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オッサンズイレブン

女性に手を引かれて集落に走らされる。

空いた手には鞘に入った剣を持っているが、嫌に重い。

捨ててしまおうかと考えたが、彼女からのプレゼントは大事にしないといけない。


「みんなっ!」


集落の中では大きい屋敷のまえで爺さんと婆さん、あとオバちゃんが汚いオッサン達に農具を構え威嚇している。

建物からは子供や女の子が顔を出しているので、逃げてきたのか追い込まれたのかは知らないが立て籠もっているんだろう。


「おらぁ!しっかり防がないと死んじまうぞぉ!」


オッサン達は嬉しそうに剣を農具と打ち合わせる。

全員で襲いかからないのは、きっと遊んでいるからだ。


「もう直ぐ男衆が帰ってくる!村から出て、ぎゃぁ!」

「ペラペラ喋ってんじゃねぇよ!俺ぁ殺りたくて犯りたくて仕方ねぇんだ!そんなんじゃ遊べねぇだろうが!」


オッサンの足元には数人の老人が転がっている、仲間のオッサンは爺さんの首を斧で切り落として屋敷に放り込んで笑っていた。


だが、そんな事よりも女性の手を握ったのは小学生以来という重大な事実に気がついた。


「なんてことだ……」

「ひどい、ひどすきる!」


確かに酷いが、女性に言われると凹む。

しかし、勉学に励む学生の精神はそんなことでは……


「おお?何だお前!良い女連れてるじゃねえか!女を置いてテメェはくたばってろ!」


こちらに気付いたオッサンが剣で斬りかかってくる。


「お前は……俺の出会いを邪魔する気か!工業系男子を舐めるな!」


思わず手に持った剣を抜き放ち、大振りで斬り下ろしてくるオッサンの両手首を切り飛ばす。

身体との繋がりを失った手首と剣は明後日の方向に飛んでいった。


「うわぁぁあ!手が!俺の手が!」

「五月蝿い」


喉元を斬りつけると赤い泡を喉元から吹きながら倒れた。

俺も繋いだ手を離してしまったんだから当然の報いだろう。

もう一回手を出したら繋ぎ直してくれないかな。


「カーラおばあちゃんまで……冒険者様、お願いです。盗賊を皆殺しにしてください!」


涙を流し、憎悪に満ちた瞳で懇願してくる。

そもそも盗賊が居なければ、水を分けてほしいという出会いから始まったはず。

現状でも手を繋いで抱きつかれたんだから、出会いがまともなら既に付き合っていてもおかしくない。


「そうか……コイツらは敵だな。わかった、任せろ」


彼女に隠れるように言い、オッサン達を睨む。

オッサン達も、さっきの悲鳴を聞き俺を半包囲してくる。

10人、いや11人で囲んでくる、待機要員がいないならこれで全員だろう。


「おいガキが、舐めたマネしてくれてるな?」

「襲いかかって来たのはそちらからだが?」


オッサンの中でも唯一宝石や金を身に着けているのはコイツだけ、恐らく頭だろう。

着飾ってはいるが、酷く不潔で髪も油で固まっていて風呂にも入ってないんだろう。

不潔頭が似非紳士な態度で話しかけてくる。


「俺は優しい。武器を捨てるならすぐに殺す。捨てないならなぶり殺しだ」

「あ?何言ってんの?バカなの?死ぬの?」


人生で一度は言ってみたかったセリフなのでちょっとだけスッキリ。

武器を捨てないと見て、オッサン達はジリジリ距離を詰め近づいてくる。


「おい兄ちゃん、そんなに後ろに下がって逃げたいんでちゅか?がっはっは」

「へへ、ガキが、逃げてんじゃねぇよ」

「今更、降伏しても無駄だぁ!なぶり殺し決定ぃ!」

「くっ!」


俺の周囲を囲むオッサンとオッサンとオッサン、地獄のようだ。

何よりも……くっさい!

尋常じゃない臭さだ。

臭いオッサン達ににじり寄られる、悪夢のようだ。


「お前ら……この所業、いくら温厚な俺でも許さん!」


現代において、悪臭は訴訟の対象にもなるのだ。

恋路の邪魔をした上スメハラまでしてくるとは。

もはや一切の慈悲は必要ないだろう。


「野郎共…………ぶっ殺せ!」

「「おおおおおおぉ!」」


不潔頭が号令をかけると、4人が襲いかかってくる。

臭いはガマン、一番左のオッサンに突っ込み喉元を突く。


「ふっ」

「なっ!うぇば!」


突き刺さったと同時に蹴りを入れて引き抜く。

崩れ落ちるのを横目に隣のオッサンの脇腹を横薙に一閃。


「よくもやりやっ、ぐぅわ!」


腹の中身がこぼれ落ちちる。

剣を手放し落ちそうな中身を大事そう抱えているのでそのまま袈裟がけに斬り捨てる。


「貰ったぁああ!ぐはぁ」


返す刀でそのまま後ろから襲ってきたオッサンも斬り捨てる。

せっかくのチャンスなのに背後から声を出すとは馬鹿以外の何者でもない。


「うわ!服に血がかかってるっ、畜生。クリーニング代は請求するからな!」


残ったオッサンにクレームを付けると、俺を睨みながら仲間の元へ後退していく。


「オイオイ、随分仲間をやってくれたな。只のガキかと思ったが冒険者か?」

「それが、お前らに関係があるか?教えて欲しいか?教えて欲しいなら靴を、いやスリッパを舐めるか?」


オッサンナインになってしまったからか、余裕のない苛ついた口調で話しかけてくるが当然の如く煽る。

顔を真っ赤にして馬鹿みたいにプルプルしてる。

戦術上、相手を煽り感情を乱すのは当たり前だが、俺の場合は趣味だ。

ゲームでは煽りすぎて運営から警告が来たくらいだ。


「お、面白えガキじゃねえか。だが剣の腕は確かなようだ。何だったら一緒に盗賊でもしねえか?コレが最後のチャンスだ」

「この状況で、『うん、ボク盗賊になりた〜い』って言うと思う?ってか臭いから嫌。ごみ捨て場の親戚とははちょっと仲良くなれる自信はないな……せめてハエより清潔になって、猿より賢くなってから口を開こうか、臭いから」


怒りで口をパクパクしているがその顔がちょっと面白い。

コレで臭くなかったらもっと煽るんだけどな。


「ひと固まりになって轢き潰すぞ!絶対にぶっ殺せ!八つ裂きだ!」


囲む戦法をヤメて不潔頭以外の8人で突っ込んでくる。

中世の戦争みたいな戦法だな。

だか、陣形もクソもない、集まって突っ込んで来るだけの突撃なら怖くもない。


「「「うおぉぉぉおお!」」」


斬り合いで血に酔ったのか俺のテンションも高く、つい封印した筈の中2の心が顔を出した。

ゲームではよくこんなシーンがあって、勿論吹き飛ばしたが、それもあり余計にハイテンションになってる。


「ふん……己の悪行をその身に刻め、今こそ断罪の刃受けよ“戦技 断一閃”!」


勢いで渾身の中2フレーズと共にゲームの技名まで言ってしまった。

先頭の男を横薙にすると

……なんか出た。

なんか出たやつが剣から飛んで行き、不潔頭も含めオッサン達を上下に分割し、そのまま後ろの建物をぶっ壊して消えた。


「「「おおおおおおおおお!」」」

「おお!剣士様が勝ったぞ!」

「冒険者様かな?カッコよかった!剣からビューンって」

「良かった……もう駄目かと……」


つい溢れた中2の魂に悶絶しそうになるが、それより建物をぶっ壊した責任を取らさせるのはかなわん。

こうなれば……


「あれ?剣か?コレは剣のせいに違いない!あー剣かー、剣なら仕方ないなー」


沸き立つ村人達をチラチラ見ながら必死に言い訳を重ねた。

今日はここ迄です。

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