霧の勇者は和平を願う
◆◆◆霧の勇者は和平を願う◆◆◆
「これ、いつまでやってればいいんだ?」
アークエンジェルはなかなかいい見世物だったけど、他は特にすることもなく、殺されそうなやつを石化して助けるのが妙に忙しいせいで魔王様たちと遊べないという実に面白くない1週間が経った。
「そろそろ王都では和平交渉が大詰めになった頃ですね。」
「ん?俺、使者とか送ってないけど誰かがやってくれてるの?」
「それはデストリンドの仕事なので、町長にやってもらいました。」
「ああ、それもそうか。早く終わらないかなぁ。」
「和平自体はほぼ確実でしょうけど、降伏した市町村の扱いで揉めるんですよ。」
「勝手に占領しちゃってるし、返せって言ってくるだろうね。」
「元に戻せばいいんじゃないの?」
「問題は、土地は返して欲しいと思っているけど、住民はいらないと思っていることですね。」
「まさか、降伏するような奴は要らないってか?」
「元々人口過多なので、なんとかしてこちらに引き取ってもらえないかと画策しているんです。」
「そうしてまた、デストリンドみたいに追い出されるのね。」
「なんか、全然解決できてない気がするな。」
「かといって、いつまでも押し付け合いをしていても仕方が無いので、そろそろこちらが住民だけ引き取る事になるはずです。」
「引き取るたって、どうやって?」
「とりあえずは別荘を使います。一番土地に余裕がありますので。建築物は、ウルビエラさんに外枠だけ作ってもらっています。」
「ん?そんな素振り全くなかったけど…?」
「トワイトライから別荘の指定位置に壁を建てているのですよ。そこからはゴーレムが運びますので。」
「そんな遠くに壁出せるの?!」
「もともと壁を遠隔操作していたじゃないですか。」
「それにしたって、見えない位置までカバーできるものなのか?」
「壁に耳あり障子に目ありってやつですね。MPが上がったから遠くの声も聴けるようにはなっていたらしいのですが、やっと実用段階になったのでしょう。今でも聞いてたりするんじゃないですか?」
「ほんとか?うるちゃん、おいでー。…なんてね。」
―しばらくするとウルちゃんが壁に乗ってやってきた。
「用事?」
「なんか、遠くの声も聴けるって聞いたから試してみたんだよ。ホントにできるなんてすごいね。」
「それほどでもない。」
やばいぞ、何も考えずに呼んだから、間が持たない…。でも、とりあえずかわいいから撫でておこう。
「いいないいな!わたしも!わたしも!」
「ああうん、あとでね。」
―ウルちゃんは真顔で微動だにしない。
喜んでいるのか嫌がっているのかさっぱりわからん…。やめておくか。
「どうしたの?」
「え、いやぁ。かわいいなと思ってつい。」
「そう。」
―ウルちゃんが頭を少しこちらに向けた。どうやらOKだったらしい。
「ちょっと!次は私の番なのにー!」
マカは左手で我慢してもらおう。今日はひさびさに両手に華だな。
「ふへへ…。」
「あー!!将太様じゃないですか!なにやってるんですかー?楽しそうですね!私も混ぜてください!」
うるさいのが来た…。
「ほーれ、取ってこーい!」
有頂天付与の霧を明後日の方向へ飛ばしてやった。
「さすが将太様!今日は大サービスですね!えい!くそ!まぁぁぁああてぇぇぇえええええ!!」
剣聖を識別して近づいてきたらより早く動くようにしておいた。それでもいつかは捕まえるだろうけど。
「ねぇねぇ、わたしにもやってみて?」
「有頂天付与か?どうなっても知らないぞ?」
「いいから、はやくはやく。」
「ほら、これでどうだ?」
「えへへ~。」
―マカが左半身にしがみついてきた。
マカのそこはかとなく主張する胸の感触が…って、
「いつもと変わらないな?」
「うん、そうね♪」
「やっぱりあいつがおかしいんだよ。」