゃんとしてるって何かの漫画で読んだことある。そういうもんか」
「い・・いえ。あの、つきあってないですから・・・・・」
生徒会のそのハイテンションについていけなくてぼそぼそと言うと、雪乃と安藤にひどく驚かれた。
ひなたはどうすればいいのかわからなくなり、表情には出さなかったが内心ではかなりうろたえてしまった。
「じゃぁ・・・そろそろ帰ります。お邪魔しました」
早足で生徒会室から逃げるように出て行く。そのとき、扉の出入り口付近で誰かとぶつかりそうになった。
―――髪の毛の長い、とても美人な女の人だった。
だけど、そのときは何も気にせず、ひなたは頭だけ下げて走り去っていった。
◇
「雨が降りそう・・・・」
窓の外を見ながら、川口は1人呟く。ひなたが出て行ってからまだ数分しかたっていない。
「傘、持ってなかったですよ、ひなたちゃん」と雪乃。
「男ならここは送っていくべきだろう」と安藤。
2人はニヤニヤと笑って面白がっている。
一緒に帰る口実ができたと一瞬川口は頭の中で喜んだが、なんとなく行ってはいけないような気がした。
それを感じたのか、1番最後に入ってきた女子、林有奈――生徒会長が読書をしながら呟いた。
「行ってきたら?」
「じゃぁ・・・行ってきます!」
元気よく川口は飛び出していった。
◇
少しぐらいの雨なら平気だったが、さすがに強くなってきた。ひなたは小走りで駅へと向かう。
「浅月さーん!」
幻聴か?今さっき別れたばかりなのに、振り返るとまたその男はぴょんぴょんと飛び跳ねながら、自分はここにいるとアピールしてくる。面倒だったので無視していると、ますます川口は大きな声で名前を連呼してきた。
「1回呼べばわかるから」
「だってなんにも言ってくんないだもん。浅月さん、傘ないなら俺のに入ってきなよ」
取り出したのは小さな折りたたみ傘だった。こんな小さいものに2人も入れるのだろうか。
「・・・・いいよ。濡れちゃうよ?」
「俺は下心があるからー・・・」
そんなことを言いながら、もそもそと折りたたみ傘を開く準備をする。
「はい。あいあい傘!」
にっこりと屈託なく笑う川口。なんで好かれているのかさっぱりわからない。
かたっぽがちゃらんぽんだと、もうかたっぽはしっかりする……
というセリフは有名漫画に出てきます。
みなさんはわかりますか?