第二十六話:小さな笑み
戦闘指揮官と言えば快達の表のチームと影を統括し任務に当たる隊長のこと。分かりやすく言えば、TEAMの上から三番目のポジションだ。
「すごいね、龍一おじ様。いきなり戦闘指揮官になっちゃうんだもん!」
無邪気に笑う翡翠とは対称的に、快はこの人事に間違いなく説教をするはずの人物の事を考えて頭が痛くなっていた。
「鬼の副社長が戻って来たら何と言うか……」
義臣の暴走を止められる副社長は数ヶ月間不在である。しかし、TEAMのピンチは伝わっているはずであり、戻って来ても良さそうな気もするが彼は別任務で未だに戻って来ない。
「大丈夫だよ、快。龍一おじ様は凄腕のバスターなんだもん。さっきだって皆の士気が一気に高まってたじゃない」
翡翠の言う通り、あの威圧感と戦闘能力は戦闘指揮官になっても不思議ではなかった。
「ああ。まあ、そうなんだろうがやっぱり腑に落ちない点がいくつかあるんだ。細胞バンクの任務は親父達が出るまでの案件になってる。だが、当人達は先発隊にも本隊にもならない。援軍にしちゃ強すぎる」
「確かにそうだね」
二人の話に紫織が書類をもって入って来た。
「快、社長から今度のチーム編成と援軍リストを預かって来たわ。作戦決行は明日の正午になったわよ」
二人は驚きを隠せなかった。快は急いでリストに目を通す。
「……紫織、お前が援軍か」
「ええ、残り三名は治療兵の編成ね。戦力の増強は期待しないでちょうだい」
ありえない事だった。しかもその三人の治療兵は全員下っ端、戦闘スキルはほとんどなく、どちらかといえば紫織を除いて快達が守らなければならないようなメンバーだ。
「なるほど、これで確定したな」
快は珍しく冷や汗をかいた。考えたくないが、考えなければならない答えがあったからだ。
「今回の任務、俺達が捨駒だ」
「ちょっ、捨駒って……! おじ様はそんなことしないよ!」
「快、私もそう思うわ。きっと私達にも言えない重大な事があるのよ。いつだって有り得ない作戦を思い付いてるじゃない」
翡翠と紫織は否定するが、親子だからこそその考えを理解してしまう。
「ああ、俺もそう思いたいがどうも今回の親父はおかしい。それを信じる方が難しい状況ばかりなんだよ」
「だけど信じなくちゃ」
翡翠が真っすぐな目をして快と向き合う。
「社長の命令は絶対なんでしょ、快だって隊長なんだからそれぐらい理解してるはずじゃない。もちろん咲ちゃんの事もあったし、私達に話してくれないことも多い。
だけど、最後はいつも裏切らないじゃない。快が一番よく知ってるでしょう?」
翡翠のとびきりの笑顔には敵わない。紫織の小さな笑みが快の心を表していた。




