第九話:剣道部
「白と時枝とやりあえる奴がいたとは……」
「ああ、今年の全国は団体戦で優勝できるかもな」
龍二は転校初日にしてちょっとした注目を浴びることになった。しかし、それは咲との婚約宣言の性ではない。
咲との婚約宣言はあまりにも恥ずかしがった咲が、時空魔法の一つ「記憶操作」で消し去ったのである。注目を浴びてる理由は龍二の剣道の腕だ。
「なんだ。全く錆び付いてないのか」
「お前、相変わらずの余裕だな」
打ち合っているのは修と龍二だ。中学三年間、全国準優勝を飾る修は箒星学院のエースになっていた。もちろん白真もだ。
「錆び付いてないって、瀬野は前の高校で剣道部に入ってなかったのか?」
「そうっすよ。短期の潜伏任務だと目立つわけにはいかないし」
白真はさらっと答える。バスターだからこそ通じる理由である。
龍二は九条高校で剣道部に所属しなかった。したとしてもどのみち記憶は消されるからだ。潜伏した痕跡は残さない、それが影の絶対的条件である。
「ふ〜ん。まっ、うちとしては強いやつは歓迎するがな」
余計な詮索をしないのも箒星学院ならでは。
したとしてもその記憶すら消されるのだが……
「だけど先輩、あいつは頭悪いから試合に出られるか分かりませんよ?」
「なんだと白!」
試合をそっちのけで龍二は白真に食ってかかるが、
「わりぃ、聞こえた?」
相変わらず無邪気な返答を白真はよこす。本当にこの少年が全国三連覇をやってのけたのか疑わしくなるときも多々ある。
「決まってるだろう!」
龍二は白真に竹刀を振り下ろすが、
「面! 俺の一本勝ちだ」
修は龍二の背後から容赦なく面を喰らわせる。それを笑う者多数……
「修……! テメェ〜〜〜〜!!!」
怒り狂った龍二を相手にするのは面倒ではあるが、この時ばかりはさすがに修も楽しかったのである。
「修ちゃんが笑うなんて珍しい」
白真の呟きでこの日の練習は終わった。




