相談
◆◆◆相談◆◆◆
「以上を踏まえて、将太さんに相談があります。」
「相談?」
「はい、相談です。この状況において、私たちが生き延びる方法があるとすれば何でしょうか?」
「えっと、逃げる?」
「なるほど、素晴らしい考えです。体力的、感情的、立場的に逃げられない方々は置いていくことになりますが、その方たちを生贄にすれば逃げ延びることができるかもしれません。」
「いやいや、みんな連れて行けばいいだろう?」
「海より先になんて行きませんよね?ともすれば逃げられる最大距離はせいぜい別荘までくらいです。その程度なら追手が来ると思いませんか?なんせデストリンドは大陸の端の方なのですから、追い詰めるのも容易です。」
「じゃぁ、戦うと。」
「はい、戦いましょう。ですが、相手は国です。いくら剣聖や治癒の勇者がいるとはいえ、デストリンドにそんな戦力はありません。…一人を除いて。」
「おにいちゃんの事ね!」
「お、俺?」
「そうです。将太さんだけが、この戦いを平和に終わらせることができる。私と協力して、デストリンドとミルダース王国を救いましょう。」
「本当にできるのか?俺は…虐殺とか苦手だぞ?」
「大丈夫です。私に任せてください。今後、誰一人殺すこともなく、ミルダース王国の平定に導いて見せましょう。」
「俺は、自慢じゃないけど臆病だ。面と向かって戦えって言われたら逃げ出す自信がある…。」
「問題ありません。降りかかる火の粉は私が払います。なんでしたら、ずっと屋敷にいてもいいんですよ?」
「俺は引きこもりじゃないから、屋敷から出るくらいはいいよ。でも、ダメそうだったら、連れていけるだけ連れて逃げるからね?ヴリトラに乗って、無人島でも探して、都市核でも設置すれば俺たちがいれば暮らしていけそうだろ?」
「私が失敗したらそうしましょう。協力して、もらえますよね?」
「ああ、行けるところまではな。」
「では、約束です。私が、死人が出ないような作戦を提案しますので、将太さんはそれを出来る限り実行してください。」
「わかった。努力するよ。」
「それでは…」
***トワイトライ元町長 アレイ・トワイトライ・ウェッツレイのターン***
「そろそろ中継砦が見えて参りますので、お気を付けください。我が領のみすぼらしい砦ではありますが、いらぬ矢傷でも負っては事でございます。」
「ふむ、そうか。おいお前、偵察を出せ。すぐに敵情を知らせるのだ。」
「ハッ!」
今更偵察を出しても遅いだろうに。せめて進軍を止めなければ本当に敵が詰めていた場合、報告を聞く前に敵に見つかって無駄になるに決まっておる。
まぁ、これだけの軍勢だ、デストリンドごときに後れを取ることもあるまい。
そう思いながらワシは、総勢3万と説明を受けた討伐軍を眺めた。
「それにしても、素晴らしい軍でございますな。」
「そうだろう?兄上が私の戦功を祈って兵を融通してくださったのだ。あの辺りから、あの辺りまでがそうだぞ。」
どうやら、半分以上が贈られた兵力のようだ。
「なるほど、良き兄を持たれましたな。」
どの兄か知らないが、うまくやったものだ。これだけ比率が多ければ、後で功績を主張出来よう…。
「き、霧だ!」
「毒の霧が来るぞ!」
「霧…?そういえば、新しい勇者が出たと報告がありましたな。」
「ふん、大したことは無い。アーヴィン。」
「ハッ、今すぐ対処いたします。」
しかし、彼らにできることはなかった。
英雄級の速強化によってもはや霧の速さは最高で時速36万km。人間が認識できるものではなかったのだ。
気が付けば既に霧に囲まれており、3万の軍勢は3万の石像へと姿を変えた…。
~兵力~
町で戦力となる人を集めてもせいぜいが数千人だ。
町で集める規模としては意外と多いように見えるのは、
町壁の外で暮らすのが難しく、自然と人口密度が高くなる上に、人口の流出も少ないためだ。
さらに、文明度は数多くの勇者のおかげでそこそこ高い。人口が溢れる要素ばかりが詰まっているのである。