第2回 超本気の恋
実際にありえないくらいの展開にしたかったので、
多少のことは小説だからと思っていただけると嬉しいです。
神出鬼没という言葉を当てはめるとしたら、きっとこの男のことを指すのだろう。
「浅月さん、めーっけ!」
浅月ひなたが見ると、窓の外に川口諒が手を振って立っていた。確か3階のはずだが。
「超偶然!なんか木に登ってたら浅月さんが見えてさー・・・もしかして運命感じちゃ」
「いや。感じないから」
否定すると、目に見えてしょんぼりとしてしまった。まるで子犬のような反応だ。
「ええぇぇぇ・・・ラブアンドピースで行こうよー」
まったく意味不明である。
何か特別な才能や地位のある生徒にしか与えられない『称号』を持っている川口は、謎に包まれた生徒会の副会長をしている。
別に何かきっかけがあったわけではない。なぜかひなたは川口に好かれてしまったらしい。
木に登っていた理由は不明だが、川口は窓からよいしょっと廊下に入ってこようとした。
「あっ!やばい!足・・・足が・・・・つ、つった・・・!」
「はぁ?」
手をばたつかせてもがく川口を見ていたら、ひなたはバカらしくなってきた。そのままつかつかと歩き去っていった。
「待って!待っ・・わぁぁぁ・・・」
遠くでそんな声が聞こえたような気もしたが、無視して歩こうと・・・・・・・したのだが、無理だった。何度も言うが、ここは3階だ。
ひなたは慌ててその窓まで戻ってみたが、そこには誰もいなくなってしまっていた。
「嘘・・・まさか・・・!」
最悪の考えが浮かんできてしまい、焦って下を見下ろす。すぐに目的の人物を見つけることができた。
川口諒は、制服の後ろ襟首を枝に引っ掛けた状態でぶらんとぶら下がっていた。
「あはは・・・助けて」
まったく救いようのない男である。
◇
「助かったー!ありがとう、浅月さん!おかげで命が救われたよ!」
ちょっとオーバーなような気もしたが、面倒なのでひなたは頷いておく。
結局あの後、ひなたが下からはしごを用意して川口を下ろすことに成功した。
「なんで木に登ったの?」
「そりゃぁそこに木があったから!」
「はぁ・・・」
その高いテンションについていけないひなたは曖昧な返事しかできなかった。
それにしても・・・とひなたは川口を観察してみる。改めて見てみると、今までいかにひなたが川口の顔を見ていなかったことがわかる。こいつこんな顔だったかと疑問に思ってしまった。
「え?なになに?そんな見つめられると照れちゃうよ!もしかして俺に惚れた!?」
とかなんとか言いながら、川口は顔を覆う。
こんなふうに軽くなければきっと女子にモテモテだったんだろうなと思う。なによりひなたみたいな暗い女子を好きだと言わなければ、もっとまともだと思われることは間違いない。
「って、て、ていうか・・・これは告白のチャンス!?」
本人は向こうを向いて小声で言っているらしいが、ひなたの位置ですでに丸聞こえだった。
「浅月さん!俺――」
「ごめん」
川口が何か言う前に、ひなたはあっさりと言い放つ。
その瞬間、いつからいたのか校舎の2、3階から何人かの生徒が顔を出し、イェーイと歓声をあげた。
「ぐっちゃん(川口のあだ名)95回目のしっつれーん!」
「うるさーい!まだ何も言ってない!」
顔を真っ赤にさせて川口は叫ぶ。
「ごめんって言われた時点でカウントされてんのー」
観衆はそこまで言うと、すぐに顔を引っ込めてしまった。
「くっそー・・・あいつらー」
「あのさ、1つだけ訊いてもいい?」
ひなたは素朴な疑問を口にする。途端に、川口の態度が変わり、なぜだか嬉しそうになる。
「いいよ!浅月さんから俺に話があるなんて嬉しいな」
「その・・・私のこと好きとか・・・・本気なの?」
普通だったらありえない。なのに、どうしてなのだろうか。
しかし、それに対して川口はいつものように軽い調子で言うのではなく、すごく真剣な様子で頷いた。
「超本気」
それだけ言うと、にこっと笑って川口は走り去ってしまった。