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1ヶ月後…



「おい!着いたぞ〜アキバ!」


車から飛び降りた同級生の明るい声が街の喧騒に掻き消される。




esports世界大会開幕当日。




一旦高校に集合して会場のアキバまでは、先生が運転手になって連れて来てくれた。



急に学校のアイドルと化した池田から、応援のチケットをゲット出来た男どもが連なって会場を目指す。


「なんだお前、まだ暗い顔してんのかよ?

元気出せ、今日は祭りだぞ!」


体格の大きいリア充高橋に背中をバンッと叩かれる。


なんでリア充の奴らは、こんなにも祭りごとではしゃぐのか分からない。

そもそもたいして知らないゲームの大会に来て何が楽しいのかって思う。



(お前らやらねーだろ、ゲーム。あんまり興味無えって言ってたよなぁ。)




「っちっ!」


急に怒りがこみ上げてきて舌打ちする。


楽しそうに前方を歩いていた友達が振り返ってこちらを見る。


喧騒に紛れたつもりで素知らぬふりをして周りを見渡す。


首を傾げた友達の壁は、また前を向いて進み始めた。




前方の壁の中から1人立ち止まり、自分が近づくと肩を組んでくる。



「マコトよ。お前が居たから今日の俺らがある。その点に関しては礼をまだ言ってなかった。感謝してるぞ!」



「は?」



今更コイツは何を言いだすのかと聞くことすら自分の労力が勿体ない為、これが今の俺に出来る精一杯の返事だった。




「お前なんか最近冷たいよなぁ〜。ほんと何にもねーのかよ。

なんかさぁ、反抗期?斜に構え過ぎじゃねーか?」




事実以前と比べて無邪気にはしゃぐ事は無くなった。


反抗期って何でもまとめる言葉のセンスが悪すぎて、言い返す気もない。




(大人になったって言ってくれよ、大人に。)



どうせ分かって貰えないと思って、何も言わないで通している。







世界大会の応援に行きたくないのは、自分の気持ちがそれどころじゃないってのが大きかった。


ただ単純に友達と無邪気にはしゃげる気分じゃ無い…。



俺は学校で池田と一番親しい。


池田の世界大会出場が決まった時は俺も喜んだ。


その話は学校で直ぐに広まり、PTAから横断幕も用意される始末だ。


当然校内は「池田頑張れよ」が合言葉のように蔓延し、学年が違う子の中には俺を池田と間違えて挨拶するヤツも出てきたくらいだ。




日に日に「当日応援しに行きたい輩」が増殖しはじめる。


デカデカと宣伝される池田の世界大会は、日本で開催される初めての世界大会でもあり、入場チケットは完全なプラチナ状態だった。


個人で入手するにはよっぽどコネが有るか、張り付いてたオタクか。


到底高校生が手に入れられることも無く、行くなら池田の持っている切り札を使うしかなかった。



関係者用チケットだ。



池田の好意により、10枚ほど学校に進呈された。


自分は当初行くつもりはなかったけど、池田直々のご指名だった。




「俺が優勝すると、多分テレビクルーも関係者にインタビューすると思う。そん時に対応できるやつが居ないといけないから、頼むな。」





(どこに気を回してんだよ!)



突っ込みどころ満載だが、俺の心は突っ込む元気も無くなっていた。


ウンともスンとも言わない俺を、ハイエナ共が勝手に応援計画をノリノリで企画してくれた。




そんな自分もとりあえず流れに逆らうことなく今日を迎えていた。









アキバに一昨年建設されたesports専用の競技場。中に入るのは初めてだ。


さすがに電脳先進国と呼ばれるだけあって、工夫が凝らされている。


ほぼほぼ係員がAI搭載のロボットだったり、

空間に散りばめられたモーショングラフィックスの数々が入場者を驚かせて楽しませている。


会場の中は独特の雰囲気に包まれていた。


1度に20試合近く出来るようにブースが仕切られており、各ブース上方にはスケルトンのモニターが浮遊する。


その周りを観客がグルっと取り囲む様になっている。







池田率いるチームジャパンは開催国としてシードを獲得しているため、試合は2試合目からだ。


少し時間があるので会場内の催しで楽しむことになり、ウロウロと練り歩く。





最新のゲームをそれぞれの会社がアピールする催しが多い。


もちろん仮想世界のブースも設置されていた。




心がざわついて近づくかどうするかためらったが、そんな事御構い無しにリア充高橋が物珍しげに近寄って、係員にVR装着を促されていた。




「うぉーーーー!すげ〜!マジリアルじゃん!」



「…おい!声デカくて恥ずかしいからやめろ!」



万が一知ってるユーザーに見られたら恥ずかしくて、思わず駆け寄って注意した。



「え?なんかマズイ事言った?」



俺の反応を見て驚く高橋。



「いや…別に…」


ちょっとムキになってる自分に気がついて小さくなった。





考えたら俺のアバターは知ってても、現実の俺が誰なのか仮想世界の住人が知るわけが無い。


例え大きめな声ではしゃいでる友人が側にいても気にすることではない…





自分の大事なおもちゃが弄ばれてる気になりムキになってる俺の方が、よっぽど子供じみてて恥ずかしい気がした。



「マコト!お前もやってみろよ!」


ひとしきり楽しんだ高橋からVRのバトンを受け取る。


下手に抵抗する気も無くて、黙って装着した。




視界が一気に変わり、海の見える丘に立っていた。

周りは草原で、景色がすごく良い場所だ。


見たことのない場所だったので、きっとこの企画のために作られた場所だと思った。




誰もいない。






横には3メートル程度離れて、隣で操作しているだろう人物が現れた。


自分と同じように周りを見渡す。


こちらを見て軽く手を上げて挨拶をされたので、同じように返した。





タイミングを見てVRを外す。


係りの人が寄って来て、感想を聞かれた。


適当に答えている後ろで、ふと視線を感じたので振り返ったが、誰か見ているような人は居なかった。




「マコトー!」



声の方に向くと、すでに遠くのブースまで流れて行ってる友人達が人混みの中で手を振って呼ぶ姿が見えた。


そのブースを急いで後にし、友人達と合流した。



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