第11回 合コン3
川口はまっすぐにひなたを見る。無表情だが、目で何かを訴えかけられているような気がした。
隣にいた彩香が不穏な空気を感じたのか、慌てて2人の間に割って入る。
「ちっ違うの!私が強引に誘っただけで、ひなたは合コンだって知らなかったの!」
違う。川口はそういうことを考えているわけではないようだ。彩香の言葉に頷くだけだった。ただ、目線だけはひなたからそらそうとしない。
なんとなくわかった。川口も有奈も、ひなたたちが考えていることを理解している。
ひなたの口から小さな声が漏れた。
「たす・・・けて・・」
できればこんな迷惑をかけたくなかった。
「うん」
ようやくひなたから目をそらした川口は、彩香を見てまた頷く。深刻な顔をせず、いつものように明るい顔だった。
「とりあえず2人とも外に出ててね」
「でも友達が・・・!」
「大丈夫。他の人もすぐに連れてくるから」
不安になる。一体どういう手を使ってまっちゃんたちを連れてくる気なのだろうか。それよりも、彼らの恨みが関係のない川口たちに向けられてしまわないか心配になる。
ひなたがそう考えていたときだ。ぽんっと温かいものが頭に触れた。
見ると、川口が優しく微笑んでひなたの髪をなでている。
「心配しないで。すぐ終わるから」
◇
そうして、10分くらいたっただろうか。レストランの外で待っていると、1台の車が停まって男のお客さんが入った以外は静かなものだった。
何か中であったらどうしようかと今さらになって不安になってくると、1人の少年がレストランから出てきた。
「川口君!」
思わず叫ぶと、川口はけろりとした表情で手を振ってくる。
「お待たせ」
「大丈夫!?中で何かあったの!?」
「何も?ごはん食べて喋ってただけだよ」
あっけらかんと川口は言い放つ。にこにこと笑っているが、その真意はつかめない。
ひなたが追究しようと口を開きかけると、またレストランから人が出てきた。今度は有奈だった。その表情はとても涼しげだ。
「中で何が・・・?」
今度は彩香が訊ねる。だけど、有奈はきょとんとした顔で彩香を見返してきた。
「何がって・・・何の話?」
さっぱりわからない。ひなたたち4人が困惑していると、川口がにっこりと笑う。
「まぁ・・・たまたま運がよかっただけだけどね」
「え?」
「あの4人にはもう近づかないほうがいいよ」
一瞬見せた川口の寂しげな表情は、明らかにひなたを見ていた。なんだか後ろめたい気分にさせられた。
ひなたは1人帰る道の途中、今日のことをずっと考えていた。
レストランの中で何があったのかはわからない。運が良かったと言うくらいなのだから、きっと何かあったことは間違いない。
だけど、それよりも考えることは・・・
今日の川口のひなたを見る目が、忘れられなかった。
◇
だけど、翌日。補講で学校に来ると、川口はいつもとなんら変わらずに登校中に待ち伏せしていて、
「浅月ひなたさん!俺とつきあってください!」
とかなんとか言いながら、うずまきキャンディを差し出してくる。いや、そんなもの渡されても困るんだが。
「・・・・・断る」
「ええっ!せっかくキャンディ作ってきたのに・・・」
どうやら手作りらしいが、なんだってキャンディなんだ。ひなたは返す言葉も見つからなくてそのまま歩き出す。「待ってよ〜」と川口が追いかけてくるのがわかった。
「ぐっちゃん、100回目の失恋!」
傍にいた坊主の男数人がひやかすようにからかう。ムキになって川口は、
「ちがーう!まだ98回だ!」
へぇ、いつのまにかそんなになるんだなと当事者であるひなたは思う。だけど、次の言葉に少しだけ疑問を抱いた。
「だけどぐっちゃん、タイムリミット目前だな」
「そうだ・・・100回ふられたらもうあきらめるって言ってたもんな!」
川口がまた怒りそうになっていたので、坊主の男たちはすぐさま逃げ去ってしまう。
そうなんだ・・・私があと2回ふったら、川口君はあきらめるんだ・・・
何かが胸の中に引っかかった。なんだろう・・・よくわからないけど。
ひなたの考えをよそに、追いついてきた川口がにこにこと笑顔で言った。
「デート、どこでする?」
今しがた告白してきた男の言葉ではないような気もしたが、一般的なデートというものを考えてみる。
「・・・お祭り、とか」
「賛成!」
川口が笑顔で賛同した。
次回は2人のデート編です。