第四十五話:片岡航生
突然現れた男に快は面食らった。龍一は既に治療中らしく航生が張った結界の中、どうやら義臣が到着する前に乱入したというところらしい。
そこへ一番期待していた男がゆっくりとこちらへ歩いてやって来た。
「よう、やっと戻って来てたのか」
「ああ、久しぶりだな、義臣」
航生は不敵な笑顔で答えた。翔が全てにおいて平々凡々と称するのとは全く真逆の、似ても似つかないワイルドな父親というのが航生だ。
快の感想としても「似てるところを見付けるのも至難の技、髪色ぐらいしか見当たらない」というレベルである。
「で、ここにいたドラッグの幹部連中は?」
「影に渡した。ついでに龍一と戦ってたのも消しといた。だが、本物の風野博士の行方はわからないみたいだな」
「そうか、はずれか……」
義臣は溜息をついた。航生ほどのバスターがつかめない風野博士の行方だ、おそらくドラッグの幹部を捕まえたところで分からないだろう。
「じゃあ、そろそろ快を気絶させといてくれないか? ここからの情報は危険なんでね」
「なっ!!」
まさに一撃。義臣は首筋を打って気絶させた。
「で、何を掴んだんだ?」
「ほらよ」
一枚のディスクを航生は投げ渡した。
「ドラッグとブラッドの金の流れだ。この細胞バンクも絡んではいたが、どうやらここは俺達を呼び込むためのダミーだったようだな。
数年前お前に渡したものは破棄してくれてもいい。あれは俺を騙した馬鹿が作り上げてたもんだ」
「へぇ、数学者の癖に騙されたんだ」
「まっ、そいつを消したおかげで手に入れたものだ、信用して構わない。確かな証拠として副社長が戻ってくるはずだぜ?」
義臣は汗タラタラになった。彼が絶対に苦手とするお目付け役が戻ってくるとなれば気が気でない。まず、仕事はサボれなくなる。
「その時、美咲の娘も一緒に帰ってくるはずだ。言っとくがその娘は間違いなく命を狙われるぞ。副社長と父親が守っていたから今まで難を逃れていたが……」
「……大丈夫だ。快達は強くなって来ている。それに必ず掃除屋界の闇は近いうちに現れる」
それと対峙しなければならないのはとっくの昔から覚悟していたこと。だからこそ、航生はそれ以上話すつもりはなかった。
「お前を造り上げた組織か……、お前の本当の両親はそこにいるんだろうな……」
それだけ言い残して航生は消えていった。
「……さて、俺も帰って寝るか」
「その前に治療が先でしょ、社長」
現れたのは氷堂仁のチームだった。優奈と秘書の智子、そして夢乃が指導している治療兵の中村が現れた。
「社長、早く傷を見せてください。あれだけの数のクローンを相手にして傷一つも負ってないわけがないんですから」
中村は義臣を座らせ治療を開始した。外傷はほぼなくとも、内部はかなりの酷使していた性かガタガタである。
「快は大丈夫なんですか?」
「うん、気絶してるだけだ。ただ、しばらくは動けないだろう。リミッター解除してるみたいだからね」
応急処置が早かった性か、命を失う状況ではなかった。
「とりあえず、本社に戻ろう。多分今回の件は全員に説明しないと怒られるだろうしな……」
それだけ言い残して義臣は眠りについた。
「社長、この数日間寝てなかったのよね」
「お疲れ様でした……」
こうして、細胞バンクの戦いは一時期終結したのである…




