昔の彼女達
「で、結局あの人のことが懐かしい理由って、あたしもあの人の近くにいたからだよね?」
ユイが落ち着いたところで、小さいサユが覗き込むように尋ねてくる。
サユのこういった感の鋭さには、何度も助けられたなと懐かしみつつ、あの頃のサユを思い出した。
「あの人。ソラともう一人が対天使のエースで、わたしは天使の力を人に取り込む研究の実験体。ヒトの遺伝子と天使の遺伝子を掛け合わせたんだって。
本来は天使と戦うために行われていた研究だったんだけど、わたしはサポート能力の方が高かったから、前線じゃなくて裏でソラ達の補助をしていたの。
サユとユイは、わたしをサポートしてくれていた人の子なんだよ。だから、ソラとも何回も会ってたね」
わたしとソラが一緒にいると、ユイが恨めしそうな顔してこちらを見ていたし、わたしがソラに好意を寄せていることを知っていたサユは応援してくれていた。
あの日までずっと。天使との戦いも終盤に差し掛かったところで、サユが殺されるその瞬間まで。
サユは、わたしの事を案じてくれていた。
あの時のサユの顔を思い出したら、悲しくなって、目頭が熱くなり、涙が頬を伝うのがわかった。
ちゃんと目の前にいるサユは、驚いたのか目を丸くして、すぐにわたしの背をさする。
「レンごめんね。あたし何か悪い事言っちゃった?」
「ううん。サユは昔から、優しかったなって。ちょっと思い出しちゃっただけだよ」
わたしが笑うと、サユも笑う。
いつ終わるかわからなかった日常が、いつまでたっても終わらないというのは、なんて嬉しい事だろうか。
幸せをかみしめていたら、ユイが恐る恐る口を開いた。
「レン。昔の私はどうだったの?」
「ユイは昔っから、嫉妬深かったかな」
「何よそれ」
ユイが怒ってしまったけれど、あの時の楽しい時間は、だいたいこんな感じだったから、ユイには悪いけど今のままでいてもらいたい。そんなユイがいたからこそ、絶望的な状況下でも乗り越えることが出来たのだから。