表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/48

第四十四話:未来に託す思い

 厨房から出れば料理の弟子である以上に息子。どちらかといえば淡白でも親として怪我をした大地のもとへ行かないわけにはいかない。


「うちのバカ息子は?」


 TEAM総料理長、橘太陽は夢乃に尋ねた。


「大地ちゃんの命は何とか取り留めたわ。ただ、しばらく厨房に立つことは禁止ね。まあ、立てる状況でもないけど……」


 オペを終えた夢乃は一息付いていた。何人も怪我人はいたが、今回の任務に白真の実家である色鳥病院のスタッフを応援に呼んでいたのだった。


「ふん、死のルーレットなど使うとはまだまだ修業不足だ」

「仕方ないわよ、相手が相手だもの。それに相手を殺さなかっただけ立派だったわ」

「ふん……、あの気まぐれな死神が」


 太陽は舌打ちした。『死のルーレット』は太陽が編み出した術である。全てを運に委ねるとはいいながらも、気まぐれな死神の意志と術の使い手の意志も多少は働きもするわけだ。

 とはいえども、未熟な使い手では当然高いリスクを背負うのである。


「それで、SHINはどうするんだ?」

「私の子だからもちろん守る。けど……」


 夢乃は椅子に腰かけた。太陽は一つ溜息をつく。彼女の言おうとしてることは手にとるように分かる。


「SHINの体は確かに造られたものだ。お前と義臣の遺伝を継いでな。だが、俺達の子供はすでにSHINを弟にしたがってる。今はそれでいいだろう?」

「うん……、そうだね。私がそうしたいんだもの」


 夢乃は静かに答えた。



 その同時刻、快は一人の人物と再会していた。とはいえ、それは自分の意識に流れてくると言った方が正解だ。


「……おばさん」

「久しぶりね、快君」


 快の目の前に現れたのは死んだはずの翡翠の母親、風野星華だった。当然、彼女が甦っているわけではない。


「なんで……」

「驚いたでしょう? 私は死んでいるのだから」


 快は気付いた。これは死ぬ間際に星華が残した遺志の残骸。おそらく、彼女の最期のメッセージだ。


「よく聞いてね、快君。この細胞バンクは風野秀生が設立した篠原義臣を救うための組織よ。だけど、秀生の頭脳を付け狙う組織がちらつき始めた。一つが『ブラッド』、そしてもう一つが『ドラッグ』。片岡航生が潜入している掃除屋よ」


 快は黙って聞いていた。もうすぐ全てが見えてくるからだ。


「きっとあなたのお父さんは秀生を何とかして取り戻そうとしている。それであなたに多くの不可解な行動をとっているようにも思わせるでしょう。だけど理由は必ずある……」


 そうだろうと快は思う。だが、いつもよりどうしても納得いかないことばかりが多ければ疑ってしまう。


「おばさん、どうして父さんはそこまでおじさんを取り戻したいんだ? 細胞の解析が不可能でも、SHINのように造られたって人間だろう?」


 それを聞いて星華は微笑んだ。一番聞きたかった答えだから……


「そうね、快君。だけどね、あなたのお父さんは科学者の風野秀生でも一般人でも助けたと思うわ」

「どうして……」


 星華はキリッとした表情で言い切った。


「篠原義臣はバスターだもの。それ以外の理由なんて必要ないわ」


 すっきりした。ただその気持ちが快を包む。掃除屋なら任務を遂行するのが絶対条件。助けると決めたら何がなんでも助けるのだ。


「おばさん、翡翠に何を伝えたらいい?」


 星華のグラフィックが消えていく。それは遺志が消えていくこと……


「親が望むことは一つよ。『幸せになりなさい』……」


 星華は完全に消えた。そして快は意識を取り戻し天井を睨む。感じるのは気配……


「出てこいよ、ドラッグ!!」


 快が放った一撃の魔法は天井に穴を開けた。そして現れた男が一人……


「……ようやく辿り着いたようだな。快」

「おじさん!?」


 なんと! 現れたのは片岡航生だったのである!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ