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第26回 生徒会長の異変


遅くなってごめんなさい!


 3学期。

 生徒会の準備があると言って、今日は川口と一緒に登校してこなかった。

 ひなたは1人下駄箱で靴を履き替えていると、思ったもみなかった人物に出会った。

「え・・・有奈さん?」


 今日は生徒会があるから先に行くと川口に言われたのだ。生徒会長が今さら登校なのだろうか。

 有奈は眠そうな目でこっちを見ると、わずかに微笑んだ。

「寝坊したの」

「寝坊?あー・・・そうなんですか・・・」

 それ以上の反応がわからず、ひなたはつっこむことなく教室に向かおうとする。


「ひなたさん」

 いきなり名前を呼ばれて、少し驚いた。振り返ると、何か言いにくそうな表情で有奈が立っている。彼女のこんな表情を見たのは初めてだった。

「・・・はい?」

「―――いいえ。なんでもないわ」


 目を伏せ、有奈は歩き去ってしまう。最後までなにがなんだかわからずにひなたはその場に立ち尽くしていた。


            ◇


 始業式は普通に行われた。

 生徒会長の有奈の様子が少し気になっていたが、いつもと変わりなく生徒会として式を進行させていたのでほっとした。

 あのとき、有奈は何を言いたかったんだろう・・・


「ひなた」

 式が終わってすぐ、小声で川口に呼ばれた。手招きして体育館の外に来るように言っているらしい。

「どうしたの?」

「へへっ。ちょっとだけならいいかなーって」

 嬉しそうに笑い、体育館の壁を背にして座り込む。ひなたもそれにならって隣にしゃがむ。


「これ、おみやげ」

「――?ありがとう。どっか行ってきたの?」

「うん。ばーちゃんち。京都なんだ」

 おみやげは八つ橋のようだ。大好物だったので、ひなたは感謝して受け取った。


 しばらく沈黙になったと思ったら、川口がこっちを見ていることに気づいた。なんとなく気づいていないフリをしていたが、目のやり場に困ってしまった。

「・・・・・なに?」

「いやー?もうすぐ卒業だなーって思ってさ」

「そうだね・・・」


 たとえ大学に落ちたとしても、高校は卒業しなければならない。もう今までのようにはいかないんだ。

 なんか寂しいな・・・

 今までだったらそんなに感じなかった感情だ。川口とつきあうようになってから少しずつ変わりつつある自分にひなたは気づいていた。


「川口君・・・生徒会の仕事いいの?」

「やっべ!そろそろ戻らないとだ!」

 慌てた様子で立ち上がった川口だが、何を思ったのかくるりとこっちを振り返った。


「名前で呼んでよ」

「名前?」

「うん。諒って。川口君は固い!」


 それだけ言うと、川口は体育館の中に消えた。

 ひなたは「諒」と呼ぶ自分を想像して、少し気恥ずかしくなってしまった。


            ◇


「ぐっちゃーん!遅いですー!」

「おっせーよ!」

 後片付けをしている安藤と雪乃にどつかれて、川口は苦笑してやり過ごす。

 ふと、あることに気づいた。


「有奈は?」

「体調が悪いから保健室に行くってよ」

「ふーん・・・」

 無意識に保健室の方角を見て、川口は昔のことを思い出していた。有奈が保健室に行くときはよっぽど体調が悪いときなのだ。


「ねぇ、俺ちょっと様子見に行ってきていいかな?」

「そう言ってぐっちゃん、サボる気ですか?」

 雪乃がほうきを持ってじろりと睨んでくる。

「そんなんじゃないよ。すぐ戻るから」

 返事も聞かずに川口は体育館を後にした。


            ◇


 保健室に入ると、ちょうど荷物をまとめていた有奈と目が合った。どうやらそのまま帰るようだ。

「有奈?大丈夫?」

「・・・ちょっと風邪ひいたみたいだから、今日はもう帰るわ。ごめんね」

「ううん。あ、送ってくよ」


 今日は原付でそのまま学校に来たし、有奈の家は割と近い。だから、ちょっとぐらい抜けても大丈夫だろうと川口は思ったのだが、

「いいよ」

 それは承諾ではなく、はっきりとした拒絶だった。なぜかそのとき、今まで感じたことのない感情を覚えた。


「近いし、歩いて帰れる。それより、副会長として生徒会のことやっておいて」

「え・・・・あ、うん・・・」

 有奈は保健室を出て行く。誰もいない部屋に川口1人だけが残された。


 たぶんこのときからだった。

 有奈から避けられるようになったのは―――・・・・・

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