第四十二話:風野星華
リミッターをはずしたバスターが戦える時間は知れている。特に美咲の場合、物体そのものを消滅させる力を放っているのだから……
「すばらしい……! さすがはTEAMのサンプルだ」
「ほざくなっ!」
美咲は風野博士に特攻をかけた!
「召喚、破壊神!!」
破滅を望む神は風野博士に襲い掛かるが、風野博士はその攻撃すら余裕でかわしていた。
「さすがは影。召喚レベルがトップクラスだが……」
風野博士は右手を破壊神にかざすと、破壊神は一瞬にして弾けた。
「この程度は義臣の足元にも及ばないな」
「当たり前だ」
「なっ!!」
刃が後から振り下ろされ風野博士の頬を掠めた。
「幻術だからな」
美咲はニヤリと笑った。それにつられるかのように風野博士も笑った。
「なるほど、リミッター解除で幻術を使うとはたいした戦略だ。ただ突っ込んでくる馬鹿とは違うようだ」
「お前は義臣に匹敵する頭脳の持ち主だからな、リミッターをはずしだけで敵わないことぐらいわかってる。だが、このまま私も戦うことは出来ない」
口から血が流れてくる。早くも体が悲鳴を上げ始めた。
「私の専門分野は禁術に値する。だからこそ、今この力を解き放とう」
美咲はそれだけ言い残すと、自分を光へと変えた。
「まさか!!」
「そのまさかだ。お前を封じ込める。もちろん悠久の時とはいかないが、少なくとも次のバスター達が育つ時間は与えてくれる。お前を殺す役目はあの子達に託す!」
「やめろぉ!!!」
断末魔の叫びと未来へ託された思いだけがその場に残っていた。
その頃、TEAM本社に一人の女が義臣と対面していた。
「久しぶりね、義臣君」
「痩せましたね、先輩」
にっこり義臣は笑った。義臣に会いに来たのは翡翠の母親、風野星華だった。
「翡翠には会っていかないんですか?」
「ええ、さすがに起こせないわ。それにね、私がここに来たのは秀生の研究の危険性を知らせに来たの」
義臣は眉をピクリとあげた。
「秀生はたしかにあなた達を救う手助けをして来たけど、細胞バンクの設立以来、かなりの組織が出入りしている。それが例えTEAMの敵である組織でもその科学を売っているわ」
「……確かに敵を救っていることは黙認している。だが、博士は医学でも無理だと言われている事を可能にして人の命を救っているだけだ。いくら敵であろうと命の重みはある、だから今回のブラッドの件は影を動かしたんだ」
義臣はいくら敵でも救える命は救いたいと思っていた。抹殺指令を出すことは多々あるものの、一般のバスターまで殺すつもりはないのである。
「……義臣君、だけどクローン人間の研究は何のためにやってるのか説明がつかない。私も科学者として言わせてもらうわ。
秀生を信用しないで。いくら快君の細胞操作を施して優秀なバスターを作り上げてもそんなの命を弄んでるとしか思えない。何より、作られた人間だって快君が知ったらどうするの?」
星華は悲しい目を義臣に向けた。だが、それ以上に義臣は苦しそうに答えたのだ。
「先輩、風野博士が救ってくれたのは快だけじゃないんだ」
「救ったって……、それは」
「違わない。風野博士はTEAMを裏切るような人じゃないんだ。先輩だってそうじゃなければ翡翠を産まなかっただろう?」
確かに義臣の言う通りだ。誰もが風野博士を信頼していた。それだけの事を風野博士はしてくれたのだ。
「先輩、細胞バンクの本来の目的は俺の解析できない細胞を調べるために風野博士が設立したんだ。普通の人間の細胞が解析出来ないなんてことがあると思うか?」
それが物語っていることは一つだけ……
「博士が救おうとしてくれてるのは俺自身だ。俺は人間の可能性が低いんだよ」
衝撃の告白だった……




