第四十三話:真実
夢乃は呆然と立っていた。義臣が人間じゃない、それが事実かどうかが現代医学でも科学でも証明できない。だけど人間としての性質は備わっている。義臣はそんな存在だった。
「義臣君……、確かにあなたの本当の両親は不明だけど……」
「ああ、俺は物心ついた頃から『ギャンブラー』に預けられていたからな。確かに人間としての成長は遂げて来たが、人間として不可解な事が多すぎる。俺を構成する細胞と血液は世の中に存在しないんだ」
星華は息を呑んだ。世の中に存在しない存在がここにいる。
「もちろん人として生きるのに事欠きはしないが、快に遺伝してしまう可能性が高かったんだ。
その結果、何とか血液だけは夢乃の遺伝を受け継がせることに成功したが、その他全ては俺だった」
出来れば継がせたくないものだった。しかし、どうしても快に受け継がれてしまったのである。
「自分が人間じゃないかもしれないと快が思った時、そんな訳無いだろうと笑い飛ばしてやりたいんだ。だから風野博士は細胞バンクを立ち上げてくれた。信じるなって方が無理だろ……」
「義臣君……」
星華はそれ以上何も言えなかった。義臣の苦しみはもちろん、扉の外で必死に泣くのを堪えている夢乃の気配を感じていたから……
「社長っ! 大変です!」
氷堂仁が屋根裏から下りて来た。その体には無数の切り傷を付けていた。
「仁! どうしたんだ!? 早く治療を」
「止めてください! 総隊長が暴走しています!」
「龍一が!? なぜ」
「霧澤部隊長が戦死! 風野博士が行方不明になりその犯人を殺すために味方にまで危害が!!」
それを聞いて義臣は瞬身で消えた。龍一が暴走したとなれば時空間そのものが破壊されているはず。最悪の場合、龍一まで失ってしまうからだ。
「何処だ! 美咲を殺したのはどいつだぁ!!」
「総隊長!! 怒りをおさめてください!! このままでは味方まで……!!」
言い終わる前に完全に威圧されてしまう。味方の声など届いてなかった。
「お前達、下がってろ」
「社長!!」
義臣は龍一の前に立った。
「龍一、時空崩壊の力を解け。これは命令だ」
「義臣……、美咲は誰に殺されたんだ? あいつを光にしたのは誰なんだよ!!!」
「守龍!!」
龍一の怒りを義臣は龍神を使って守る。時空間は完全に歪んでいた。
「あいつは俺達を守るために命を散らした! それを無駄にするな!」
「ふざけるなっ!! あいつが自分を犠牲にしなければならない敵ってなんだよ!! 風野博士じゃねぇのか!!」
「違う!! 博士じゃない!!」
「じゃあ誰だあ!!!」
時空間に更なる亀裂が生じる。もはや感覚すら鈍り始める。
「……あいつが封印したのは風野博士のダミーだ」
「そんな馬鹿なことがあるものかぁ!!」
「きけぇ!!!」
龍一を怯ませる強烈な覇気が空間を支配した。
「……美咲はメッセージを残してたんだ。俺が造られた人間だという可能性は知っているな」
「……それがなんだよ」
「同じなんだよ……、俺と同じ細胞だったんだ……」
義臣の片方の目から一筋の涙が流れていた。風野博士は人間だと証明されている。それは翡翠が生まれていることで疑いようのない事実だった。
「じゃあ……、美咲は」
「俺と同等か、それ以上の力を持つ風野博士のダミーと戦って死んだんだ」
「じゃあ風野博士は……」
「美咲が残してくれた記憶を覗いた。風野博士は何人も造られ、本物は捕らえられていた!!」
龍一は一気に力を落とした。人の記憶を完全にたどる能力を持つ義臣の力を疑えるはずがない。それが光となった人間のものでもだ。さらに美咲のことだ、死ぬ前に確実な情報を残しているはずだ。
「一体黒幕は誰なんだよ……」
「探すしかないんだ。何年かかっても」
そして時は現代へ……
「やはり霧澤美咲と同じだ。君は弱い」
風野博士は気絶した龍一に吐き捨てるのだった。




