第25回 カウントダウン2
12月31日。大晦日。
「今年もあと1時間だね」
「そうだね」
川口の言葉にひなたは頷く。いつものようになんでもないように振舞う。
だけど、意識せずにはいられなかった。こないだ不意打ちでキスをされたことを――
「ひなた?なんかあった?」
「はっ?なにが?」
きょとんとした表情でそう訊ねられ、ひなたはどきっとした。
「なんかいつもと違うっていうか・・・」
「気のせいだって」
「そう・・・?」
しかし、川口の態度が全く変わらないことが気に食わない。怒らないでと言われたが、怒ってやろうかと本気で思ったところで、ひなたはある人物を見つけた。
「あれ・・・って雪乃ちゃんじゃない?あと・・安藤君」
「わっ!ほんとだ。あの2人も来てたんだ」
生徒会の2人を見つけて、川口は純粋に驚く。
「俺、去年も一昨年も一緒に行ったんだ。生徒会のメンバーで」
「・・・今年はよかったの?」
ひなたの質問に、川口は難しそうな顔をした。こういうところは正直だと思う。
「いいよ。2人のとこ行こっか」
ひなたにしてみれば割といい提案だと思ったのだが、何を思ったのか川口はひなたの腕を引く。
「あの2人の邪魔しちゃ悪いよ」
邪魔?っていうことはあの2人・・・
思わぬ事実を知って、ひなたはへーと感心した。
「一応そういう遠慮はするんだ」
「失礼な!俺だってそういうことくらいできるよ!」
「はぁ」
もはやひなたを象徴するといっても過言ではない「はぁ」という気のない返事。
川口は悔しそうな顔をしていたが、すぐににこっと笑った。
「まぁいいや。ひなた、怒ってないみたいだし」
「怒る・・・?」
一瞬なんのことだかわからなかったが、すぐに何を言われているのか思い当たって、不覚にもかぁっと赤くなってしまった。
「あ、照れてる〜」
「照れてない。それにすごく怒ってるから」
「えっ・・怒ってる・・・?」
まるで子犬のようにしゅんとされれば、ひなたは自分が悪者のように思えてくる。
川口が申し訳なさそうに謝ってきそうだったから、その前にぼそぼそと呟いた。
「・・・別に怒ってないから」
「え?」
「怒ってないし、照れてるだけだから、気にしないで」
「う・・・うん。はい!気にしません!」
急にテンションを上げて無意味に敬礼をする川口。本当にお調子者で、そういうところがいいところなんだと思う。
カウントダウンが始まる。
―――5、4、3、2、1・・・
「あけましておめでとう!!」
ひなたと川口は同時にそう言った。
「そうだ!せっかく来たんだから参拝してこうよ」
「うん。いいよ」
川口の提案で、2人は長い列に並ぼうと歩き始める。
そのとき、ふいに川口の手がひなたの手に触れて、気づいたときには手を繋いでいた。
「――――」
見上げると、照れた顔をあさっての方向に背けて歩く川口がいる。
手袋越しに感じる手の感触。ひなたはぎゅっと握り締めた。
今の願いごとは・・・・・・
大学に合格すること。川口と一緒にいられること。
どうか神様、2つの願いを叶えてください・・・・・・
◇
「長い願いごとだったな」
ひなたと川口が参拝する少し前、安藤と雪乃は参拝を終えた。
「安藤と違って、女の子にはいっぱい願いごとがあるんです」
雪乃は安藤の言葉につーんと顔を背けて言い放つ。
「でも、ショックです。どうして有奈ちゃん帰っちゃったんだろう・・・」
「・・・・・まぁ、なんか用事でもあったんじゃねぇの?」
本当のことを言うと、安藤はなんとなくその理由に気づいていたような気もするが、あえて考えないようにしていた。
「あーぁ・・・結局安藤と年越しですねー」
「なんだその言い方は。光栄に思えって」
「えぇぇ・・・・」
口調は冗談っぽいが、雪乃はどこかテンションが低い。その態度に腹が立って、思わず呟いた。
「・・・・ぐっちゃんは来ないよ」
「え・・・?」
「いつまで待ってるつもりなんだよ」
しばらく雪乃はきょとんとしていたが、やがて顔を紅潮させて俯いてしまった。それを見て、安藤は内心かなり後悔した。
しまった・・・・こんなこと言うつもりじゃなかったんだけど・・・
雪乃はゆっくりと口を開いた。
「私がぐっちゃんを好きだと思ってたんですか・・・?」
「―――?そうじゃないのか?」
「・・・・・バカ」
「はぁ!?」
そのときの雪乃が見せた表情はいつもと違っていた。例えて言うなら、とても悲しそうな・・・・・・
安藤は雪野の気持ちに全く気づいていなかった。