ものがたりのおこり にょいん窟の淵かみさま
今のところここまでで終了です。 古い日本語はかな文字やひらがなで書きました。 内容はおとぎ話です。
2018年11月15日 16:00 更新
轍には壊れた木材と車輪が散らばっています。
折れた草は棺がひきずられたあとだけが残っています。
やがてそこは苔の柔らかな足跡と二本線の石棺があるだけです。
「あにま(神)我々の祖先よりたたりし神よどうかお出になってください」
その小汚ない男に答えるものがおられます。
「わしならとうに出ておるわ」
「ああ、にょいん窟のどこにおられるのか私にはわかりませぬ。だが、おわすことはわかります。どうかどうか御無礼をお許しくださいませ」
「お前たちの無礼はいつも唐突に来る。刹しても良いがわしはお前のそれに興味がある。申しを許そう」
いちまいは一生涯困らぬ衣服。
そしていちまいは、鏡、櫛、穂先の柄、化粧道具。
そして最後は。
「我が嫁の棺にございます」
「死人は女人禁制ではないと思い連れて来たのか」
「あにまよ、どうか誤解を招いてしまって申し訳ございません。わが妹子、わが妻はやはり死んでしまったのでしょうか」
「石に丁寧に埋葬されておるがな」
「私には見ることができませぬ。蓋を開けることができませぬ。装飾を施し丁寧に埋葬されたと聞き及んでもなお、わたくしの耳には届きませんでした。ある日別のヌヒが石に水漏れが出ているといいに来てもなお……私は妻に近づく盗人を殺すことしか頭にありませんでした」
「ほぉ」
たしかに斜めになった石棺から水の裂け目のような漏れが見えます。
たぶんと言わず装飾品の飾り釉薬は溶けているだろうに。
「あにまよ。どうかわたしに力をくださいませ。わたしに勇気をくださいませ。わたしはただ、ただ、いとおしい恋ひとと一緒に墓に入りたいのです」
「お前なら立派な円墳墓がたつであろう」
「生涯を妻と別れてすごし死してなおひとりはつろうございます。ただ、ただ、これが本物の妻であるかないかが怖いのです」
男はあにまに、長いこと長いこと額を地面に下げ続けたのです。




