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「とりあえずは無料の建築用CGソフトを使用すれば大丈夫だから…。
ダウンロードして、暇な時に少しいじっておいてくれる?」
「はい、やってみます。」
あの後タケさんと個別でボイスチャットをしながら、建築する新しい店について相談していた。
「にしても…君、あんまりデザインとかは疎い方だよね…。」
「…あ、はい…。」
やはり黒の上下でいつも居ると、センスについてそう思われても仕方がない。
「全くの初心者だと、やっぱり限界あるかもなぁ…。うーん…。
ちょっと待ってて。」
パチパチとキーボードを叩く音が聞こえる。
「…あ、もしもし。聞こえる?」
「はい…。聞こえます。」
聞き覚えのある、むしろ聞きたかった声がする。
「エルちゃんさぁ、時間あるときにちょっと手伝ってやってよ。」
「はい!もちろん!」
「んじゃあ決まり!そしたら先ずはモチーフなんだけど…」
思わず唾をゴクリと飲んだ…。
「…ってな感じで、ダークな教会をイメージして、ある程度設計はオレがするから、モデリングは2人にお願いするつもりだけどいい??…。
…あれ?聞いてる??」
「…あ!はい、分かりました!」
頭の中が真っ白になり掛けていたのか、慌てて返事をする。
「じゃあ、明日早いから今日はこれで!
またね〜。」
ブツッ!!
チャットが切れる。
(はぁぁぁ。)
一気に緊張の糸が切れたのか、ため息が出た。
仮想世界の中にはオレとエルヴィンのアバターだけが残っている。
「…。」
何か話したい…。
「もう眠くなっちゃった?」
少し間を開けて聞いてみる。
「うんん。まだ大丈夫だよ。」
「あのさ…。」
「うん。」
「…もう一度2人でボイスチャットしない??」
「………。
…やだ、恥ずかしい…。」
やっぱり拒否されたかぁ〜
と思って
「いや、ごめんごめん。変なこと言って…。」
と返信した瞬間、
着信音が鳴り響き
驚いて心拍数が急激に上がる。
鼓動が早いまま応答ボタンを押す。
「…も、…もしもし。」
「あっ…もしもし…。」
声を聞いた瞬間、緊張で心臓が飛び出るかと思った…。
「あ…聞こえる?マコトです。」
なんとか冷静を装って返事をする。
「うん、聞こえてます…。」
「ああ、良かった。」
「…。」
「…。」
「なんか恥ずかしくて…。喋れなくなっちゃうね。」
「そうだね。恥ずかしいね。」
声を聞くたびに可愛いくて、ドキドキする。
緊張から幸福に徐々にシフトして行く。
声が出そうになるくらいニヤニヤが止まらない。
「ふふふ。」
急に彼女も笑い出す。
「ん?どうしたの?」
「ううん。違うの。
マコトさんの声が思ってたのと違くて…。
聞くたびに笑っちゃう。」
「ん?どんなんだと思ってたの?」
「もっとフツーの声。」
「へ?フツーの声ってどんなんよ。」
「…わかんないけど…。
そんなカッコイイ声じゃない声…。」
神様…
オレはもしかしたらこの子とボイスチャットをやる為に産まれて来たんでしょうか?
この瞬間の為に今まで生きて来たんでしょうか?
今オレは…
サイコーに幸せです!!!!




