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第13回 お祭り2

 何を考えているのかわからない。それが率直な感想だった。

 さっきから隣でにこやかに笑っている川口をじっと見ながら、ひなたは心の中でため息をついた。

 なんなんだろう、この男は。ずっと前からあんなに美人な有奈と仲が良かったのだ。それなのに、なんで自分のような根暗を好きだと言うのかわからなかった。


「浅月さん?どうかした?」

 ひなたの異変に気づいたのか、川口がきょとんとした表情でこっちを見てくる。

 その瞳を見て、ひなたはこないだの合コンのときのことを思い出した。そういえば、あのときもこうやってじっとひなたの目を見てきた。

 まるでひなたのすべてを見透かしているような。


「こないだ、あのレストランで・・・・」

 何を言えばいいのかわからずに、ひなたは語尾を濁す。川口はすぐに思い当たったらしく、「ああ」と頷いた。

「2人にはお礼を言わなきゃってずっと思ってた」

「別に何もしてないって。ただ、有奈が前に逮捕された男の顔を覚えてたから、ちょっとやばいかなって」


 はにかむように笑う川口は本当に何も気にしてないようだ。

「それに、あの日はたまたま有奈の父さんが来ることになっててさ。あいつの親父、刑事でさ、まぁその関係で鉢合わせて向こうから逃げてっただけ。そうなるように適当に話合わせたから、もうあいつらから連絡が来ることはないかもね」

 よくわからないが、なんとかしてくれたことがわかった。

「でも浅月さんが合コンなんてなぁ・・・最初見たときショックで頭真っ白になったよ」


 まただ。言いようのない苛立ちを覚えた。

 そんなこと本当は思ってないくせに・・・本当に思っているのなら、そう簡単に口にしないはずだ。

「でも俺が口出しできることじゃないね・・・ごめんね」

 へへっと笑う川口。ひなたは我慢できなくなった。


「なんで私なの・・・・・・」

「浅月さん?」

「川口君には林さんっていう人がいるじゃん・・・今日だって私がお祭りに行きたいって誘わなければ・・・林さんと一緒に行けたのに・・・・」

 ごめんと謝った。それが川口を困惑させるだけだとわかっていても、やめることができなかった。


「・・・たまに誤解されるけど、俺と有奈はなんもないよ。ただの幼なじみっていうか、浅月さんが思ってるようなもんじゃない」

「・・・・・・・・」

「俺が好きなのは浅月さんだ」


 そのとき、川口の後ろで打ち上げ花火が上がった。思わずそちらを見てしまうが、彼はひなたから目をそらそうとはしなかった。

 ずるい、こんなの。

 自分自身が何を望んでいるのかわからなくなってきた。いや、わかっているとは思う。素直にそれが実行できないだけだ。


「・・・・・それ、冗談にしか聞こえない・・・」

 その言葉に、川口が一瞬悲しい表情をしたのをひなたは見た。途端に後悔した。言うべきじゃなかった。なんてことを言ってしまったんだろう。

「―――今の・・・本気で言ってたら、結構傷つくな・・・・」


 帰ろうかと川口が言い出したのは、それからすぐのことだった。

 ひなたは頷くことしかできなかった。情けなくて、申し訳なくて、泣きたかった。


            ◇


 帰り道は無言だった。バイクの後ろに乗せてもらっているが、ひなたは居心地の悪さを感じていた。

 潮風が冷たく感じられる。後ろのほうからはまだ花火の音が聞こえている。お祭りは始まったばかりだ。


 わかってる。自分が悪いってことくらい。素直に謝ることができたらよかった。

 だけど、謝ることで余計に川口を傷つけることになったらどうすればいいのだろうか。それこそ後悔してしまう。


 嫉妬という言葉がひなたの中でぐるぐると回っていた。

 そう、たぶんひなたは林有奈に嫉妬していたのだ。名前で呼んでもらえる特別な存在。羨ましかった。

 もっと早く気づくべきだったのだ。川口の存在が自分の中でこんなに大きくなっているということに・・・・・


「―――っ!!」

 ひなたは何も考えることなく、目の前の運転手の腹を絞めた。驚いた拍子にバイクが変な音を立てて停まる。

「びっ、びっくりした・・・!なにすんの!?」

 げほげほと咳き込みながら川口が抗議する。


「ごめん・・・・」

 どんな反応をされるかはわからない。だけど、言わずにはいられなかった。それが今のひなたの気持ちだった。

「もう、いいよ」

 静かな川口の言葉。だけど、その一言でひなたは目の前にいるはずの人物の間に大きな隔たりを感じてしまった。


 またバイクは走り出す。そのままひなたの家の前まで乗せてくれた。


「今日はありがとう」

 そのときの川口の寂しげな表情が忘れられない。近くにいるのに、川口がとても遠くに感じられた。

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