×××××の町デストリンド
◆◆◆×××××の町デストリンド◆◆◆
「そういえば、ミレイは麻痺にかからないみたいなのですけれど?」
敵を動けなくするために麻痺付与を使っているのだが、ミレイはそれを無視して敵に特攻するのでたまに霧に当たる。識別は俺とミレイを交互に強化するのに使っているから麻痺を受けるはずなのだ。それと、枝を振って攻撃するよりも体当たりの方が効果的だという事が判明したのでもっぱら体当たりをお願いしている。
「魔木のなにが麻痺するというのかや?」
「あぁ、そうか、魔力的なもので動いているからそれを止められない限り動けるんですね。」
神経も筋肉もないみたいなのに歩ける、というか走れる。まさしくファンタジーだな。この調子なら異世界ライフを満喫できそうだ。
「まだSPは2残っておるのじゃろう?」
「ええ、残っていますよ。」
そういえば、歩きながら使い道を考えるんだったな。まぁ、このまま魔物調教を上げればいいか。
「効果時間延長付与がおすすめなのじゃ。普通はこんなものを取っても出番が無いのじゃが、ぬしは相性がいいのじゃ。」
「どんな感じなのですか?」
「効果時間延長の効果が効果時間延長自体にも有効なのじゃ。おぬしなら時間をかければいくらでも伸ばせるはずじゃ。」
「凄いですね。俺じゃなくても役に立ちそうな気がしますけど?」
「このスキルだけでは役に立たぬ。強力だけど効果時間が短いスキルを持っている場合でしか役に立たないようなものじゃ。そしてそんな強力なスキルを持っているのじゃから無くても何とかなる。今のおぬしもそうじゃ。」
「あぁ、確かに。掛けなおしを減らすためだけに6Spとか使うのは厳しいですからね。俺は1SPでよさそうなので取得しますけどね。リストのどのあたりですか?」
「半分より下。もう少し。そうじゃなくてもっともっとじゃ。ちょっと緩めて。そのあたりじゃ。」
【効果時間延長付与[入門]を取得しますか?1SP】Yes No
Yesで。
【どのスキルに適用しますか?】霧+毒付与[入門] +識別付与[入門] +麻痺付与[入門] +睡眠付与[入門] +身体強化付与[初級] ログ[入門] 魔物調教[入門]
霧で。よし、早速やってみよう。効果時間延長!
すごいこれ、どんどん伸びる。今こんな感じだ。
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中川 将太 Lv13 EXP30 下級ハイヒューマン 男性 クラス:観光客 HP217+74614 MP85 攻49 守40+17034 魔68 護75 速11
状態:効果時間延長[入門]+1200
スキル 霧+毒付与[入門] +識別付与[入門] +麻痺付与[入門] +睡眠付与[入門] +身体強化付与[初級] +効果時間延長[入門] ログ[入門] 魔物調教[入門] SP1
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状態:効果時間延長[入門]の+は1秒あたり10増えるみたいだ。
「効果時間延長[入門]ってどれくらい伸びるんですか?」
どうせ重なるなら何でもいいかと聞いていなかったが、どれくらい重ねればいいのかわからない。
「5秒じゃ。」
「みじかっ!さすが入門。」
普通に考えて掛けなおした方が早い。ランクを上げたりして使いこなせれば強いんだろうけどめんどくさがりの俺には難易度が高そうだ。+1200なら1日は持ちそうだし守はここで止めて護を増やそう。この効果時間で攻を増やすと大惨事になりそうな気がする…。ミレイの攻を少しだけ増やしておこう。
ちなみに、ミレイを識別しておけば、自分とミレイを強化できるのだ。もともと自分だけ当たるようにしたりしなかったりできるらしい。おかげで自爆の心配はない。あ、そういえば。
「俺のLv上げなんて霧伸ばして毒付与すればすぐに終わるじゃないですか!騙された!!」
すぐそのエリアで上げられる限界になるから結局ミレイのLv上げになるじゃないか。
「ぬしよ。チュートリアに来て5日も経つのに一度も近くにある町にすら立ち寄らずLv上げに勤しんでおるのじゃ。ここでのLv上げはもう十分じゃ。それに、ぬしは安い召喚じゃったから、若返りしておらぬのじゃ。効率を重視しないと時間が足りないのじゃ。」
「やっべ、なんか急がないといけないような気がしてきた。あれ、時間が足りないって何のですか?」
俺、こう見えても26歳なんだぜ?就職失敗してバイトなんかやってるからむしろ若く見えるって?うるさいわ!!!ああああ!大変なことに気が付いてしまった。異世界だから結婚適齢期がかなり早いんじゃ?やばいぞ…。
「チュートリアでは何歳くらいまでに結婚するのが普通なのでしょうか?」
「20歳じゃ。大学等に通う男性のエリートならば問題ないが、25歳を過ぎた女性は行き遅れと噂されてしまうのう。中学を卒業したら家の仕事を学び始める者がほとんどじゃ。まぁ、こうもあからさまじゃと、そう仕向けられておるとしか思えぬがの。」
「こうなったら、冒険者になって荒稼ぎしてエリートになってやる……!!」
一生独身は嫌だ。嫌なんだ…。
「低ランクの冒険者は哀れなほどモテぬ。生活が不安定でいつ死ぬかもわからぬからじゃ。」
「ラ、ランクを上げれば…!」
「短期間でランクを上げれば貴族に目を付けられ囲われてしまうじゃろう。それだけなら良いのじゃが、あちらこちらで戦争をしていたり、魔物の襲撃に対応したりしておる。そこに駆り出されてしまうじゃろうな。」
「なんでこんな魔物がいるのに戦争なんてしているんですか?どこにそんな余裕が…。」
「資源が偏在しているのじゃ。交易だけでは首が回らなくなった国から戦争を始めてしまうのじゃ。」
「勇者たちもっと頑張れよ!」
俺の代わりに平和な世界を築いてください!
「それも原因の一つじゃな。勇者やその子孫が寿命で死んだ後、その穴を埋め切れずに崩壊というパターンがそこそこあるのじゃ。」
「あぁ、300年持てばいい方って偉い人が言ってたなぁ…。」
「1億DPで1年若返ることができるのも原因となっておる。」
「え、優秀な人が長生きできるからむしろいいんじゃ?」
「では、上級貴族ならその恩恵を毎年受けられる国があるとするのじゃ。その座をめぐる争いは金や権威どころか命を懸けた戦いじゃ。泥沼化するに決まっておる。」
「妻に子供に親友にと、手を広げるといくらあっても足りなくなる。しかも若返りに使ったDPは循環しない。毎年若さを維持する為に国内からDPが消えていく?俺でもやばいってわかるぞ…。」
「都市核経由で作物や貴重品をDPに変換できるのじゃが、この場合は水などの資源が枯渇することになるのじゃ。」
「チュートリアって都市核もあるんですね。結局何かが足りなくなるというわけですか。魔物を狩ってもダメなんですか?」
「魔物が枯渇したことは無いしダンジョンもあるから最高の資源なのじゃが、犠牲者が出ないわけではないし、ずっと討伐隊を出し続けるわけにもいかないのじゃ。」
「資源扱いしているダンジョンが育ってそうで嫌だなぁ。あ、でも、討伐したら俺がダンジョンマスターになれたりしませんか?」
「コアは都市核として利用できるのじゃが、ダンジョンマスターにはなれぬ。DPを使ってダンジョンマスターになればおぬしのダンジョンコアが手に入るのじゃ。」
ダンジョンマスターになるには何DP必要でしょうか?DP100を消費!
【100億DP必要です。】
高い…。
「ダンジョンって自然発生しないのですか?」
今あるダンジョンって誰かがDPで作ったやつなのかな?
「当然自然発生するのじゃ。自然発生したダンジョンのマスターはそもそもいなかったり、ダンジョンが召喚したりするのじゃろう。この情報は伏せられていてなんとなくしかわからぬのじゃ。それとおぬしよ、ダンジョンマスターをまだあきらめておらんかったのかや?自然災害をDPで起こそうとすると高くつくのじゃ。魔物調教で十分じゃ。」
「ええ、そのようですね。」
「それは置いておいて、簡単な魔法の使い方を教えてやるのじゃ。水くらい出せたほうがよかろう?」
「あ、教えてくださるんですか?」
やっぱりあの時聞こえてたのかな?まぁ、今となっては無くても何とかなりそうだから使えなくてもいいけどせっかくだから使ってみたい。
「まあの。とはいえ魔法を使うだけなら簡単なのじゃ。なんかそれっぽい事を叫びながら魔法をイメージしつつ魔力をそこへ移動するだけじゃ。この時に魔力の属性を合わせたり形を合わせたりよりよさげな詠唱にしたりイメージを明確にしたりすると効果が上がるのじゃ。これは人によって違うから何がいいとは言えぬがの。」
「ものすごく適当ですね。水よ!あ、本当に出た!」
「Lvがそこそこ上がっているから若干効果が大きいのじゃ。霧で強化したら大惨事確定じゃのう。」
「トリアテ様がやっているなんか力のある言葉っぽいのってどうやっているんですか?」
「あれは魔法を使うための魔法じゃ。神力みたいなのを込めているみたいでなんかカッコイイからやっておるのじゃ。効果も少し増している気がするのしのう。」
あっ、多分これ意味ないやつだ。
「なるほど、俺にはそういう器用な使い方は難しそうなんでやめておきます。あ、もしかして、町に着いたんじゃないですか?」
「そのようじゃのう。間違ってわしに話しかけぬよう気を付けるのじゃぞ。」
「ええ、解っていますって。」
ミレイ連れて入って大丈夫かなぁ?フルーリは歩くだけって思われているからいいか。後ろを歩かせると誤解されそうだから隣を歩いてもらおう。
「ミレイ、隣を歩いてくれないか?」
―ミレイが隣に来た。
さて、身分証ないけど大丈夫かなぁ?トリアテ様に聞いておけばよかった。
「そこのお前、身分証を見せろ。」
凄くめんどくさそうな雰囲気のうえに態度がデカい。嫌だなぁ。
「田舎から来たので身分証はありません。ここで作る予定です。」
無くしたとか言うと再発行の為に調べられると載っていないからアウトだ。ないものは無いって言わないとね。田舎は、まぁ、田舎だろう。誰も住んでいないけど。お、俺は野宿してたし?
「へぇー、そうか。じゃぁ、仮身分証を作ってやるからついてきな。そのペットもだ。」
やっぱりフルーリは害が無い扱いなんですね…。
「ほれ、文字は書けるか?」
書いてある字は普通に読める。でも書けるのか?あ、書けるわ。
「なんだ、書けるのかよ。…よし、登録期限は3日だ。そして、仮登録料として1万DP払ってもらおうか。」
【請求:仮登録料10000DP】
これ、絶対ぼったくられてる…。門番ともめる?しばらく滞在する予定なのにそれはなぁ。霧をぶっぱした方が簡単そうだし払っておこう。支払い10000DP
【商談成立、仮登録証を入手。】
商談なのか…。
「チッ。まぁいい。さっさと行きな。」
「はい、ありがとうございます。」
払ったのに舌打ちされたよ。言われなくてもさっさと行くし。
普通の木造建築だなぁ。コンクリートや電線が無いだけマシか?でも街灯があるんだよなぁ。魔力で動いているのか?お、馬車だ。獣人っぽいのもいる!いいねぇ。異世界だねぇ…。うーん…めっちゃ場違いなのがいる。どう見ても戦車だ。うわ、こっち来たよ…。
「やぁ、君。日本人かい?ああ、気にすることないよ。日本人はたくさんいるからね。新人みたいだから声をかけただけなんだ。困ったことがあったらうちに来てくれれば手を貸せるかもしれないから覚えておいてくれたまえ。それじゃぁ、僕は忙しいんでね。」
名乗らずに去っていった。キャタピラ音が結構うるさい。これで文句言われないのだから、相当な実力者なのだろうか?現代兵器で無双していそうだからあまり近づきたくないなぁ。
さて、宿をとるべきか、冒険者ギルドに行くべきか。ギルドだな。時間の余裕を取るために、昨日は野宿したのだ。荷物は持っていないし時刻は昼くらい、宿は後回しでも間に合うだろう。
「あのデカいのがギルドかなぁ?」
デカい建物は少ない。あれじゃなかったら誰かに聞いてみよう。
「あれ、役場だったかな?まぁ、役場なら聞くのにちょうどいいか。」
雰囲気は地元で見た役場と大して変わらなかった。多分間違えたな。
「すみません、冒険者ギルドってどこですか?」
「冒険者ギルドはここを出て左に進み右手にある羽のマークの看板の建物ですよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
近くだったようだ。行ってみよう。
「ここか?なんか俺が思っていたのと違うぞ?」
どう見ても普通の家だ。酒場ですらない。豪邸ではあるのだが…。
「ここを紹介されたのじゃろう?違ったとしても紛らわしい看板を出しているのが悪いのじゃ。」
「それもそうですね。入ってみましょう。」
鍵は普通に空いているようだ。やっぱりここなのかな?
「すいませーん。ここは冒険者ギルドですか?」
なんか暗いなぁ。
―勢いよく扉が閉まった
え?もしかしてお化け屋敷?
「客だ!確保せよ!!」
「「確保ー!」」
―左右から何かが襲い掛かってきた
あ、うん。俺が避けれるわけないよね?
「つかまえたー」
「なかまだー」
―ミレイはオロオロしている
明かりがついた。
「よくやった。ようこそギルド自由の翼へ、入団希望者か?」
「すいません。間違えました。」
「そうか、入団を許可する!!」
「あぁ、ダメそう…。」
~×××××の町デストリンド~
ボロボロの標識にはそう書いてあった。何故か前半部分が潰されており、誰も気に留めていない。