死霊の洞窟
◆◆◆死霊の洞窟◆◆◆
「すごいキノコだな。感染とかしないよな?」
「ただの美味しいだけのキノコだったはずよ。ここにいるのがゾンビやスケルトンとかじゃなかったら資源地扱いになっていたでしょうね。」
「ああ、それが出るんだったな。となると例え安全とか言われても食べる気になれないよなぁ。」
「きっと、最初は資源地を目指したんじゃないかしら?待てども暮らせど人間がここに来なかったから諦めたのね。」
「森の中だったからなぁ。当てもなく探すのは大変だろうね。」
「まぁ、ここは無害認定されているし、いざ食料が足りないってなったら取りに来るかもしれない上に、スタンピードには参加してなかったみたいだから、使えそうなのをテイムするだけで帰るわよ。」
「いいのがいるといいけど。」
「話もできるし、字も書けるらしいのだけど、なかなかテイムできないらしいのよ。でも、将太なら大丈夫よね!」
「何の根拠もなく期待されても困るけど、その様子なら1体くらいはいけるんじゃないか?」
「ええ、きっとそうよ!」
「これはこれは、冒険者の方ですか?ようこそいらっしゃいました。キノコは自由に採取していただいてよろしいので、どうぞ、楽しんでいってください。」
遠目にスケルトンが見えたと思ったら普通に話しかけてきた。しかもすごく礼儀正しい。
「えっと、もしかして案内している人?」
人じゃなくてスケルトン?もとは人っぽい形だからいいか。
「これは申し遅れました。私、キノコ狩りツアーの案内をさせていただいております、68875番と申します。」
案内人か、なんか優秀そうだし、引き抜いたら悪いよね。他をあたるか。
「えっと、68875番さん以外に話ができたりするスケルトンっていませんか?」
「もちろん、たくさんおりますとも。我々のマスターは偉大な方ですので、配下のスケルトンはだいたい会話できますよ。」
「そうなんですか。凄いですね。」
「いやいや、有難うございます。でしたら、他のものがキノコを採取しているところでも見学されますか?」
「いいんですか?是非お願いします。」
「でしたら、こちらへどうぞ。5階までは冒険者様たちのための遊戯スペースとして開放していますので、6階へ行く必要があるのです。従業員用のショートカット通路がありますので。それとも、お急ぎでないのでしたらキノコ狩りツアーを堪能しつつ6階を目指す方にされますか?」
「いやぁ、キノコ狩りはやめておこうかなぁ。」
キノコについて何も知らないに等しい俺が自分で採ったキノコほど信頼できないものはない。
「そ、そうですか…。」
あ、ツアーの案内人だから、悪いことしたかなぁ。でも、急いではいないけど、遊んでいる場合でもないしね。
「俺は、仲間が他にもたくさんいるんだ。気が向いた時にでもみんなで遊びに来るよ。」
「そうですか!それは良かった!お待ちしておりますね!」
忘れずに来れるようにしないとな。ネネリムちゃんから紙をたくさんもらったし、1枚はメモに使わせてもらおう。キノコは別に俺達が食べなくてもいいし、ちょっとくらいなら毒が混ざってても大丈夫な魔物をテイムしたら食べてもらおう。スライムとかいないかなぁ。
68875番さんに案内されて進むと、スケルトンが黙々とキノコを採取しているやたら広いエリアについた。
「ここが我々スケルトンの作業場となります。この広さですし、キノコは好き勝手に生える上に、ダンジョンの御加護のおかげでとても成長が早いんですよ。おっと、あちらをご覧ください。」
キノコがにょきにょきと生えてきていた。テレビによく出る早送りみたいだ。
「うちは出来高制でしてね、規格品であれば、1本3DPでマスターに買い取ってもらえるのですよ。それをマスターが市場で売りさばいてくださるというわけです。」
「このキノコの平均販売価格は1本10DPみたいだから、結構良心的なマスターみたいね。」
「お客様は詳しいのですね。おっしゃられる通り、我々のマスターは思慮深く、いつも我々の事を思って努力してくださっているのです。」
「その貯めたDPって何に使うんですか?」
「これもマスターが我々のために店をいくつも用意してくださっていましてね。酒やたばこにアミューズメント施設、野球の試合の観戦チケットなんてのもあるんですよ。実は私、1724番さんのファンでしてね。今日はお客様をご案内できたので、次の試合は中継じゃなくて、観戦しに行けるかもしれません!」
あっ、出来高制なのに案内する相手が来ないから、給料きつかったのか。大変だなぁ。
って、そうだ。勧誘に来たんだった。とりあえず、あのスケルトンに尋ねてみよう。
「えっと、すいません。キノコ採取の仕事をされている方ですよね?もしよかったら、俺の魔物になって、旅とかを手伝ってもらえませんか?」
「あ、いや。俺はこの仕事が気に入っていますので。お誘いありがとうございます。」
「そうですか、突然お邪魔いたしました。」
「いえ、冒険者様をもてなすのも俺の仕事ですから。それでは。」
「あ、はい。」
普通に断られてしまった。まぁ、黙々と仕事してたし当然か。
「ダメだったみたいね。まぁ、気にすることないわよ。もっと暇そうなのを当たりましょう!」
「そうだな。」
「それでは、次へ参りましょうか、次は」
「自宅待機ィ~自宅待機ノヤツハドイツダァ!?」
―リッチっぽいのが急に現れた。
「ひ、ひぃぃぃ…。」
―68875番さんが素早く俺の後ろに隠れた。
「え、どうしたんですか?あれは何です?」
「自宅待機ハオマエカァ!?」
「おおおおおおれは」
俺がさっき話しかけたスケルトンだ。
「オ前ハ下カラ2番カァ!!次ハオマエダ!次ハオマエダ!!」
「う、あああ、嫌だ、嫌だ。」
「オ前ガ、自宅待機ダナ?」
―近くにいた別のスケルトンが捕まった。
「お、俺はまだ働けます!給料下げてもいいですから!だから!だから!」
「自宅待機、決定。」
「たすけて!自宅待機だけは!自宅待機だk」
―スケルトンが連れ去られて行った。
「あ、れは、何だったんですか?」
「う、うちはほら、ええ、えっと、出来高制、だけどですね?ほら、俺みたいな仕事がないのもいるますよね?それでも、生活できないと、その、ブラックって言われちゃうんですよ。だから、その、業績の最下位のものは、じ、自宅、待、機にして」
「自分から退職を願い出させるってわけね。」
どう見てもブラックです。本当にありがとうございました。
「そ、そうなんですよ。そそそ、その、内緒にして、くださいね?私の、クビ、飛んじゃいますからね?!」
「その、退職するとどうなるんですか?」
「ええっと、家賃が払えなくなるので、ここから、追い出されてしまいますね。その、我々はマスターのお力がないと、魔力を回復する手段がなくなっていつかは動けなくなってしまいますので。」
「完全にブラックね!」
「しーーーーーっ!聞こえたらどうするんですか!」
「俺、MPは回復手段無いんだよなぁ。」
「治癒の勇者ならできるわよ?」
「え、マジで?」
「じゃないとMP切れの症状を治癒できないじゃないの。」
「夏海ちゃんすごい。」
「これを餌にすればだれかテイムできるんじゃないの?」
「魔力、回復できるんですか?」
「え?ええ、多分ね。」
「本当ですか!ぜひとも!ぜひとも私をテイムしてくださいお願いします!!私、冒険者様方が来られるまでは最下位だったんです!絶対次は私になります!助けてください!!」
「いや、まぁ、俺はいいけど、許可とか取らないといけないんじゃ?」
「大丈夫です!うちのマスターは冒険者様に勝負を挑む度胸なんてありません!ですから早く!」
「しかしそやつ、治癒の勇者のうっかりであっさり死んでしまうのではないかや?」
「あれ、なんとなくありそうな気がするなぁ、って、68875番さん?どうしたんですか?」
―68875番さんが急に倒れた。近くにいた他のスケルトンも倒れている。
「あ、すまんのう。話しかけた余波で浄化してしまったのじゃ。」
「ああ、神様ですからねぇ。」
「トリアテ様がやっちゃったの?アンデット系は嫌いとか?」
「俺に話しかけただけで近くにいたアンデットに大ダメージが入ったらしい。」
「あー、神の御言葉を賜ったからなのね。それって、ダークドラゴンやベルゼブブとかも危ないんじゃないの?」
「そのドラゴンは属性が闇なだけの普通のドラゴンじゃ。ベルゼブブは亜神じゃから、大丈夫なはずじゃ。多少はダメージが入るやもしれぬが…。」
「属性が闇なだけのドラゴンと亜神のベルゼブブは大丈夫だってさ。」
「とりあえず、ここにいても意味ないわね。適当に足の速い魔物を見つけましょう?とんだ無駄足だったわ。」
提案したのはマロニカちゃんだったことは黙っておこう。
~スケルトン研究レポート~
スケルトンは弱点が多いが、疲労しない人型なので労働力としての使い勝手がいい。
骨を用意すれば生成コストも下げられるため、初期投資の容易さの点においても有用だ。
浄化された場合、骨はただの物質だからか残るのだが、これの再利用はできない。
浄化の痕跡を恐れて、霊が憑依してくれないのだろう。
この骨はよくできた偽物の骨でも代用できるので、用途に応じて変形させた偽装骨を使うのがよさそうだ。とはいえ、本来の形から離れすぎると使用できなくなってしまうことには注意が必要だ。