第十八話:雨
通学はいつも翡翠と一緒だ。もちろんお互いに朝練がない日だが、そんな時間こそ大切だと快は思っている。
「本当に雨になっちゃった。白ちゃんが言ったとおりになったね」
ピンク色の傘をさした翡翠は笑いながら快に言うと、当人は不可抗力とでも言いたそうな顔で答える。
「梅雨時なんだから仕方ないだろう。それにしても修の奴、陽子とうまくいったのか?」
昨日の勉強会以降、修の姿を全く見ていない。彼は警察からの任務に駆り出されたため、まだ戻ってきていないからだ。
そして何より気掛かりなのが今回の任務に修は加えられなかったこと。陽子が関わってるなら義臣の性格上、修を入れると思っていたのだが。
「わかんないな。修ちゃん、恋愛についてはほとんど話してくれないもんね」
翡翠の言うとおり、親友の快にすら恋愛については話してくれない。元々その方面を話題にすること自体がないと言えばない。余程困ったことになれば、自然に翔達が動いてくれる性もあるのだろう。
「大体、修の奴は焦ったことがなさ過ぎる。陽子みたいな良い奴に悪い虫が付かないわけもないだろうに」
「そう言えば先輩達に人気あるみたいだよ。陽子ちゃんと咲ちゃんのファンクラブ出来たんだって」
「龍二が間違いなく荒れるな……」
咲の婚約者であるだけに龍二の荒れようが嫌でも浮かんでくる。白真がそうだったように、龍二も代表者を締め上げるだろう。
「話がそれたな。それより翡翠、お前に頼みがあるんだが」
「何?」
珍しいことがあると思った。快が改まって翡翠にものを頼むことなど滅多にないことだったからだ。
「陽子の動向をしばらくの間見ていてほしいんだ。一応俺も警戒はしてるんだが、何かあった後じゃ遅いからさ」
本当は少しだけ違う。陽子を見張れというのが任務。しかし、それを伝えればチームワークが乱れる恐れがある。
それに翡翠もバスターとして気付いたのか、特に何も言わず了承した。
「……分かった。だけど快、私は信じてるからね。陽子ちゃんのこともおじ様のことも」
「ああ、すまない」
雨は少しだけ勢いを増した。
そしてその頃、学校に珍客とも言える来客者が現れる。
「篠原君、久しぶりだね」
学園長が懐かしそうな笑みを浮かべると、その男は昔と変わらず明るく答えた。
「ああ、久しぶり学長! 実はさ、少し頼みたいことが」
「もう少しその口の聞き方は直せんのか! 篠原義臣っ!」
そして現れる快達の担任であり、かつて自分達を受け持っていた大原が怒鳴って入室して来た。
「おっ、大原ちゃん! 丁度よかった。頼みたいことがあるんだ」
珍しく一瞬だけ真面目な表情を向けた義臣に、大原は少しだけしかめっつらになった。
しばらく放置してました、すみません! いよいよ話もバトルに入り始めます。期待していてください(する人がいるのか!?)




