イムという存在
「イムってどこかで聞いたような名前だけど、気のせいよね?」
ユイがまるで違いますように、と言わんばかりに尋ねてくる。
だが、そういう反応を見せるという事は、気のせいではないとわかっているのだろう。
「イムはイムラ君であってるよ」
「でも、イムラさんって、一緒に戦っていたって」
「イムの立ち位置はちょっと特殊だからね。順番に話していこうか。
わたし達が本格的に、天使との戦いを始める100年くらい前に、天使が襲来したって話はしたと思うんだけど、その時は、イムは人類の敵としてやってきたんだって。
でも、イムとしては、神になるつもりはなくて、偶々地球を襲ったときに、思いのほかに抵抗されて面白さを感じたって言ってたかな。一介の生命ごときが、高ランクの天使を倒したのが、決定的だったみたい。で、人類の中から次の神を作り出そうと考えたの」
その時戦っていた人たちを、わたしは話でしか聞いたことはないけれど、ソラやわたしのような特別な力を持った人たちではなく、軍隊とか自衛隊とかそういう人が中心となって戦ったという。
なんとか倒すことが出来ても、その被害は尋常ではなく、当時の主力はほぼ壊滅し、人口も1%以下まで落ち込んだのだ。
「以降は別の大天使に襲われても、簡単にはやられないように天使を送り込んで、人類全体の戦闘力を高めつつ、人々の潜在能力を少しずつ解放していった……って言ったらわかるかな?」
「旧世界の人類が、天使と渡り合えたのも、潜在能力を解放したからってことなんだよね。
たぶん、あたしが頭良かったのも、関係しているんじゃないかな?」
「言われてみるとそうかも。わたしたちが生まれたころには、そういった人であふれていたから、あんまり実感はないんだけど」
サユの言葉に、目から鱗が落ちる様な感じがした。こういったところは、昔のままだと思うのだけれど。
それに、旧世界の基準で、エリートと言えるところにいたのだから、ユイとサユが優秀な事には変わりないはずだ。それは良いとして、話を進める。
「ともかく、イムは人類を鍛えながら、神になりうる存在を探していたんだよ。神になるには、全ての大天使の力を手に入れないといけないからね。それに耐えられるだけの存在を見つける必要があったんだって」
「それがソラさん?」
「最終的にはそうなるんだけど、その前にも候補は何人もいたみたい。
復興していく人類の中に、イムラという名前で入り込んだイムは、その知識と戦闘力を分け与えて、相応の地位を手に入れた。その地位を生かして、候補の人を探し出し自ら鍛えていたらしいんだけど、結局ソラ以外は、天使との戦いの中でその命を落としてしまったの。
世界が壊れるギリギリのところでソラに出会って、イムの計画が進行し始めたって感じかな」
イムラのしたことは許せないことも多いけれど、終始ソラを神にするため、人類が唯一救われるであろう道だけを見ていたと言っていい。そういう意味で、イムが人類を救ったと言って良いのかもしれない。




