第十三話:三年前のミッション
中学入学前、相川家の兄妹達は留学という名のもと、アメリカの細胞バンク支部に潜入調査を命じられることになった。
「修、待っててね。手紙も書くし電話もするから。だから絶対に忘れないでね」
涙ながら陽子は言うと、修は小学生にしては卓越していたのか、相変わらずな不器用な態度で答えた。
「長年の幼なじみを忘れる阿保がいるかよ。待っててやるからさっさと行ってこい」
これが最後だった。その後三年間、陽子にとって最悪の日々が始まる……
口元まで隠した黒装束、まるで忍者のような出で立ち。中学一年生の幼き少女を闇の世界へ誘った証だった……
「哲兄さん、学兄さん、敵は眠らせて来たよ」
陽子は不適な笑みを浮かべた。細胞バンク支部、任務はいたって簡単だった。細胞バンクの細胞のデータを全て回収し、それを義臣に送ればよかった。
「香、地図は頭に入ってるか?」
「それを私に聞く?」
ふわふわの茶色のロングヘアーの美女は膨れっ面をして答えた。彼女が哲の婚約者だった。
「そりゃ、一番とちりそうなのがお前だからよ」
「私は立派なバスターです! さっさとデータの回収に行くわよ!」
香は瞬身でその場から消えた。
「兄さん、あまりからかってやるなよ。来年には結婚するんだろ」
学は少しからかう口調で兄に言うが、
「さぁな、戻れるのが来年になればいいんだがな」
「どういうこと?」
陽子は不思議そうな顔をした。そして、彼女の目の前に試験管が二つ出される。
「陽子、もし何かあれば敵にそいつを渡せ。殺されることは決してない。バスターならいくらでも機転を利かせた理由が言えるな」
いつになく真剣な面持ちで哲は尋ねると、
「もしもの時でしょ。大丈夫、兄さんが隊長で失敗するわけがないわ。それに私だって「影」の一員なのよ。簡単にやられるもんですか」
陽子はニッコリ笑った。それに安心するかのように哲は微笑を浮かべると、
「じゃあ、行くか。凄腕のバスターと一戦やらかしに」
眠らないバスターとの戦いが始まろうとしていた。




