彼の話
季節は春と夏の中間と言ったところだろうか。
どうやら温暖化は深刻らしく、この時期に28度って言うのは、熱いと思う。それなのに、衣替えはまだもう少し先。
すべて開け放たれた窓から入ってくる風に、至上の喜びを感じていたら、もの言いたげな顔をして、ユイがわたしの席までやってきた。
「暑いね」
「暑いのはそうだけど、昨日の事説明してくれない?」
「説明って言われてもね。わたしの好きな人だよ」
「それは分かる。今まで見たことないくらい、嬉しそうな顔してたもん。でも、彼年上だよね」
「お酒は飲んでたかな」
「大学生?」
「どうなんだろう。聞いてみないとわからないよ」
わたしの答えが要領を得ないからか、ユイの顔が少しずつ怖くなっていく。
でも、ユイが聞きたいのは、そこではないと思うのだけれど。
次辺りに、質問されるかなと思っていたら、ユイが案の定、口にした。
「どうして、彼は私たちの事を知っていたの?
少なくとも私は、彼とは初対面だと思うんだけど」
「それは、わたし達がこうやって休み時間にダラダラ出来るのが、彼のおかげだからかな」
「どういう事?」
「かつて彼が世界を救ったってこと」
わたしの言葉を合図に、チャイムが鳴る。まだまだ言い足りない顔をしていたユイだったけれど、すごすごと自分の席に帰っていく。
ふと思うことがあって、ユイの背中に「今度パーティしようか」と声をかけた。「どういう事?」と不思議そうな顔が返ってきた。