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31-35

―――31


「何かあった?」

 眞子は栗子の顔を見るなりそう言った。だがちひろも雪峯も居たため栗子はただ首を振った。不思議そうな顔をしながらも問い詰めることはしなかった。

 だが放課後になって、二人になった時に栗子は思い切って聞いてみた。

「眞子ちゃん、畠さんが仲尾くんに振られてたって知ってた?」

「へ? そ、そうなの?」

 眞子は驚きで目を大きく見開いていた。やはり知らなかったのだと栗子はほっと息を吐いた。

「それ、本当?」

「うーん、多分。本当だと思う」

「ふうん……それ、私も何か関係してる?」

 眞子は首を傾げる。栗子は言うべきか迷った。関係しているかどうかは栗子にはわからなかったし、言って何かがわかるかもわからなかった。

「ねえ、やっちー。どんなことでも言って。知りたいの」

「うん……。あの、ね、仲尾くんはね、好きな人が居るって言って畠さんを振ったんだって」

 栗子が眞子を見る。眞子も栗子を見つめていた。

「好きな人って……誰?」

 それがわからないのが問題だった。



―――32


 栗子も眞子も誰だろうかとあれこれ想像したけれど所詮想像だ。答えなど出るはずがない。だって二人は雪峯ではない。ちひろでもない。

 ふと、眞子は思いついて訊ねた。

「ねえ、やっちー。それっていつのことかな。畠さんが私たちに何かしてくる前?」

 栗子は少し考えて首を振った。

「ごめん。そこまで聞いてないよ。……でも、それが何かあるの?」

 眞子はもしもの可能性を考えた。

「わからない。でも、それがもし、ね、そのせいで私たちに意地悪する理由に繋がるかなって思って」

「え?」

「だって畠さんって恋バナ好きそうだよね。恨まれる理由ってもしかして、そっちなんじゃない?」

 そういわれれば、いつも彼女は恋愛話でよく盛り上がっている気がする。怖いから近寄ったりはしなけれど、騒いでいる声は聞こえてくるのだ。

「今度わかるなら聞いてみるね」

「うん」

 栗子の言葉に眞子は頷く。

 ただ怖いと思っているだけではいけないなあとしみじみ栗子は眞子を見直した。自分ひとりでは出来なかったことを眞子が教えてくれた。

「で、やっちー。他には何もない?」

「他?」

「結局それで仲尾くんが好きなのは誰だったのか聞いてないの?」

「ああ、えっとそれは――……」

 栗子はハッとして口を押えたが、もう遅かった。



―――33


 眞子が栗子をじっと見ていた。少々呆れたようにもみえるが、逃げるのは許してくれないようだ。栗子は観念して、嘆息した。

「聞いた話だから、本当かどうかはわからないの」

「いいよ」

 眞子は気にした様子もなく、先を促した。仕方がないと腹を括り、栗子は答える。

「もしかしたら、……眞子ちゃんじゃないかって言われたの。だから畠さんが意地悪するんじゃないかって」

「……ふうん」

 恐る恐ると眞子を見る栗子だが、反応は意外に薄い。もっと驚くか、戸惑うかするかと思っていた。

「それ、仲尾くんにはまだ聞いてないんだよね」

「え? あ、うん……聞くの?」

 何の感慨もなさそうに頷く眞子。もっとはしゃぐかと思っていた。栗子の視線を受けて、眞子は微苦笑を浮かべる。

「あのね、私だって内心はすっごいドキドキして驚いてるよ。でももし原因が仲尾くんだとしたらそんな場合じゃないなあって思うんだ。だからどうしようかなって思ってるとこ」

「そっか。でもどうやって聞くの?」

「普通に聞くよ。そのまま。それしかないし」

 それ以外に方法があるかといわれれば確かにない。

「大丈夫だよ」

 眞子はそう言って、笑った。



―――34


 眞子が眉を潜めていた。

 彼女は訊いたのだという。雪峯に、ちひろとのことを、誰か好きな人が居るかということを。

 栗子はその答えを聞いた。

「仲尾くん、言ってたよ。畠さんと話をしたことあるんだって。やっちーの言ったこと、間違ってなかったみたい」

 どこか怒ったようにもみえる眞子に、栗子は恐る恐るその答えを促す。

「私のこと好きなんだって」

 おざなりに言い放つ彼女に栗子は困惑した。嬉しいとかそういう感情は浮かばないのだろうか。

「そ、それで?」

「別に。それだけだよ」

「へ、返事はしなくていいの?」

「さあ?」

「………」

 眞子は目を逸らした。普通はその流れで付き合ってとなるものじゃないのだろうかと栗子は思う。自分に経験がないので強くはいえないのだけれど。

「……あのね」

 言い難そうにしながら眞子は小さく口を開いた。

「私は仲尾くんはどうでもいいんだよ。やっちーの方が大切なんだから」

 少しだけ頬が赤い。大切だと言ってもらえることが嬉しい。だけど雪峯を思うと少し不憫に思った。



―――35


 雪峯の想いを知った栗子と眞子だったが、それからどうするべきかというと結論は一つしか出なかった。

「畠さんに言うしかないよね」

「あの人とまともに話合いができればいいんだけどな」

 まともに話合いが出来るのならば、今の状態に陥っていない。だがそれでもはっきりと言っておかねばならないだろう。二人揃って眉間に皺を寄せた。

「出来るかな……」

「どうにかするしかないよね。……このままなんて絶対嫌だもん。仲尾くんの名前を使うとかしかないかな」

 栗子はそうだね、と同意して実際どうするかを話し始めた。

 雪峯には無断だが、彼の名を使わせてもらおう。そもそもの原因は彼にもある。雪峯は何も悪くないけれど。

 雪峯とはあれ以来挨拶を交わす仲である。彼のおかげで友人たちと再び話が出来るようになったのはよかったと思っている。また協力を、ということを訴えてくることも今のところはない。ただのクラスメイトだ。

「ま、そう思ってても畠さんは思ってくれないんだろうなあ」

 溜息を吐きながら、眞子はノートを折って手紙を作る。そしてそれをちひろの机の中に忍ばせた。



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