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―――1
はじめて会ったのは始業式だった。早めに学校に来た栗子に眞子はおはようと言った。新しい教室に話したことのない人たち、それらへの恐怖はその笑顔で消えた。以来、眞子は栗子の一番の親友になった。
―――2
「やっちー、お昼食べよう」
「眞子ちゃん、うん」
栗子は眞子に誘われ弁当を広げた。二人はいつも一緒に食事を摂っている。そして最近の話題はいつもとある漫画の話だった。鵺、と言う名前の盗賊が出てくる漫画だ。
「ねえ、今月の鵺見た?」
「見たよー。格好いいよねえ、鵺」
栗子の言葉に眞子の顔も綻ぶ。
「ねえねえ、どうなると思う? 姫様を追ってアズマも動き出したし気になるよねー」
「うんうん。姫様の気持ちがどっちに傾くかだよね。どうなるかなあ。やっちーはどう思う?」
「うーん。まだ鵺と姫様ってぎこちないよねえ」
「だねえ」
あれやこれやと想像を巡らせる栗子はこれ以上ないほど楽しいと感じていた。学校はあまり得意でなくて、男の子とはろくに会話も出来ない。友達をつくるのも苦手。だけど栗子は、眞子と会えた。
眞子と会えてとても嬉しいと思っていた。
―――3
それが始まったのは、夏休みが終わった二学期からだった。もしかしたらその前からあったのかもしれないけど、栗子は知らなかった。
「佐久さん、プリント出してって昨日言ったよね。持って来てないってどういうこと?」
非難の声はクラスの女子の中で強い発言権を持つ、畠ちひろだ。
「え、だって、明日でいいって……」
「あたしは今日って言ったはずよ。佐久さんが聞き間違えたんでしょう。しっかりしてよね」
「……ごめん」
憔悴する眞子。眞子がちひろに責められている間、栗子は離れた所から見ていることしか出来なかった。ちひろが去って、漸く栗子は眞子に近寄った。
「眞子ちゃん、あの……」
恐る恐る話しかけた栗子に眞子は一拍置いて振り返った。その顔には笑みが乗っている。
「やっちー、畠さんってばあんなに怒らなくってもいいと思わない? 一日ぐらい大目に見てくれてもいいのになあー」
「そ、そうだね」
「でっしょう?」
からからと明るく笑う。だから栗子は安心した。安心して、眞子は強い人だと思った。
―――4
「あたし、あの子嫌い」
教室に戻ろうとした栗子は、中からちひろの声を聞いた。ドアを開けようとした手が止まる。
「あの子、佐久さんって男子の前だと態度違うんだよ」
そんなことはない。眞子は男子でも女子でも同じように接している。違っているように見えるのなら、それはちひろがそう見ているからだ。栗子は教室に入るのをやめた。
栗子は女子の集団が昔から得意ではなかった。過去にクラス中の女子から無視されたこともある。あのような目には二度とあいたくなかった。
―――5
その日、栗子は学校を休んだ。体調を崩したのだ。
家の中でぼーっとしているととても暇であった。ぼんやりと眞子のことを思った。栗子がいなくても彼女ならばきっと大丈夫だ。けれどそれも少し寂しいと栗子は思った。