隠し子
この話で一区切り。つぎの章こそヒロインを。
「――な、おきな。リュートちゃん、早く起きな!」
「なんだ……ん? コニーさん?」
目を覚ますと枕元にコニーさんが立っていた。
夜這いか?
そうか、俺のヒロイン枠はコニーさんだったのか。
それなら仕方ない、俺も覚悟を決めよう。
「コニーさん、初めては優しくしてもらえると嬉しいっス」
「はぁ? アンタ何言ってんだい。早くしな、みんな集会所で待ってるよ」
「集会所?」
ようやく頭が覚醒してきた。
集会所で何があるかは知らんが、一つだけ間違いないことがある。
寝起き早々やらかしたみたいだ。
「あの、コニーさん。色々忘れとほしいッス」
「はぁ、なんだい、こんなオバサンに興味があるのかい? まぁ良いオトコになったら相手してあげるよ」
冗談っぽく茶化してくれる。
姉さんから、ありがたいっス。
あと10年早かったら惚れてたッス。
「あはは、それでどうしたんスか?」
「魔獣とやりあったんだろ? 大方その事じゃないさね。 男達は話し合いしてるみたいだよ」
「んー、倒したのがまずかったとかあるッスか」
「そこは問題ない筈だよ。詳しくは村長から聞きな」
集会所に向かうと村の幹部が集まっていた。
コニーさんは座らずに俺の後ろで立っている。
正直オッサンの話し相手をするのは面倒なのでスルーしたい。呼びに来たのがコニーさんじゃなくて他のオッサンなら華麗な寝たフリを披露していただろう。
「来たか、疲れてる所でスマンが、もう一度話を聞いても良いじゃろうか」
「何かあったのか?」
「あのあとお主の言ってた場所に皆で行って確認しての。儂も含め、他の村人にも説明して欲しいんじゃ」
「説明もなにも、村長依頼→森→カブトムシ→猫襲撃→スパパパパ。以上だ」
村長だけが頷いている。
他の村人は続きはと言わんばかりの顔だ。
やはり村の教育程度では理解力が足りないみたいだ。
「どうじゃ、分かったか? リュートにとっては何でもない討伐じゃったようじゃの」
「しかし村長。戦闘跡は切り裂かれた死体もありましたが、潰されたような跡や謎の堀まで出現していました。ドラゴンが偶然倒してしまったんじゃ」
「では、リュートが森へ行き、マーダーリンクスを倒していたら偶然通りかかったドラゴンが代わりに倒したが、村も襲わず帰っていき、リュートも返り血塗れの無傷で村へ戻ったと?」
口をモゴモゴさせながらオッサンは何か言いたげにしているが、言葉が出てこないようた。
あんまり村にいないから忘れたが、商人のなんとかってオッサンだ。
俺はまだ状況が飲み込めないので村長に確認する。
「村長? これはどういう事なんだ」
「情けない話じゃが、戦闘跡を見ても信じないバカ者がおってな。咎めはせんから正直に言ってほしい。あの堀はなんじゃ?
?」
「本当だな?」
「ああ、今日森で起きた出来事について、一切の責は問わん。金銭的な問題も含めてな。」
下手に言質を取られたら堪らないからな。
村長は信用しているが他のオッサンに騒がれても面倒だ。
「ちょっと技の確認をしていてな。派手にやったら吹き飛んだ。」
「お主ならそうじゃろうな。」
「しかし村長。あんな光景は人間業で作れるものではありません!」
何か気に食わないのか、俺がやったと認めたくないようだ。
村長になんとかしろとアイコンタクトすると、ため息をつきながら口を開いた。
「ミゲルよ、お主は高ランク冒険者の戦闘を見た事がないじゃろ? あ奴らの戦闘は儂ら一般人とは隔絶しておる、戦闘においてなら金塊と石ころ程に差がある」
「それは高ランク冒険者の話です、この少年には無理です!」
いい加減にイライラしてきた。
つまりコイツは俺が詐欺師で村長も騙されているか、仲間になったと言いたいんだな。
剣は無いがコイツをひき肉にするのは素手でも十分だ。
「おいオッサン……信じないならお前で試してみるか?」
皆が一様に青い顔になって、ガタガタ震えだした。
村長も辛そうな顔をしながら。
「リュ、リュート、落ち着いてくれ。年寄りには堪える」
村長までチワワみたいになっていたので、若干和んだ。
いかんいかん、感情的ななっていた。
ビークールだ。
「これ以上の問答は無意味じゃ。今回得た素材については全てリュートへ。木材で使用可能なものは村の共同所有とする。村長としての決定とする、今日は解散じゃ」
家に戻り、村長とコニーさんで食卓を囲っている。
飯はコニーさんが持ってきてくれた。
流石どく……ゲフン、できる女である。
「それで今日アレは何だったんだ?」
パンをかじりながら村長に話を振る。
いつもより柔らかいパンだ、ウマイ。
「そうじゃな、先に謝らせてくれ。色々済まんかった」
「なんの事かわからんが、別にいいさ」
「お主が討伐した魔獣じゃがマーダーリンクスと言ってな。群れでCランクじゃ。普通は5〜6匹くらいで群れとる」
「数十匹はいたんだが」
「そうじゃ。異常と言ってもいい。それを無傷で倒すお主の戦闘力も相当異常じゃがな、見に行ってビックリしたわい」
なるほど、想定以上の敵がいたんだな。
村長にとっても予想外だった訳か。
「異常の原因は馬鹿デカいマーダーリンクスじゃろうな」
「ああ、アイツか」
「上位種か亜種じゃろう。ランクはB以上はあるじゃろう」
RPGなら最初は弱い魔物からなのにイキナリ中ボスが出てきたんだな。
「ずっと絡んできたミゲル。あ奴は商人じゃからな、魔獣の素材が魅力的だったようじゃな」
「素材?」
「爪や牙、毛皮に魔石。魔獣のランクによるが、高ランク素材や希少素材なら高価になる」
「じゃあ素材が欲しかったのか?」
「恐らく村の共有財産として自身で売りたかったんじゃろうな。つてさえあれは旨味のある商いじゃ」
素材なんて知らなかったし、村長の家で過ごしていれば金もほとんど必要ない。
最初から村長に頼んでいれば俺も代理販売をお願いしたが、今はあの男に利益を渡したくはない。
「売るとしてもアイツに関わらせるのは嫌だな」
「ホッホ、馬鹿なことをしたもんじゃ」
村長が陽気に笑ってこの話は終わりかとおもったがコニーさんが話に入ってきた。
「村長、それだけじゃないね」
「む、むぅ……」
「どういう事ッスか?」
バツが悪そうにしている村長をスルーしてコニーさんに問いかける。
「リュートちゃんはアタイが想像してたよりかなり強いみたいだね、ランクAかBってとこかい?」
「恐縮っス」
「あと、村でアンタがなんて言われてるか知っているかい?」
「知らないッス」
他人は他人で俺は俺。
何を言われても、知らない所で言ってる分にはどうでもいいからな。
鮮血の貴公子なんて言われるのはゴメンだが。
「そうだろうね、アンタは村長の隠し子が冒険者になって戻ってきたと噂だよ」
「ご近所の奥さん達はそんな事言ってなかったッスよ?」
「この村にも派閥があるってことさ。村長の孫がいきなり出てきたら周囲はどう思う?」
村長の孫なんて想像したくない。
この加齢臭が遺伝すると考えるだけで嫌だ。
「感動の再会オメデトウ」
「馬鹿言ってんじゃないよ。まぁ次期村長候補じゃないかって考えてんだろう。」
「俺が?」
「そうだよ、それぞれの派閥の村長候補と、現村長派の村長候補にとっても動揺せずにはいられないのさ」
内側で争っていたら、外側から掻っ攫われた状況か。
「力を示して、素材を売って金もある。将来性もある孫なんて他の候補にとっては脅威だろうから、今のうちに牽制したり力や金を削ぎたいんだろうね」
「そうなのか村長」
「ま、まぁ、そうじゃな……」
喋りたくなさそうに、言葉少なに肯定する。
「村長派の次期候補。面倒だ、ニックは気にして無いみたいだったからその周りも俺を警戒してるのか?」
「どうしてそれを……まぁ、そうじゃ」
村長宅に住んでいる時点で疑われても仕方ないか。
そういえば、会議の時に村長の援護を誰もして無かった。
村長の求心力が落ちているんだな。
「仕方ない。俺も長居しすぎた。そろそろ村を出ようか」
「こんな事言ってゴメンよ。リュートちゃんには2回も村を救って貰ってるのにね」
「今なら俺が出ていけば元通りッスから」
良い機会だろう。
ここの居心地は良いが、俺もやりたい事があるしな。
「リュート、出ていかなくても大丈夫じゃないかの? ほら、あんまり煩いようなら隣に離れを建ててもいいじゃろうし。おお、村の余ってる家に住むのも良いかもしれん。村長として恩を仇で返す訳にはいかんし――」
「村長、淋しいのはわかるけど無茶言っちゃいけないよ。このままだとニックが村長にはなれないよ。亡くなった奥さんに約束したんだろ?」
「むぅ……」
子供みたいなつまんない丸出しの表情をしても可愛くないぞ。
「村長、俺も出ていきたい訳じゃないが、これ以上は状況がよくない。会えなくなるわけじゃない。また来るさ」
「そうだよ、聞き分けな」
「……………………」
村長が無言で部屋に戻って、ワイン壺をかかえて持ってきた。
「リュート! 飲もう!今日はしこたま飲むんじゃ!」
「よし、アタイも家からとっておきを持ってくるからね」
「仕方ないから付き合ってやろう」
コニーさんも参加して飲み会が始まる。
こうして、俺の旅立ちが決まった。
やっと旅立ちです。このままでは危うく農村コニーendになるところだった……