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3-19 ラーチャとマキシー


 ラーチャは16才の少女だ。

親方のシャリファが魔人軍に徴用され

ツイーネに渡ってから一年がたつ。

消息は不明。


 ラーチャは幼少の頃にテイマーとしての能力が発現したのだが、

上手く魔物をテイム出来ない時もあり

テイマーとしては三流止まりであろうと周囲から言われていた。


 だが父の友人であるテイマーのシャリファはラーチャの才能を

見抜いていた。


 まだ幼い頃シャリファに言われたことを思い出す。

「お前は魔物をテイムする能力は確かに三流かもしれん。

だが魔物を含めた動物を惹き付ける才能がある。

テイムと言うよりもチャームだな」


 ラーチャの才能を見抜けたのはシャリファ本人がチャームの才能を

持っていたからに他ならない。

シャリファはツイーネに渡る時も良く懐いていたブロンズウルフ

五頭を連れて行った。


 もうあの子達がしっぽを振って

シャリファにまとわりつく姿を見られないかも知れないと思うと

ラーチャは悲しい気持ちになった。


 その気持ちを察したのか一頭の黄金の毛並みを持つ狼が

ラーチャの足に頬をすり寄せてきた。

「マキシー、お前。それは猫がやるしぐさだよ」


 マキシーは雄のゴールデンウルフだ。

子供の頃にシャリファと一緒にコボルトの集団を

密林に帰しに行った帰り道、

一匹のやせ細ったゴールデンウルフの子供が

大木の下に横たわっているのを発見した。


「ねぇシャリファ。この子死んじゃうの?」

「この子は生まれつき身体が弱かったんだろうね。

おそらく親から間引かれたんだと思うよ」


 ラーチャはその金色の子狼をそっと抱き上げた。

「まだ息があるわ。助けたいの。だめ?」

「うーん。もう幾日も保たないと思うよ。

しかしこれもいい勉強になるだろう、

やれるだけやってみなさい」

シャリファは上着を脱ぎ子狼を包んで家まで運んでくれた。


 ラーチャは献身的に介護した。 

牧場に行ってヤギの乳を貰いスプーンで少しずつ飲ませた。

夜は一緒に毛布をかぶり小狼を抱いて寝た。

数日で死ぬだろうと思われた子狼は

一週間後には自力で立ち上がれるようになった。


 元々身体が弱かったのか生まれた時の栄養状態が良くなかったのかは

解らないがマキシーは数年たっても成長が遅く

通常のゴールデンウルフよりも一回り以上小さな体躯だった。

だがラーチャの周りを駆け回る美しい金色の毛並みを持つマキシーは

今や死にそうだった事など感じさせないほどに元気だ。


マキシーは魔物の狼の頂点に立つゴールデンウルフである。

ラーチャが上手くテイム出来ずに暴れる魔物に手こずっても

マキシーがひと睨みすると魔物達はおとなしくなりラーチャも

テイムしやすくなった。


 16才のラーチャと7才のマキシー。

一人と一頭は名コンビだった。


 ある時ギルドに依頼完了の報告に行ったときの事だ。

ラーチャは知らない男性に声を掛けられた。


「やあ君、ゴールデンウルフをテイムしてるのかい?」

「してないわ」

「え?人に懐かない孤高の魔物だよね」

「この子は特別なの。

生まれたての頃に親から間引かれたのを拾って私が育てたのよ」


 その男はギルドに行く度に見かけるようになった。

ヨシフと名乗るその男は冒険者で元軍人だと言っていた。


 カウンターで報酬を受け取ったラーチャは今日もヨシフが

ロビーの隅っこでお茶を飲みながら本を読んでいる姿を見つけた。


「ヨシフのおっちゃん。今日も暇そうだね」

「失礼だな。薬草採取の依頼をサクッとこなして来たところさ」

「そうなんだ。おつかれさま」

「ああ、ラーチャもおつかれさん。

ところでラーチャの親方ってのは誰なんだい?」


「私の親方はシャリファよ。

魔人軍に連れられてツイーネに渡ってから消息不明なの」

「そうか。悪いことを聞いたな。

そう言う話を聞く度に俺たち軍人がもっとしっかりしていればって後悔するよ」

「ヨシフは悪くないよ。謝らないで」


 ヨシフは周囲を見渡し魔人が居ないことを確認すると小声で言った。

「親方の仇を取りたくないか?」

「なんの話?私はテイマーとしては三流だし人も動物も殺せないわ」

「だが魔物達を確実に密林に帰してきてるじゃないか。

冒険者としては一流だよ。

ま、興味があったら今夜『のっぽさんの店』にメシ食いにきなよ」

「うん、気が向いたらね」


 一度家に帰り報償の一部を母に渡した。

「お母さん、今夜は『のっぽさんの店』でゴハン食べてくるね」

「あらあら、デートかしら。やっとラーチャにも春が来たのね」

「そんなんじゃないわよ。ギルドの冒険者仲間と情報交換するの」

「はいはい、そう言うことにしておきましょ。気をつけてね」

「もう、お母さんったら!マキシー、行くよ」


 大概の店は動物を連れて入ると嫌な顔をする。

だがここ『のっぽさんの店』は数少ないマキシーと一緒に入れるお店だ。

店に入り夜定食のAセットを注文。

マキシー用には生肉を頼んだ。


「やあラーチャ。来てくれたんだね」

ヨシフが声を掛けてきた。

「うん。もしかしたらツイーネに親方を捜しに行けるかもと思って」

「行けるかもしれんぞ。だがその前にガウンムアから魔人を追い出さなきゃな」


「そんな事出来るの?」

「できるかな、じゃない。やるんだよ。

この話は魔人に知られちゃいけない。

俺たちはレジスタンスの仲間を集めているんだ。」


「でも私に出来る事なんてあんまりないよ」

「戦闘をすることだけがレジスタンスの活動じゃないぞ。

俺たちは魔人に見つからないように密林に拠点を置いている。

拠点から魔物を遠ざけてくれるだけでいいんだ。

協力してくれればしかるべき時期にツイーネに親方を捜しに

行けるように手配することを約束しよう」


「わかった。でも私は殺しはやらない。そこだけは理解して」

「もちろんだ。ギルドの依頼掲示板で魔物のテイムを見かけたら

依頼主の名前をよく見ておいてくれ。

Mr.リッチと書かれてあったらそれが俺たちからの依頼になる。

それを受けてくれるだけでいいんだよ」


 こうしてラーチャはレジスタンスに加わり、

時々密林の奥にある拠点の警戒依頼を受けるようになった。


 そしてXデイを迎える。

殺しはしないと心に決めた少女と一頭のゴールデンウルフは

否応なしに時代の流れに翻弄される事になっていくのである。


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