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学校帰りに街をウロウロする事にした。
彼女が投稿したであろう写真から同じ風景を探すためだった。
去年の同じ時期に投稿された写真に
無数のラベンダーが咲く場所があった。
その風景を探していた。
でも簡単には見つからなかった。
途中ファミマでスプライトを買うついでに
店員に写真を見せて聞いてみた。
聞くのに結構勇気が必要だったが、期待した答えは帰ってこなかった。
トボトボと歩き神社がある公園にたどり着いた。
ベンチに座り一気にスプライトを飲む。
少しむせて腕で口を覆い咳を何度かする。
そのまま天を仰いで、木の隙間から出る日の光が眩しくて口を覆ってた腕でそのまま目を隠した。
「お兄ちゃん…泣いてるの?」
ガバッと起きて前を見ると
柔らかなサッカーボールを持った幼い子が
俺に話しかけていた。
妙に恥ずかしい気がして、足を組み替えて視線を逸らした。
「けんじくーん、行くわよー。」
遠くに母親らしき人の影が見え、向こうで手を振っているのが分かった。
手に持った携帯の画像を覗き込む男の子から意外な言葉が聞けた。
「うちの幼稚園の畑と同じだ!」
「え?どこにあるの?」
「あっち」
男の子の指差す方に住宅街が見えた。
そのまま男の子は母親のいる方に走って行ってしまう。
「…あっちって…」
一瞬途方に暮れそうになったが、ひらめく。
携帯のマップを出して、指差した方角を拡大して検索する。
確かに幼稚園があった。
その時同時に嫌な予感もした…。
幼稚園にたどり着く。
敷地を囲うフェンスの外の隣の土地が畑で、
お手製の看板に
「さつまいも畑 しろばら幼稚園」と書かれている。
その奥には何列も綺麗な等間隔で苗の葉っぱが植えられていた。
そしてその土地の隣には
道に溢れるほどのラベンダーが咲いていた。
投稿画像と畑のラベンダーを角度を変えながら照らし合わせると、しっかり同じ絵になる。
ここで撮ったのは間違いなさそうだ。
画像と同じ場所は見つかったが、それ以外の手がかりは何もなく、また振り出しに戻ったような気がしていた。
色々な可能性を考えて歩き出したが、足が勝手にある方向へ向かっていた。
マップを見たときに気になっていた建物。
ラベンダー畑の裏手にある
ガン専門の病院だ。
その病院は非常に綺麗な建物で、見た目どこかのホテルの様なたたずまいだった。
入り口にはカフェのチェーン店が併設されている。
カフェに入り、飲めないコーヒーを頼んで窓際のカウンターに座った。
「ドラマならここで彼女と会えるはずなんだけど…………。」
周りをさりげなく見渡しても、彼女らしい人は見当たらない。
正確に言うと
彼女が誰なのか分からない。
「そりゃそうだろ。」
頭の中でぐるぐると無謀な自分の行動を、もう1人の自分が問いただしてくる。
考えが尽きたと言うか、考えないようにするために、もしくは場に馴染むため携帯をいじる。
ひたすらに彼女らしい投稿を携帯で見て、何か手がかりがないか読み返して考えていた。
シュレディンガーの猫の投稿をまた見ていた。
「生きているものと死んでいるものが同時に存在する、それは一種のパラレルワールドだと思う。
もし観測者が永遠に居なかったら?
そしたら結論に収束する事なく、永遠に両者が存在する事になると思う。
素敵じゃないですか?」
2つの可能性が同時に進行していく。
今の自分に考えられる可能性は2つどころじゃ無いけれど、
自分はある意味観測者として存在しているのかもしれない。
自分は彼女にとって開けないで欲しい蓋を開けようとしてしまったのではないかと思っていた。
この蓋を開けてしまったら…。
生きている猫…
死んでいる猫…
どちらの猫であっても、自分が納得のいく結論であるのか。
そんな訳がない…。
自分がいましている事の愚かさにやっと気がついて、コーヒーを飲み干しカフェを出た。




