第27回 不器用な生徒会
「うー・・・なんか変なんだよなー・・・・」
「安心してください。ぐっちゃんが1番変だから」
「そうなのかー。俺が変なんだ・・・違う!」
もうすぐセンター試験だという頃、生徒会室になぜかあるソファに寝転んで川口は呟く。傍には勉強中の雪乃がいる。
「有奈にさ、最近俺避けられてるような気がするんだけど」
上の空で呟きながら、何かしたのか真剣に考えていた。正直思い当たることがなくてますます悩む。
「嫌われるようなことでもしたんじゃないんですか?」
「してないよ。してないからわかんないんだ」
視界の片隅で雪乃が顔を上げるのがわかった。
「なんか意外です。ひなたちゃんのことで悩むんじゃなくて、有奈ちゃんのことで悩んでるぐっちゃんが」
「なんか・・・気になるんだよねー・・・」
「それって恋だったりして」
その言葉に川口はゆっくりと起き上がった。別に雪乃の言葉に驚いたわけではない。
「ないよ」
自分でも驚くほど、とてもはっきりとした口調だった。
「ひなた以上に誰かのこと想えない」
「ふぉー・・・言いますね」
雪乃は少し照れくさそうに目をぱちくりとさせていた。
初めて会ったときから、たぶんひなたに恋をしていたんだと思う。
何度も告白して、ふられてもあきらめなかった。そんなにしつこかったのには理由がある。
「俺、昔有奈が好きだったんだよ」
「・・・・・・知らなかったです」
「――うん。俺も気がつくのにかなり時間かかった。そのときにはもう俺たちは子供じゃなかったし、今さらっていうのもあった。この関係を崩したくなかったしね・・・・・・」
川口は静かに笑った。
「だから、今度誰かを好きになったら、絶対今さらにならないようにしようと思ったんだ」
「だからあんなに猛烈なアタックをしたんですね」
「あったりー!」
そのとき、川口はあることに気がついた。
「そうだ。雪乃こそどうなの?安藤と」
「・・・・向こうには私がぐっちゃんを好きだと思われてるんです。そんなのありえないのに。だいたい向こうは有奈ちゃんのことが好きなんですよ?どう考えたって私に勝ち目ないじゃないですか・・」
「わかんないじゃん。そんなの」
雪乃はぶんぶんと首を振った。
「今は安藤と同じ大学に行けることだけを考えて勉強頑張ろうと思ってます」
「俺も。みんなと同じ大学に行きたい」
このとき、2人は気づいていなかった。
まさか生徒会室のすぐ外で、この会話を聞いている人がいることになんて―――
◇
「俺がいつ有奈を好きだって言ったんだよ」
心底あきれたように安藤は呟く。そして、同じように生徒会室の目の前に佇んでいる有奈を振り返った。
「だってよ。どうする?」
有奈はただ俯いて赤くなっているだけだった。彼女も気づいていなかったのだろう。まさか川口が自分を好きだったなんて。
器用じゃないな・・・生徒会のメンバーって・・・自分も含めて。
安藤は苦笑しながら、部屋の扉を開けた。
◇
「ぐっちゃん!」
そう言って入ってきた安藤はまっすぐに川口を見た。
「外で有奈が腰打って動けないでいるからなんとかしてやれよ」
「えっ・・・マジで?わかった」
川口が慌てて外へ飛び出すのを見て、雪乃は目をぱちくりとさせた。
何かおかしい。有奈が腰を打つことからおかしいような気がする。
「大丈夫なんですか?有奈ちゃん」
「大丈夫だよ。あれ嘘だから」
あっさりと言い放つ安藤。ますます雪乃は混乱してしまった。
「嘘って・・・なんで・・」
「雪乃」
名前を呼ばれた雪乃は意味もなくどきっとしてしまった。
安藤はまっすぐに雪乃を見つめ、そして言った。
「俺は高校を卒業しても雪乃に会いたい」
「―――」
「意味・・・わかるよな?」
◇
生徒会室から少し離れた廊下にいた有奈は、川口が思っていたよりも重症ではなさそうだった。
「有奈!」
近づくと、有奈は顔をそむけるようにしてしまう。本当に避けられている理由がわからない。
「大丈夫?腰」
「はぁ?腰?」
「安藤に聞いたよ。保健室行く?」
有奈は一瞬顔をしかめた後、小さく首を振る。その代わり、思いつめたような表情でこっちを見てきた。
「諒、ありがとう」
顔と言葉が合っていないような気もしたが、特に川口は気にしなかった。
「いいよ。痛いんなら送ってくよ」
有奈の言葉の真意に川口が気づくことは最後までなかった。彼としては、避けられていた不安感が取り除かれたことでもう満足していた。
このとき、今までごちゃごちゃと絡まっていた糸が、ようやくまっすぐになった。