第17回 見知らぬ訪問者1
新キャラ登場です。
茶髪の風来坊・・・とかいうあだ名がついたのは、たぶん高校のときだっただろう。積極的に何かをしたわけではなく、常にひょうひょうとした態度でいたため、教頭によってこのあだ名がつけられた。
「変わってねぇなー・・・・」
自分が卒業してからもうどのくらいたつのだろうか。あの教頭はいるかな。より一層ハゲてんのか。生えてたらどうしよう。育毛してたりして。
その男は今母校である南勢高校まで来ていた。
ここへ来た目的は人(教頭ではない)に会うためだった。本当はわざわざ母校を訪ねなくても会えるのだが、ちょっとしたウワサを聞いて、ぜひもう1人会ってみたい人ができたのでここまで来た。
「よしっ!行くか」
誰に言うでもなく、男は歩き出した。
◇
4時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る数分前、ひなたは川口と一緒に弁当を食べる非常階段まで来ていた。今日はたまたま早く授業が終わり、ひなたが来たときにはまだ川口は来ていなかった。
代わりにそこに見知らぬ青年がいた。階段の踊り場で足を投げ出してうずくまっている。どうやら寝ているようだ。
誰だ、こいつ・・・・
起こそうとは思わないが、ここで寝られても邪魔だ。仕方なく1つ上の階でごはんを食べようと川口にメールしようとしたときだ。
「ジョージ!!」
ひなたがびっくりして振り返ると、同じようにびっくしりた表情で起き上がった青年の姿があった。焦点の合わない目で見られ、思わずたじろいでしまった。
「思い出した・・・ジョージだよ、ジョージ!教頭の名前。え、今もジョージなの?」
何を言われているのかわからずにひなたは目をぱちくりとさせる。どうやら教頭の名前を訊いているらしいが、なぜか声が出なかった。
「そんなわけないか。坂下譲二じゃないよね?今は」
「え・・・っと、教頭は確かそんな名前だったと思いますけど・・・」
「うっそ!マジで?後で挨拶してこよーっと」
何が嬉しいのか子供のように青年は笑った。大学生だろうか。やや茶色を帯びた髪にジーパンにパーカーというラフな格好をしている。端整な顔に、黒縁の眼鏡がよく似合っていた。
そのとき昼を告げるチャイムが鳴った。
「おっと、もう昼?そろそろ行かないとな。あっ、そだ」
青年はごそごそとポケットの中から何かを取り出す。それは、1枚の写真だった。
「この写真の右にいる奴を捜してんだけど、知らない?」
知らないも何も、まずこの写真がいつ撮られたものなのか疑いたくなる。その写真に写っているのは、3歳くらいの男の子と10歳くらいの少年の入浴シーンだったのだ。青年の捜しているのは、3歳くらいの男の子のほうだった。
「・・・・・知りません」
率直に言うと、青年は困ったように笑う。
「だよね。あいつ写真とかあんまり好きじゃなくてさー、探してみたらこんなのしかなかったんだよー」
「はぁ」
生返事を返したときだった。ひなたの視界の隅に何かが通り過ぎた。早すぎて見えなかったが、それが川口の昼ごはんだということに気づくのに時間はかからなかった。
「川口君・・・?」
しかし、川口はひなたではなく違う方向を見ている。その視線の先には――・・・・
「おーっす」
茶髪の青年がひらひらと手を振っている。彼は子供のようににこにこと笑うが、反対に川口は不機嫌な顔つきをしている。
「おーっすじゃないよ。なんでこんな所にいるんだよ、玲」
「お前を捜してたんだ。まさかここで会えるとは思わなかったけどな」
「学校まで来なくても、直接家に来ればいいじゃんか」
「あー・・・ここに来たのはお前に会うためだけじゃなくてなー・・・・」
そこまで言うと、玲と呼ばれた青年がひなたのほうを見るのがわかった。しばらくじっと見られたが、やがて何かに気がついたかのように目を見開いた。
「もしかして、君が諒の彼女!?」
「え・・・あ、あの」
「ありえねー・・・超かわいいじゃん。諒にはもったいねー」
ひなたが戸惑って何も言えずにいると、ぐいっと強引に腕をつかまれた。見ると、まだ不機嫌な顔つきをしている川口がいた。
「ひなた、行こう。別の所でごはん食べよう」
「あ・・・でも」
「いいから」
いつも愛想のいい川口がなぜこんなに怒っているのかわからなかった。非常階段から落ちた昼ごはんを拾うことなく、2人はそこを後にした。