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第19回 見知らぬ訪問者3

 高島玲が職員室を訪れたとき、まず最初に目に入ったのは・・・・・らっきょう形のバーコード頭だった。それを見た瞬間、脳裏に20年前の懐かしい記憶が蘇る。

「ジョージ!!」

「その声は・・・高島!」


 名前を覚えていてもらえたことに驚いた。さすが教頭。自分が学生だったときからすでに教頭だ。っていうか、万年教頭なのか?

「いやー久しぶりじゃないか。茶髪の風来坊も今何歳になるんだ?」

「今年で38っすよ。ジョージ、まだ教頭やってんのかよ」

「その口ぶりも相変わらずだな。私は教頭という仕事に誇りを持ってるんだよ」

 そのセリフは前にも言っていた。教頭も相変わらずなようだ。


 周囲は学校で1番の古株の教頭とタメ口で話す男を不審がっているようだ。試しに観察してみたが、知っている人間は1人もいなかった。そりゃぁそうだろう。自分が卒業してから20年もたつんだ。むしろ今も教頭がいることのほうが不思議だ。


「今日はどうしたんだ?わざわざ私に会いに来たわけではないんだろう?」

「そんなこと言うなよ。ジョージに会えて超感動してんだから。まぁここへ来た目的は―――・・・・」

 高島は時計を見る。そろそろ時間になるだろう。

「これから果たしに行くんだ」


 じゃーねと軽く手を振って、高島は外に出て行く。

 最後まで失礼な言葉を振りまいていた問題児を職員室にいた教師がはらはらとした目で見ていた。


            ◇


 放課後、南勢高校に通う生徒のほとんどは正門を通って下校する。たまに裏門から出て行く者もいるが少数派だ。彼女(・・)が多数派であることを祈って高島は正門の近くに身を潜める。

「あ・・・・・」


 しばらく待つと覚悟していたのだが、思ったよりも早く川口の彼女――ひなたは現れた。彼女は高島と目が合うと、何かに警戒するような顔つきに変わった。

 まるで猫のようだなと高島は思った。

「こんちは。今ちょっと時間いいかな?」

「・・・川口君なら今日は生徒会の仕事があるって言ってましたけど」


 本当に猫のようだ。まだ自分に対して警戒心を解いていないことがわかる。

「諒じゃなくて、君に用があるんだ」

「私に・・・?」

「そう。今日はお願いがあって来たんだ」


 ここは目立つから場所を変えようと言ってみた。一瞬、彼女に渋られると思ったが、意外にも素直にこくんと頷いてくれた。彼女が懐いてくれたらすごく嬉しいだろうなと漠然と考える。

 とにかく、高島は近くのファミレスに向かっていった。


            ◇


「なんでも好きなもの頼んでいいよ」

 と高島は言ったが、彼女が頼んだのはミルクティーで、飲み物の中でも1番安いものだった。

「なに遠慮してんだよ。諒なんかこの店で1番高いもの平気で頼むぞ」

「はぁ・・・」


 どうもわからない。川口に彼女ができたと人づてに聞いたときはどんな人かと想像したが、きっとあいつと渡り合っていけるくらいテンションの高い女の子だろうと思っていた。それがどうも違うらしい。

 どっちかってーと、テンションは高くはないな。まぁ、あいつにはこのくらいが丁度いいのかもな。

 現に幼なじみの有奈もテンションの高いほうではない。


「それで、お願いってなんですか?」

 いきなり核心をつかれてどきっとした。こんな所を川口にでも見られた日にはおそらく逆ギレされるだろうが、自分はこのために来たんだと高島は決意する。


 と、そのときだ。彼女のバッグが視界に入った。それは、チャックが半分開いていて、そこからとある文字が見えた。

「慶明大学・・・・・?」

 無意識に読み上げると、彼女が驚いたように反応したのがわかった。


「目指してるの?」

「な・・なんでわかるんですか!?」

 鎌をかけてみると、彼女は驚いて目を見開く。

 高島がバッグのパンフレットを指すと、彼女はようやくチャックが開いていることに気づいたらしい。あきらめたように頷いた。


「・・・・私の学力じゃ到底無理だってわかってるんですけど・・・」

「でも目指してるんでしょ?なんで?」

 意地悪な訊き方だったと後で思ったが、今さら撤回することはできなかった。彼女はあきらめたように頷いた。

「元々いいなって思ってたんです。でも、偏差値が高くて無理だってあきらめてたんですけど、川口君が目指すかもしれないから―――」


 その言葉に驚いた。高島は高校へ来た目的――彼女に川口が医大に行くように説得してもらおうとしていたのだ。

「慶明大行くってあいつが言ってたの!?」

「行くっていうか、いいなって感じで言ってたんです。あんまり進路の話とか好きじゃなさそうだから聞いてませんけど・・・頑張れって言う代わりに私も頑張ることにしたんです」


 説得してもらう必要なんてなかった。ここで自分が強要するより、彼女に任せたほうがいいような気がしてきた。

 なんだよ・・・あいつ、すげー見る目あるじゃん。


 それに、ここで自分が出しゃばったら、きっと川口に昔のことを思い出させてしまうだろう。あの嫌な記憶を――・・・・・・

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