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池田に説教じみた事を言われて、少しは響いたが
モヤモヤしながらいつも通りVRのスイッチを入れる。
いつものURLをクリックして
いつも彼女が居る、アキバの店に行く。
「こんばんは〜。」
「あ、マコちゃん!今日は早いわね。」
店に行くとほぼ必ず居る、ドラグクイーンのアバターでかなり目立つネトゲ住人
アキラさんがカウンターに座っている。
「今日はまだエルちゃん来てないよ。」
「そうですか。」
店にはアキラさんと自分しか居なかった。
「…ねぇ、あなた達随分仲が良いみたいだけど、付き合ってるの??」
一瞬ドキッとする。
「…いや、そんなんじゃ無いですよ(笑)」
あえて「(笑)」を付けてみる。
自分の本当の心は「(モヤ)」が正しい。
「あら、ごめんなさいね。てっきり…。」
「いや、すいません。こちらこそ期待に添えなくて。」
アキラさんがカウンターを出て、自分の隣に座る。
「ねぇねぇ、マコちゃんはリアルで彼女とか居るの??」
「いや、それも居ないっすね。」
「やだー!じゃあ私と付き合う??」
恥ずかしげも無く、超ド級のストレートをぶん投げてくる。
「…アキラさん、ジェンダーですもんね。
すいません。オレ、ノンケなんで…。」
「え〜、試してみない?以外とバイセクシャルに目覚める子も居るのよ。」
「いや〜、ちょっと興味ないんで…。」
「そーお?
じゃあボイスチャットしようよ!!声だけ聞かせて〜!!!」
「へへへ…。」
(もう笑うしかない。)
「ねー、いーじゃん!減るもんじゃ無いし!」
「…。」
「んー…、じゃあ分かった!
皆んなでチャットすれば良い???」
「ん?」
「店のみんなにも声かけるよ!
エルちゃんも誘って!それなら良いでしょ?」
(!!!!!!)
「やりましょう!!!!」
「あれ〜?なんだか急に態度変えてない?」
「全然変えて無いです。」
「うーん…なんか、やな感じ…。辞めよっかな。」
「ちょっと待ってアキラさん!
オレ放送委員で、めっちゃイケボって言われてたんです。」
「イケボ??」
「イケてるボイスです!」
若干被せ気味で返事をしていく。
「…そぉ…。それならやってみよっか…。」
「お願いします!!!!」
アキラさんがみんなにメンションして、ボイスチャットを21:00から店でやる事になった。
それまでに急いで夕飯を済ませ、風呂に入りスタンバイする。
21:00
「みんな〜元気〜?」
アキラさんのアバターが喋り出す。
想像通りの低い声で笑う。
「今日はさ〜、最近仲良くしてるマコちゃんが、どーしても皆んなと話したいって言うから集まってもらいました!
よろしく〜、マコちゃんコラボ入ってきて〜!」
「ヒュー」っと別の仲間が口笛を吹く。
声を出すまでにすごく緊張した。
学校の初放送の時より緊張した気がする。
「…あ、どうもマコトです。こんばんわ。」
「きゃー、イケボ〜。本当にイケボじゃーん!!」
アキラさんが煽る。
「ねね、マコちゃん。もっとなんか喋って!」
「…はい。」
「じゃあさ、大体どこら辺住んでんの??」
「えっ!それ聞いちゃいます?」
「大体で良いのよ、大体で!
関東近郊?それとも関西とか??」
「したら関東です。」
「私も〜!」
嬉しそうにアキラさんが答える。
「ねね、エルちゃんも関東だよね!」
「…。」
「あれ、エルちゃん居るよね?
エルちゃーん。」
「…はい。」
(ドキっ!!)
想像以上に優しくて可愛い声…
心拍数が上がる。
「エルちゃーん、なんか緊張してる?」
「あ、はい…。
なんかマコトさんの声が思っていたのと違って…。」
「え…?な…なんか…変ですか?」
「…いや、変じゃ無いです。
とってもカッコよくて…びっくりしました。」
カ、カ、カ…
カッコよくて………
神様…この世に産まれて本当に良かったです。
お父さんお母さん…この声に産んでくれてありがとう。
感謝。
「えっと、なんだろな…。
なんか喋るの恥ずかしくなってきたぞ…。」
照れ隠しに言う。
「ふふふふ…。」
彼女が笑う。
「ははは…。」
オレもつられて笑う。
幸せ感が…ハンパない。
「ちょっとさー、なんか2人だけの世界になってない??ムカつくんですけど〜!」
アキラさんが噛み付く。
周りがヒューっと囃し立てる。
「いや、ちょっと、違いますから。
そんな雰囲気出してません…。」
ヒューヒューが止まない。
「もー皆んな!2人は放っておいて、話すすめるわよ!!
そしたらいつも通り皆んなで意見出し合っていきまぁす…先ずは…。」
アキラさんが話の舵を取り直す。
今日集まったメンバーは大半がこの店にコスチュームを出しているCGクリエイターだ。
各自好きなコスチュームを出品しているが、もう少し全体の集客を上げて多くの人に作品を見てもらうように時々皆んなで相談している。
どうしたらを客を集められるか、
悩みは現実世界と同様だ。
自分はほとんど口を挟まず聞いているだけだった。
時折聞こえるエルヴィンの声が、本当に優しいくて…可愛くて…。
あいづち
笑い声
どれを取っても、すごく…良い…。
話の内容はほとんど頭に入って来なかったが
…どうやら店のフォルムをもう少し目立つ様に変更したらどうかという方向に進んでいる。
「うーん。
ちょっと仕事が立て込んでて、なかなか取り組む時間がないんだよなぁ。」
と、言うのは建物のCGを作成しているタケさん。
「そしたら誰か手伝いが居れば出来るってこと?」
「そうだね〜。誰か手伝ってくれたらなんとか出来るかも。」
「…っじゃあさ、マコちゃんに手伝ってもらえば??」
「…ふぇ??」
急に自分の名前が出てきて目が醒める。
「だって、あなた何にも作成してないし
どうせ暇なんでしょ?」
アキラさんが鋭く突いて来る。
「いや…でも、オレあんまり知識ないし、マイクラぐらいでしか建築やった事ないんですけど…。」
「大丈夫よ!タケさんプロだから、全部教えてくれるわよ。
それとも私が教えようか?手取り足取り〜。」
「いや、それはいいです。」
参加者が笑う。エルヴィンの笑い声も聞こえる。
その声がなんとなく後押しした様に聞こえて
「じゃあ一緒にやってみる?」
とタケさんから聞かれ
「お願いします!!!」
と勢いで返事してしまった。




