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進学校に合格し、家から1時間かけて通学している。


満員に近い電車の中で、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。


自分はこの時間が嫌いではない。


電車が好きなのもあるけど、一種トイレの中でくつろぐ様な

自分だけの時間を味わえるもんだと思ってる。


たくさん人のいる中で、それでいて誰にも邪魔される事なく過ごせる時間…。




停車した駅から知ってる顔が乗ってくる。

唯一同じ町から通学している池田だ。


池田は一見すると大人しそうな感じだが、

e sportの全国大会に出場する程ゲームが上手い、ハンドルネームでは結構名の知れたヤツだ。


入学当初はゲームの共通話題で盛り上がった事もあるが、

つるむタイプの人種じゃない事から時々電車で会えば話をする程度だ。


そもそも池田は学校の出席日数がギリギリの状態で、たまにしか登校してないというのもつるまない理由の一つになっている。


「おう池ちゃん。珍しくね、学校に来んの。」



「あー、たまには行っとかないとリアルに卒業がヤバイから。」


表情の乏しい池田の目は笑わないが、口角だけは上がり笑顔になんとか見える。



「おれ昨日アキバ行った。」


「そうなんだ、なんか探してんの?」


「いや、別にぶらっと。」



満員でも乗客は皆イヤホンをしてスマホを見ているか、寝てるかしてるため、自分らの会話には無関心に見える。



「新しいVRの体験やったんだよ。」


「ああ、何のソフトやった?」


「仮想世界だったけど、これがマジリアルで驚いた。」


「あれかぁ〜。

まあ今のCGはあんなもんよ。

前作は逆にレベル低すぎだったんだよ。」


辛口評論家的なノリで自信満々に答える池田。




「なぁ、あれって結局出会い系だろ?」



「うーん。簡単なCGのスクリプト学びたい人とか若干は居るだろうけど…出会い求めてる人が大半って感じだよね。」



「やっぱりそうなんだ…。

でもさ、本当に出会えるとかあんのか?」



「…まあ、結構リアルだし…あるんじゃねぇの。

…ただ余程現実に絶望してる奴らが、逃避のためにやってる感はあるよな…。」



ギクっと胸に何かが刺さる。



「…でもアバターのCGはかなりリアルだったから、本気で好きになっちゃう人とか出てくるんじゃね?」



「そうだなぁ…風俗とかもエリアであるらしいから、そっち方面でのユーザーがいるかもしれないな。

でもエリアに入るのは18禁だったと思うけど。

………

お前、なんか…気になってんの?」



「あ?!なんで?」



「いや、いつもこんなにゲームの事で盛り上がらないからさ。

………

いつもは俺にリア充語ってくるじゃん!」




「…まあ、たまにはゲームも良いかなぁって…

……興味持っちゃ悪いのかよ!」




「いや、……別に良いけどね。」



何か見透かされてる気がして、迂闊に池田の顔が見れなかった。



実際キモゲーには興味がない池田から見たら、もうすでにヤバイ奴になってるかも知れない。


「………………。」





「ま、やればいいんじゃん!」


何かを悟ったのか、池田の声のトーンが明るくなる。




「オレも一応アカウント持ってんぞ。」



「え?なんだよ、お前もアカウント持ってんのかよ!」



「いや、ゲームなら喰わず嫌いせずにやってみんのがオレの信念だから。

嫌なことでも仕事と思えば、やたらに無下にできんだろ。」

池田の最大級の気遣いを感じる。



「ああ、なるほど。」




「んー…じゃあ型落ちのVRやろうか?」


「え!!!まじで??良いのか??」

踵を変えて池田の方を向く。



「っんだよ、お前!わかりやすいなぁw」


今度はしっかりと目を細めて笑う池田の顔がそこにはあった。







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