第14回 幼なじみの言葉
川口と一緒にお祭りに行ってから変化したことが1つ。それは、以前のように川口から話しかけられなくなったことだ。
「なんかあったの・・・?」
最初にその異変に気づいた彩香が不思議そうに訊ねてくる。
「もしかしてこないだの合コンが関係してる?」
それをずっと気にしていたようだ。ひなたが関係ないと首を振ると、ほっとしたように息をついた。
きっかけはもちろん、お祭りのときだった。
ひなたの一言で、結果的に川口を傷つけてしまった。
「どうすればいいのかわからない・・・」
もう面と向かって謝っても許してもらえないことくらいわかっている。むしろこのまま話さないでいるほうが彼にとってはいいのかもしれない。きっとこんな女と話なんてしたくないだろうから。
「ひなたはどうしたいの?」
彩香の言葉に、ひなたはどう答えたらいいのかわからなかった。したいこととできることは違う。
「ケンカでもしたの?」
ひなたは首を振る。
「最低なこと言っちゃった」
そのとき、廊下を川口が歩いていくのが見えた。何人かの男子と笑いながら通り過ぎていく。元気そうで少しだけ安心した。
「このまま関わらないほうがいいのかもしんない」
それが1番なのかもしれない。
◇
ひなたと川口が一緒にいないことを言う人は特にいなかったが、それでも影で何かを言われていることはわかった。
1度も喋らなかった。っていうか、1度も会わなかった。
このまま卒業してしまうんだろう・・・ひなたは漠然とそう思っていた。
「そんなのダメですー!!!」
ぼーっとしながら廊下を歩いていたひなたは、いきなりの大声に驚いて顔を上げる。見るとそこには雪乃の姿があった。
「えっ・・と、雪乃ちゃん?」
「私のせいなんです!」
何を言いたいのかわからない。ひなたが混乱していると、雪乃は半泣きになりながらひなたの肩を前後に揺らす。地味に目が回る。
「私が押してダメなら引けって言っちゃったから・・・」
「へっ?いや、あの・・・」
「だからぐっちゃん、ひなたちゃんのこと避けてるんですー!」
どうやら雪乃は自分のせいで、ひなたと川口が話していないと思っているらしい。
「違うよ」
ひなたは静かに言い放った。
「雪乃ちゃんのせいじゃない。私がひどいこと言ったから・・・嫌われちゃった」
その言葉を自分で言った瞬間、なぜか泣きそうになった。
今まで意識したことなかったが、避けられてるんだ。完璧に嫌われてしまったのだ。
「雪乃」
誰かが雪乃の名前を呼ぶ。無意識に見ると、少し離れた所に有奈が立っている。
「安藤が捜してたよ。辞書返してほしいって」
「あ、やっば・・・忘れてました!」
雪乃が慌てて走り去っていく。後には、ひなたと有奈が残されたわけだが、もちろん話すほど仲良しなわけではないので、ひなたも立ち去ろうとしたときだった。
「誤解してるの?」
有奈の言葉に、ひなたは少し驚いて振り返る。
「・・・・何を?」
「私と諒の関係。聞いたかもしんないけど、なんにもないからね」
諒という言葉を聞いてどきっとした。だけど、平静を装ってこくんと頷く。有奈は少しだけ笑った。
「でも、正直あなたには嫉妬してる。諒に気に入られてて」
どういう意味だろうか。そのままの意味で、ひょっとしたら有奈は川口のことを好きなのかもしれないと思った。
有奈は廊下の壁にもたれかかる。遠くを見るような目つきだ。
「小さい頃からずっと一緒にいた。幼なじみってやつ。だから、つきあってるとかいろいろ言われてきたけど、私たちはそんなんじゃなかった。でも、中学生くらいになると背伸びしたがるのかな。自意識過剰だけど、諒は私のこと好きなのかもしんないって思うようになったの」
そこまで言うと、有奈はため息をついた。
「実際は違ったけどね・・・・」
「そんなのわかんないじゃないですか」
「わかるよ。1番近くで見てたんだから」
はにかんだように彼女は笑う。ひなたは胸がしめつけられるような錯覚を覚えた。
「―――っていうのは冗談で」
「はい?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。有奈はふふっと笑う。
「何が言いたいかっていうと、私と諒はただの幼なじみだってことよ」
「まわりくどくないですか?初めからそう言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさい」
クスクスと笑いながら、有奈はひなたの背中を押す。
「・・・・・?」
「諒は生徒会室にいるから・・・言いたいこと言っちゃえばいいの」
「・・・大事な幼なじみに文句言っちゃうかもしんないですよ?」
「どうせならサンドバックにしちゃいなさい」
生徒会長とまともに会話したのは初めてだったが、こんなに砕けた人だとは思わなかった。
ひなたは駆け出す。川口諒に会うために・・・・・・