第10回 合コン2
なんとなくこの瞬間を見られたくなかった。よりによって合コンしているときに出くわすなんて――・・・・・
ひなたはつくづく自分の不運さを呪った。
でも、向こうも生徒会長と仲良くデート中みたいだし・・・・・っていうか、なんでこんなことを考えなきゃいけないんだ。
「浅月さん?どうしたの?」
男に声をかけられ、はっとしてひなたは現実に戻る。
「いえ、なんでもないです」
手元にあったジュースを飲んでその場をごまかす。男は特に気にしたふうもなくにこやかに笑いかけてきた。
そうだ・・・気にしちゃだめだ。関係ないんだから。
と、そのとき、さっき一気飲みをした男がまた立ち上がった。今度は何をやりだすのかとうんざりしながら見ると、
「じゃぁそろそろカラオケ行こっか」
ん?カラオケ?
そんな話は聞いていないと彩香を見ると、彼女も知らなかったらしく、困惑した表情でまっちゃんを見ている。
「この隣に安いカラオケがあるんだ。おごるから行かない?」
その軽そうな笑顔が怖かった。ひなたは最初に感じた嫌悪感を思い出し、腕時計を見た。時刻は8時半を過ぎていた。
そろそろ帰ろうとひなたが立ち上がったときだ。さっきまで自分に優しく話しかけてくれた男に腕をがしっとつかまれてしまったのだ。
「―――っ!」
「どこ行くの?まさか帰っちゃうなんて言わないよね?」
カラオケに行きたいと純粋に思って誘っているのだろう。だけど、初めて合コンに来た頭の固いひなたから見たら、その笑顔はさらに不安にさせるにのに十分だった。
「・・・・・・ちょっとお手洗いに――」
そう言うことしかできなかった。ひなたは逃げるようにトイレへと走った。
なんでだろう・・・・怖い。こんなに怖い笑顔なんて見たことがなかった。
「ひなた!」
後を追うようにしてトイレに彩香が入ってきた。彼女の様子も少しおかしかった。
「ごめんね!ただの食事だけだって思って・・・合コンってなんとなく気づいてたけど・・・・・」
「いいよ。気にしてない」
彩香のことは怒っていない。ただ、男たちの笑顔に嫌悪感を抱いたのだ。
「それよりカラオケ行く・・・?」
ひなたの言葉に、彩香は微妙な顔をした。彼女の家は基本的には門限に寛大だ。だけど、そんな彼女が渋っている。
「なんだろー・・・ちょっとあの人たちやばい気がするんだよね」
同感だ。ただ本能的にやばい気がするだけだ。
「でも、ここで抜けたらまっちゃんたちに悪い気もするし・・・・」
「そうだよね・・・」
ひなたは客として来ていた川口たちのことを思い出していた。なんとなくこれ以上見られたくなかった。
と、そのとき、女子トイレに人が入ってきた。
「・・・・・・」
誰も何も言えなくなった。トイレに入ってきたのが、なんと生徒会長の有奈だったからだ。
彼女と川口の来店に気づいていなかったらしい彩香は驚いている。
「あれ・・・生徒会長」
と呟いた。一方、たいして興味のないように有奈はこちらを一瞥した後、無表情で頷く。
「あなたたちも・・・南勢高校の生徒?」
なんとなく上から目線の言い方だった。「はい」とひなたたちも敬語になってしまう。
しばらく静寂が支配した。
「じゃぁ・・私たちはこれで・・・」
これ以上話すこともないので、トイレから出ようとしたときだ。
「1つだけ言っておくけど」
鏡の前に立つ有奈の声に2人は振り返った。
「お相手の男性の中に、こないだ暴行事件を起こして逮捕された人がいるの。ほら、あなたの隣に座ってた人・・・」
有奈はまっすぐにひなたを見つめる。っていうことは、さっきまで話していた人かと思い当たる。やっぱり名前は出てこないが。
「私の父、刑事なの。だから顔を覚えたんだけど・・・・・・そこのところ十分注意をしてね」
そう言うと、手を洗って彼女はトイレから出て行く。ちょうど出ようと思っていた2人はなんとなく彼女に道を譲った。
逮捕・・・なぜか嫌な印象しか受けなかったが、そんな話を聞けばもう2人の決意は固まっていた。
「まっちゃんたちにも知らせられればいいんだけど・・・」
「メールしてみる?」
ひなたはそう提案してみたが、見るかどうかわからないし、バレたらバレたでやばそうだ。
とにかく2人は女子トイレから出た。なんとかするしかないのだ。
なんだか怖くなってきた。不安が体中を支配する。
どうしよう・・・・どうすれば――
「―――!」
そのとき、また誰かによってひなたは腕をつかまれた。さっきの男に腕をつかまれたことを思い出し、とっさに腕を振り払った。
そして、驚いた。そこにいたのは・・・・
「川口、君―――?」