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第十九話:大原ちゃん

 篠原義臣という男は、昔から掴みどころがない。その男の頼み事となれば、当然厄介事だ。


「一体何を頼んでくる?」

「あっ、大原ちゃん相変わらず嫌そうな顔だ。そんなことじゃ血圧上がるぞ」

「お前が上げたんだろう! 全く、教師生活二十四年でお前達ほど手のかかった奴らはおらん!」


 大原は義臣に文句をたれるが、それはどこか嬉しそうでもある。


「まあまあ、その分息子はしっかりしてるから許してくれよ」

「佐原に似た性だろうな」


 「佐原」は夢乃の旧姓である。


「まぁな。それでさ、大原ちゃん、瀬野の行方知らない? 俺達の情報網でもあいつは捕まらないんだ。大原ちゃんなら少しは分かるんじゃないかと思ってさ」

「……TEAMの情報網に引っ掛からないとは瀬野らしいが、息子はどう思ってるのかね」


 大原は溜息をついた。息子の瀬野龍二はおそらく物心つく前に父親が行方不明になっている。

 その理由は未だ龍二に語られていないが……


「龍二はまっすぐ育ってるよ。で、どうなの大原ちゃん」

「……おそらくエジプト辺りだろうな。ただし、三日前の情報だ」

「充分だ。どうもありがとう」


 義臣は瞬身でその場から消えた。


「やはり忙しそうですね、篠原君は」


 学園長は穏やかな笑みを浮かべていうと、


「少しだけ焦ってる感じにも見えました。おそらく、瀬野まで召集をかけなければならない事態なんでしょう。細胞バンクが絡んでると聞いていますからね」

「そうですか……。ですがうちの卒業生なんですから大丈夫ですよ」


 学園長はお茶を一杯飲んだ。



 その頃、修は一つの真実にたどり着いていた。


「何なんだよ、このデータ」


 細胞バンクから届いたのであろう、一人の人間のデータを見て修は青くなる。


「デザインチャイルドというものだ。お前がよく知ってるお仲間だろう」

「誰だ!」


 修は背後からかけられた声に対して殺気を放つ。


「私か? アメリカの細胞バンク支部の所長だ。名はライ・タナーと言う。博学な時枝修なら聞いたことはあるだろう?」

「……なるほど、生物学者ならこいつを造れそうだ」


 修はあくまでも冷静をよそう。こんなことが現実になっていいはずがない。


「そうだな、まさか私の研究をTEAMが取り入れていたなんて知らなかった。篠原義臣はやはり天才と言うわけだ」


 ライは不敵に笑った。




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