表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

第21回 クリスマス前夜1

 季節は過ぎていく。

 ひなたたちは本格的に受験勉強を始め、いつしか12月に入っていた。授業ではセンター試験対策が行われ、日々過去問をやるときが続いた。

 南勢高校は県内でもトップクラスの高校だったが、堅苦しい生徒が集まっているわけではなかった。だから、普通に冬休みの計画をたてていたりする。


「クリスマス、どうする?」

 ひなたたちも例外じゃなかった。昼休み、うきうきとサンドイッチをかじりながら川口が訊ねてくる。

「どうするって・・・・勉強?」

「ええぇぇぇ・・・デートしよーよ!」


 そういえば、つきあい始めてからデートらしいデートをしたことがなかった。行くと行っても勉強するために図書館に行っただけで、色恋には程遠い。

 むーっとふてくされる川口を見て、ひなたはもごもごと呟く。

「クリスマス・・・・・別に、ヒマだけど・・・」


「えっ!今なんて言った!?」

「だ、だからクリスマス・・・ヒマかも」

「なになに!?聞こえなーい」

 最近の川口は新たにからかうという技術を覚えたらしい。ひなたがむきになって怒ると、嬉しそうに笑うのだ。だんだんお互いの性格が変わってきているように思えてきた。


「もういい。ごちそうさまでした」

「あ、ちょっと待って!冗談だって!」

 慌てて川口はひなたの腕をつかむ。立とうとしたが強引に座らされた。


「俺、行きたいとこあるんだ!」

「どこ?」

「駅前のイルミネーション。夜になるとライトアップされて綺麗なんだって」

 子供のように笑う川口。ひなたは今まで怒っていたことを忘れて、その話に興味を持った。


「行きたい」

 ひなたが笑うと、川口も嬉しそうに笑った。本当にいつもいつもにこにこと屈託なく笑う男だ。

「うん。じゃ、約束ね」

「破ったらスクワット200回だから」

「げっ・・マジ?」


            ◇


 だけど、スクワットをすることになりそうなのはひなただった。

『今日休み?』

 という川口のメールは、12月23日の補講日に届いた。その頃ひなたは家にいた。

『風邪ひいたっぽい。今日は休むね』


 その後にメールが返ってくることはなく、薄情だと思いながらベッドの中でふて寝することにした。

 せめて約束している明日までには治さなきゃ、ほんとにスクワットすることになってしまう。


 ピンポーン

 家のインターホンが鳴る。1階にいたひなたの母が出るのがわかった。

「ひなたー」

 声が聞こえる。誰か友達でも来たのだろうか。だけど、こんな姿で外に出られるはずがない。


 数分後、階段を上ってくる音を聞いてひなたは焦った。まさか中に入れる気なの?焦ってマスクを探すが、それよりも先に部屋の扉が開いた。

「ひ・な・たー・・・・・」

 やけににやにやとした顔で母が入ってくる。嫌な予感がする。


「あんた、いつのまに彼氏なんてできたのよー・・・しかもあんなにかっこいいなんて」

「えっ・・・へ?」

 混乱していると、部屋の外に人がいるのが見えた。入ろうか入らないか迷っている様子の川口だった。


「川口君!?」

「お見舞いだって」

「お見舞い!?」

「じゃ、私はパートに出かけてくるから後は若い2人でごゆっくり・・・」


 やたらテンションの高い母はにやにやと笑ってから、川口に中に入るように促した。

「咳はしてないから大丈夫だとは思うけど、ひなたマスクしなさいよ」

 出て行くときに、ようやく配慮の言葉を母は残した。

「わかってるよ・・・」

 ひなたは渋々マスクをつけた。


            ◇


 ひなたの部屋はもしかしたら風邪の菌が充満しているかもしれなかったから、リビングに下りることにした。

「ごめん。いきなり来ちゃって迷惑だった?」

「ううん。お見舞いに来てくれたんでしょ?」

 川口はこくんと頷く。

「ありがとう」


 そのとき、川口がぱぁっと明るくなって喜ぶのがわかった。本当に犬のように喜怒哀楽を表現するなぁとひなたは思った。

 でも、せめて連絡くらいしてほしかった。来るとわかっていたのならこんなダサい服を着ることはなかったのに。


「でも風邪うつっちゃうかも・・・」

「大丈夫だよ。帰ったら手洗いうがいちゃんとするし!」

 川口はどすっとソファに座る。

「お母さん、ひなたとはまた違ったタイプの人だな」

「テンションがいつも高いの。川口君と気が合うかもね」


 っていうか、うるさいのが倍層するだけかもと思いながら台所に行こうとすると、慌てた様子で川口が追いかけてきた。

「風邪ひきさんは座ってて!俺がお茶淹れる」

「大丈夫。お客さんこそ座っててよ」


 ・・・・・・・・・・


 結局、言い合ううちに川口がお茶を淹れることになって、ひなたはおとなしくソファに座ることになった。ひなたは静かな部屋の中で、時計の針の音がやたら大きく響くのを感じていた。

「はい、お待たせー」


 熱いものは苦手だったが、ひなたはずずっとお茶をすすろうとする。

「2人きりだねー・・・・」


 ぶっ―――

 何気なく吐かれた川口の言葉に、ひなたはお茶をふいてしまうところだった。

ずいぶんお休みしました。

また書き始めるのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ