霧の勇者は帰りたい
◆◆◆霧の勇者は帰りたい◆◆◆
「最悪だ…。」
やっとの事で合流できたと思ったら、シルヴィアの兄が激怒。彼の護衛を割いてまでシルヴィア達を町に送り返しただけでなく、シルヴィアを連れてきた罰といって俺を最前線に放り込みやがった。言いたいことは解るが俺が連れて来られた方だ。
「よう、新入り。元気ねぇじゃねぇか。なんか良くないことでもあったんかい?」
おっさんが話しかけてきた。さっきまでは両手に花だったのに。
「いきなり最前列に放り込まれたら気落ちぐらいしますよ。どうせ戦が始まったら即突撃とかさせられるんでしょう?」
「させられねぇよッ。銃支給されただろ?あれをぶちかますのが俺らの役目なんだよ。って、どこにあるんだ?」
異世界行って最初に手に入れた武器が銃ですよ?俺マジがっかりだよ。借り物な上に魔ガンですらない。ぶっちゃけアクアレーザーの方が強いし邪魔なんだよね。
「ミレイが持ってますよ。俺はもっと強い魔法使えるからいらないんで。」
と言ってミレイが持っているアサルトライフルっぽい銃を指差した。
「おいぃぃぃ。なにッやっッてんだッよ!!」
―ミレイはおっさんの手を避けた。銃が気に入ったようだ。
「ミレイは頭がいいから大丈夫ですよ。」
「大ッ丈夫ッじゃッねぇよ!何で魔物が銃持ってんだよッ!不安しかねぇよッ!」
―ミレイが銃を渡してくれた。
「ほら、大丈夫じゃないですか。」
「いやッ!あー…。まぁ、それにだ。なんだよその恰好。防具はどうした?盗まれたんか?」
「え?俺はこの服しか持っていませんけど?」
「なんだと!お前Lv0じゃねぇだろうな?!くそっ。一般人を盾にしてんじゃねぇよ。今からでも戻せるか?」
「俺今Lv15ですし、防具は盗賊あたりから拾う予定だったのにアテが外れてしまいまして。」
「買えよ!そもそも、この辺に盗賊なんていねぇよ。くそっ。俺たちはそんなことしねぇのに…。」
「一人くらいやらかしそうな奴くらいいるんじゃないんですか?ほら、西門の奴とか。」
あいつめっちゃ態度悪かったぞ?
「あん?なんだ、あいつに会ったのか。」
「ええ。身分証持ってなかったから仮身分証を作ってもらったんですけど、やたら態度が悪くって。費用で1万DPもかかったし。」
「チッ、あのバカ。やめろっつったのにまたやったのか。」
やっぱりぼったくられたのかな?
「仮身分証は基本的に出さねぇんだよ。受け取ったやつが何かやらかして、捕まればまぁ、いいんだがよ。捕まらなかったら、誰が責任を取ると思う?」
「えっと、泣き寝入りでしょうか?」
家族とかいないから身分証が無いんだしね。なるほど、作っても役に立たないのか。
「仮身分を保証した奴。つまり、アイツが取ることになっちまうんだよ。1万なんて安すぎだ。」
「ええ?なんで見ず知らずの俺なんかに…。」
「お前みたいに身分証を持っていないのは町の外で生まれたか隠し子くらいだ。アイツは西の町の生き残りだからなぁ。思うところでもあるのかホイホイサインしちまいやがる。」
「帰ったら、お礼言わないと…。」
「そうだな。ほら。お前は、その堅そうな木にでも隠れて大人しくしていなッ。ほら、始まるぞッ。」
「総員、撃ち方用意!撃ち方始め!」
届きはするだろうけど、遠すぎるよなぁ。まぁ、命令だしとりあえず撃っておくか。
敵多いなぁ。たぶん1000よりは多いんだろうけど、だいたい何人かっていわれるとわかんないなぁ。
―敵軍の全面をすっぽり覆う壁ができた。黒っぽいから鉄のように見える。
おお、あれが壁か。めっちゃ広範囲に出せるんだな。何枚か並べるんかと思ったら1枚かよ。これで手詰まりになるから速攻で撃たせたのか。でも、もう撃っても仕方ないよな?指揮官が何か言っているように見えるけど、うるさくて全くわからん。まぁ、即席編成なんてグダるのは当然だよな。ミレイはしゃがめないからあたってるけど跳ね返してる。俺も大丈夫って事か。まぁ、立ち上がったりしないけどね。
なんで向こうは柵とか作らないのかと思ったら壁ごと進軍してくるのか。そんでこっちは押し切られたから頼りない柵しかない、というわけですか。
水計か?壁で川の水をせき止めているのか。でも、あんな遠くの水を流してどうするんだ?あ、カニが出てきた。なるほど、側面から攻撃するんだな。っていうか、魔法撃ってみてもいいかな?もし、これだけ離れていても正面のデカイ壁を抜けるなら壁の勇者は大したことないってわかるし、ついでにカニも攻撃してみて倒せたらこっちも余裕ってわけだ。なんせ俺、水魔法2回しか使ったことないし。抜けなかったら霧無双してしまおう。それでもだめなら?ミレイと2人で逃亡ですよ。敵勇者が見えるところにいないって気が楽でいいね。レーザーは極太でいこう。細いと当たった後どうなってるのか全く見えないし。銃はやっぱり邪魔だからミレイにあげよう。
―ミレイはさっと銃を受け取った。おっさんがこっちを見ている…。
魔法の邪魔になるから仕方ない。これで双子とお別れかどうかが決まるのだ。流石に敵前逃亡したら帰れないしね。俺が一晩で考えた詠唱を使う時が来たようだな。詠唱しないよりはした方がいいらしいし。
「ウコンセノズミ、テガウ!」
―俺のアクアレーザーが壁を貫通していった。おっさんが驚いている。
しまった。横に振ればよかったのか。まぁ、穴をあけれる程度の強度しかないなら脅威ではないな。カニを狙ってみよう。
「ウコンセノズミ、テガウ!」
―俺のアクアレーザーがカニを何体か蹴散らした。
これが、常人の1万倍の魔の力か。確かにこれだけで英雄になれそうだ。あ、やっと無駄撃ちを辞めたようだ。
「おい新入り、お前やるじゃねぇか!もう一発イケるか?」
正面の壁を何とかして欲しいんだろう。
「ウコンセノズミ、テガウ!」
―俺のアクアレーザーが壁を切り裂いた。
もう一回やれば通れるようになりそうだ。
「勇者発見。」
すごい、壁に乗って移動できるのか!じゃない、こんなところで勇者とか暴露するな!
「一騎打ちを申請。」
げぇぇえ?!そんなんあるの?!近距離だと壁の強度が上がるとかないよね?ありそう…。
「この勇者。ここで一騎打ちとは、解っておるのう…。」
トリアテ様まだ観戦気分だった!一騎打ちは断れますか?100DPを消費!
【断ることはできますが、勇者同士で断ると戦後の交渉で不利な材料になります。また、断った勇者にはペナルティーが付きます。】
独断で断れないじゃん!ペナルティーとか怖いし、そっと指揮官を見てみよう…。
「お前はさっき大魔法を撃っただろう?無理はするな。断っていいぞ。」
う、指揮官もいい人だ。むしろ断りづらい。しかもあれ、水を出すだけの魔法なんですよ。あの壁を壊せたから大丈夫そうなんだよなぁ。やばかったら降参しよう。女の子みたいだし、その時は許してくれるよね?
「受けます。」
「お、おい、新入り。負けそうだったら降参しても大丈夫だからな?無理すんじゃねぇぞ?」
「ええ、俺はチキンさには定評があるから大丈夫ですよ。」
良かった。降参してもアウトってわけではなさそうだ。
「いや、それはだめだろう…。」
「勇者。前へ。」
「ええ。」
「我こそは壁の勇者ウルビエラ・ラザニス!トワイトライの白き盾と讃えられし我を恐れぬならば、汝に一騎打ちを申し込む!」
「ええ?なんて答えたらいいか知らないよ…。」
「わしが考えてやるのじゃ!我こそは霧の勇者中川・将太!フラレイの森を滅ぼせし武を持ってお相手仕る!いざ尋常に勝負!これでどうじゃ。」
「いや、霧も森も黙ってた方がいいやつなんじゃ。」
「ぬしはこれくらいしか功績を持っておらぬから仕方ないのじゃ。それに、名乗りで嘘をつくと酷いペナルティーがつくのじゃ。」
「うーん、仕方ないか。我こそは霧の勇者中川・将太!フラレイの森を滅ぼせし武を持ってお相手仕る!いざ尋常に勝負!」
―壁の勇者は浮遊壁を展開した。
うわ、カッコイイ…。
―浮遊壁が飛んできた。
え?速い!痛っ…くない?でもこれ抜け出せない。押し返せるけどすぐ戻ってくる。投げ返すか?いや、わざわざ刺さらない面を向けてくれたんだしやめとこう。攻10万の投擲は危ない。もう名乗っちゃったし霧使うか。MP拡散が有効そうだし。
「む。退魔の霧。」
麻痺・睡眠の霧で拘束しよう。倒した感があればOKだろうし。
「睡魔…無念。」
さすが広範囲攻撃の霧は格が違った。一騎打ちだから壁に乗ってても逃げられなかったのかな?そのままにしておくと何されるかわからないし、俺はこの子を拾って本陣に凱旋しよう。
「ほれ、勝利宣言をするのじゃ。流石にこれは解るじゃろう?」
ゲームのノリでいいのかな?まぁ、いいか。
「敵将壁の勇者。霧の勇者が打ち取ったーッ!」
「「「ウオォォォォオォオオオーーーー!!」」」
良かったみたいだ。ふう。これで逃げれる。カニの勇者は数ゲーがメインみたいだけど、治癒の勇者はまだわからないしね。っていうか、ポーションとかあるのに、治癒の勇者って怪しすぎる。敵の壁はなくなったみたいだし、壁の勇者を倒したとか言いながら本陣に行って休憩しよう。
「壁の勇者を倒したぞー!」
「壁がなくなったぞー!全軍前進だー!」
え、ちょっと待って、俺が通り抜けるの待ってー!あ、ミレイありがとう。
―ミレイが持ち上げてくれた。誰もミレイを押しのけようなんてしないから安心だ。
~一騎打ち~
やぁみんな。戦の華といえばなにか知ってるかい?
大軍同士のぶつかり合い?計略の計りあい?圧倒的な技術力?
違う!違うよ!君たちは全然わかっていない!
一騎打ちだよ!一騎打ちしようよ!血沸き肉躍る戦いが見れるんだよ最高じゃないか!
日頃の努力をぶつけ合う素晴らしい舞台なんだ!
どうだ?わくわくしてきただろう?もし、我らと供に強くなりたいと思ってくれるなら、いつでも歓迎している!
日進月歩 副団長 メライヤ・ディルハーン